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4.9.07 - 友達


 岩を背にして、ティナの横に座った。

 結界の内側から数人のプレイヤーが、ウィルコープスを斬りつけている。


 リュウジは、ロンの周りに群がっているウィルコープスに、匕首を振り回していた。

 エレーナは、さっきから、なにをしてるんだろう。

 岩の近くに生えている黄色い花に話しかけている。


 オレも、なにかしなきゃと思うが、なにもする気になれなかった。


 結界を取り囲んでいるウィルコープスは、数十体。

 森の奥から、数えきれない数のウィルコープスが、続々と集まってきている。たぶん、何百もいる。

 いくら倒してもキリがない。

 ここで数体倒したところで、意味があるとは思えない。


 そもそも、この結界って、いつまで持つんだよ。

 もう持たないのか。それとも数時間持つのか。


 結界の術がとけたら、どうなるんだ。

 オレ達はウィルコープスに切り刻まれるのか?


 まぁいいか。それでも。

 大した問題じゃない。

 あとは、未希とストームのふたりで、楽しんでくれればいい。


 オレには、この世界を楽しむことはできなかった。

 なにが楽しいのか分からなかった。


 だれかに裏切られ、だれかが死んだ。

 何人も死んだ。

 NPCは人生を終え、プレイヤーは現実世界に帰っていった。

 ついさっきも、オレの目の前で、ティナが死んで退場した。

 しかも、オレが殺した。


 オレの革水筒が、ティナの横に転がっている。

 飲み口から、アップルワインがこぼれ落ちている。

 地面の上で、ティナの血と混ざり、土の中に染み込んでいる。

 そのうち、アリでも寄って来るのかな。


 もう、なにもかも、どうでもいい。

 このまま、いますぐログアウトすればいい。

 そんで、ログインデバイスを壊してしまおう。


 そうすれば、痛みも苦しみもない。

 エレーナやリュウジが切り刻まれる姿を見ることもない。


 これ以上、ここで戦う必要がなくなる。

 戦う理由がなくなる。


 左手を上げて、3回叩く。

 ログインデバイスが出現した。


 ワールドカウント24。

 あとは、コネクトに触れて、ログアウトを表示させて、文字に触れるだけ。

 これは、自殺じゃない。逃げるわけでもない。

 現実世界に、帰るだけだ。


 そしたら、また、くだらない仕事をして、ロクでもない日々を過ごすだけの生活に戻るだけ。

 未希とストームには、後で会える。

 文句言われるのかもしれないが、別に構わない。

 なんとも思わない。


 ミラーや、ソフィアとは、もう会わないのかな。

 ティナがどこに住んでるのかも分からない。

 リュウジとも、これでお別れだ。

 もう2度と会うこともないだろう。


 そもそも、こんなわけの分からない世界で、出会ったって言えるのか?

 ニフィル・ロードでの出会いって、なんだ?

 仮想世界だよなここ?

 この世界は、まるで夢の中だ。

 夢の中での出会いなんて、目が覚めたら、すべて夢の中の出来事だ。

 起きてから誰かに伝えたところで、それはただの寝言。


 ばかげてる。


「ソウジ……」


 もういい。

 目を覚まそう。

 起きて、仕事の準備をしよう。


「ソウジ!」


 ほら、誰かがオレを起こそうとしている。

 もう時間だと。もう目を覚ます頃合いだと。


「ソウジってば!」


 エレーナ。


「なんだよ」

 いつのまにか閉じていた、目蓋を開けた。


「来たみたい! みんな来てくれたよ!」

「なにがだよ」


「ミキちゃん! こっちに向かってる!」

「未希?」

「ミキちゃんだけじゃない。大勢!」

「なにを言ってるんだ」


 すぐに感じた。

 最初は地響き。


 それから、遠くで歓声。

 なんだろう。

 運動会でもやってるのか。


 地響きが、次第に足音に変わる。

 無数の足音。森のあちこちで、大勢が駆け回る音。


 そのあとに、沢山の風を切る音。

 結界に群がるウィルコープスが、奥のほうから、バタバタと地面に倒れていった。

 その向こうで、キラキラと光る砂が舞い上がっている。


 ウィルコープスのほとんどが、背中を向けた。

 奥から、なにか来る。

 いや、もう来ている。


 何十人。いや、視界に入りきらないくらいの人数だ。


 ウィルコープスではない。

 あいつらは……プレイヤー。

 見知った顔も何人かいるが、極僅か。

 大部分は知らない顔。

 人数が多すぎる。数百人だ。

 数百人のプレイヤーが、森の中で剣をふるい、斧を振り下ろし、槍を突き出していた。


 森の中のウィルコープスが、次々と薙ぎ倒されていく。

 圧倒的だ。


 そして、数分もかからないうちに、視界が開けた。

 目に映る人影のすべてが、プレイヤーに入れ替わっていた。


「総司!」

「ソウジ!!」


 オレを呼ぶ声。女の声。


 視線を向けると、走って来るのは、ストームとソフィアだ。

 その後ろから、もうひとり。

 ウィルコープスの死体を避けながら、結界に近づいてくる。


「おにいちゃん! エレーナもいる! リュウジもいた!」

「ミキちゃん!」

「ぃよう、みきの嬢ちゃん。ひさしぶりだなぁ」


 未希。

 おまえ、なんでこんなところにいるんだよ。

 危ないから、帰れよ。


 3人が結界の中に入った。

 そのまま、オレのところに近づいてくる。


「おにいちゃん、大丈夫? 生きてる?」

「ああ。生きてるよ。よくここが分かったな未希」


 未希がオレの前で、膝を折った。


「えへへ。これだよ」

「うん……?」


 未希の右手が、オレの左胸に伸びている。


 ああ、これか。

 未希から貰って、左胸につけていた、ヘタクソな花。

 ナナカマドの枝で作った、スターチスのブローチ。


「魔法で、オレを見つけてくれたのか」

「うん。よかった。間に合って」


 未希の後ろに、ストームが立っていた。

「総司。まだHP残ってる?」

「なんだよ、えいちぴーって。それよりどうなってんだ。なにが起きてる」


「わたしたちは、アーネストが率いる第1軍」

「アーネスト? あいつもここに来てるのか」

「あっちのほうで、指揮してるよ。ミラーとハートリーも参加して、どっかで戦ってるよ」



「ねぇ、ソウジこの人は?」

 いつのまにか、ソフィアがオレの横にいた。

 血塗れのティナに視線を落としている。


「これか、こいつはティナ」


 もう、完全に死んでいる。




「オレの友達……だよ」




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