4.9.08
未希が大活躍だったようだ。
未希の魔法。
「地面の上で寝てる怖いのを光らせる」
緊張感無しの、バカバカしい魔法。
オレ達が囲まれる要因だった、土の中のウィルコープスは、未希の魔法で煌々と森の中で光を発したらしい。
おかげで、アーネストら第1軍は、ウィルコープスの奇襲を、まったく受けることなく、オレ達の元へ辿り着いた。
そして、オレ達は救出された。
アーネストは、ヘラジカで引かれた荷車を呼び寄せ、先遣隊の生存者と、オレ達を回収し、後方の森の外へと運んだ。
先遣隊で生き残ったのは、わずか6人。
それとオレ達3人の計9人。
オレ達も、アリーとロンを失った。
しかしアリーはログアウト後、現実世界で情報をもたらしてくれたようだ。
ウィルコープスが、地面に隠れているというキーワード。
未希が、地面のウィルコープスをあぶり出す魔法を行使できたのも、あの時死んでログアウトした、アリーのおかげだったらしい。
それと、どこかに、裏切者がいる可能性のこと。
アリーは狙撃されて退場した。
どこか遠くの森か丘に潜み、魔法で狙撃するプレイヤーの存在だ。
たぶん、あいつらだろう。
6カ月以上前、アーネストらとともに、調査でこの地に赴いたとき。
あのとき、森の奥から戻らなかった3人。
エルハム、それと2人のスペイン人。
前哨基地が300体のウィルコープスに襲われたのも、あいつらではないかと推測しているらしい。
いったい、何がしたいのか。
なにが目的なのか。
まぁ、それはどうでもいい。
3人程度じゃ、もう、なにもできないだろう。
たった3人で、何ができる。
それから3日が過ぎた。
集まったプレイヤーは、予告通り4千人。
オレは、アーネストの軍に吸収され、あらたなチームに配属させられた。
オレ、未希、ストーム、ソフィア。
それと、エレーナも一緒だ。
そこにミラーと4人の剣士も加わり、計10人。
リュウジは、守備隊なので、前哨基地に戻った。
ちなみに、オオカミのリュウタは、軍隊の中では邪魔になるらしく、未希のメモリアに置いてきたらしい。
オレ達はアッシュ・バレルには戻らず、森の近くの軍キャンプに留まった。
千人近いプレイヤーが陣を張っていた。
数日前の僅か5人での野営とは異なり、そこら中にプレイヤーがいる。
なんというか、うるさい。
そして、臭い。
夕方頃。
食事の準備をしていると、軍議に出ていたストームとミラーが戻った。
オレ達のチームの隊長は、従軍経験のあるミラーということになったらしい。
特に異論はないが、ミラーはストームを副官に指名し、名ばかりの隊長になると、ミラー自身が自分で宣言した。
要は、ストームに丸投げだ。
それについても異論は無い。
ストームが明日の予定を発表した。
「明日の朝から、エレメント・コアへの進軍が始まる。
わたしたちは、中央軍の第2陣。
出番が回ってきたら、前に出て戦う。以上」
え、それで終わりかよ。
ぜんぜん分からねぇんだが。
「出番って、それが回ってくるのはいつだ」
「たぶん、明日はないんじゃないかな……森の中で1泊して、1陣で負傷者が出たら、そこと交代して前線に出る」
「負傷者が出なかったら?」
「さぁ? この規模になると、わたしたちは将棋かチェスの駒と一緒で、言われた場所にいって戦うだけ」
「なるほど、楽そうでいいな」
「楽かどうかは、配置された場所次第だと思うけど、戦力的にはこっちが圧倒的だし、勝利は確実」
「そうなのか」
「重要なのは被害を出さないこと。もうこれ以上、ルミナス・ノード以降の戦力を減らしたくないんでしょ」
「狙撃してくる、裏切者の連中のことはいいのか?」
「それ、モメてたけど。
下手に少人数で偵察を出して死人を出すよりは、無視して集団のまま前進しようってことになった。今の目標は、とにかく少しでも早くエレメント・コアを征服することなんだって」
「そんなに急いでどうするんだ」
「ルミナス・ノードへの到達時間も、他のエレメント・ノードとの競争。少しでも早く、ルミナス・ノードに到達したほうがいい」
「オレには、なにも分からんが、そういうもんなのか」
経験者のソフィアが口を挟んだ。
「ルミナス・ノードからは、プレイヤー同士の戦争が始まるのよ。
自分達のエレメント・コアは要塞化。
相手のエレメント・コアに攻め込んで破壊。
早く辿り着いて、準備を始めた方が有利にきまってるでしょ」
分からん……
が、急いだほうがいいというのは分かった。
「オレ達は、ワールドカウント24で1年過ごしてるよな?
それは、早いと言えるのか? それとも遅いのか?」
「ルミナス・ノードまでの到達は、平均500日って言われてるわ。
今のペースだと400日よりも早いから、だいぶ有利なんじゃない?」
ミラーが、やや興奮しながら口を開いた。
「エルハムとスペイン人の連中が、俺達を邪魔するのも、到達を1日でも遅らせたいっていう、他のエレメントが仕組んだ工作だろうよ」
なるほどな。
ルミナス・ノードの決戦が始まる前に、すでに旗の奪い合い競争が、始まってるってことか。
「だとしたら、100日早く到達する、知恵のエレメントへの妨害は失敗したのか」
「さぁな。それは分からねぇが、アイツらのせいで、俺たちのプレイヤーが、もう何十人も死んでる。それだけでも打撃だ。
なるべく早く見つけ出して、叩き殺してやらねぇと」
よく分からないな。
そこまでして、ムキになる理由はなんだ。
勝利するってのは、それほど大事なことなのか。
オレには、その価値がさっぱり分からない。
会話が終わったタイミングで、ストームがパンと手を叩いた。
「とにかく、明日は早いからね。見張りの必要はないから、みんなさっさと寝て」
「見張りはいらないのか」
「だって、このキャンプだけで、千人もいるんだよ。
夜警専用のチームも組まれて、24時間警備するから、心配はいらない。
分担も、仕事も、部隊ごとにぜんぶ決められてる。
明日の朝から進軍する部隊は、今夜は、ぐっすり休む。
それがわたし達の、いますべきこと」
「なるほどな……」
ゲームだと思っていたが。
ずいぶんと真面目に、軍隊ごっこをしているようだ。




