4.9.02 - PVE
8月10日、火曜日の午後。
ニフィル・ロードへのログインは続けている。
集まる場所は、ストームの部屋かオレの部屋のどちらか。
結局、オレの部屋からのログインも常態化してしまった。
合い鍵は作っていないが、ストームが事前にスケジュールを確認し、日時を決めてくれている。
オレの中でも「まぁいいか」になってしまった。
ニフィル・ロードでは、ヴィルゴ王国の騒動から、1カ月以上が経過していた。
隣の黒ヒゲパン屋も完成し、黒ヒゲは毎日パンを焼いている。
オレは数日おきに、ヴィルゴ王国へ顔を出し、穀物をもらい、黒ヒゲに届ける。
黒ヒゲの作るパンは、どれも美味い。
焼き窯が稼働した日から、黒ヒゲパン屋は連日、賑わっていた。
そして黒ヒゲは、オレが食べるパンから、代金は受け取らなかった。
だから、焼きたてのパンが食べ放題。お茶も飲み放題。
オレも穀物の代金を請求しないが、黒ヒゲも請求しない。
それでいい。オレはなにも不自由していない。
問題があるとすれば、オレの敷地のベンチと焚火が、黒ヒゲパン屋のテラス席になっていること。
朝から晩まで、誰かしらがお茶を飲みながらパンを食べている。
オレの敷地は、いよいよ公共施設になっていた。
おかげで、自分の敷地なのに、居心地が悪い。
井戸を挟んだ向かい敷地でも、家の建築が始まっていた。
敷地の面積は3人分。住むのは5人らしい。
宿屋、食堂、そして居酒屋。
その3軒をつなげた、大型の商業施設にするつもりのようだ。
その5人も、朝と夜は、オレの焚火で食事をしている。
彼らと顔を合わせると、毎回、同じ夢を聞かされた。
宿屋を経営したい。
泊まりに来た客に、美味しい料理を食べさせたい。
現実世界では難しいが、ニフィル・ロードなら叶う。
毎度、毎度、それを聞かされる。
完成は、まだしばらく先らしい。
オレの仕事はというと、とくになにもない。
黒ヒゲから代金を受け取らない理由も、ここにある。
無償の食料提供。
10日おきに、50キロの穀物と美味いワイン。
穀物は黒ヒゲへ。ワインはウィリアムへ。
オレは役目を果たしていたのだ。
ウィリアムには「さらに増量するために交渉中だ」と言ってある。
無論、そんな交渉は、一切していない。
だから、なにもすることがない。
毎日、昼寝をしているか、ぶらぶらと散歩している。
たまに、ヴィルゴ王国へ行って、モルウェナの話し相手になり、アルクと剣術の稽古をする。
新女王のローウェンナとも、少しは話すようになった。
戴冠したばかりのヴィルゴ王国には、混乱もなく、宮廷政治も穏やかなまま、安定していた。
だから、どこへ行っても、穏やかな日々だったのだ。
残った時間は、昼寝をする。
オレはこの百倍圧縮の世界で、ただぐうたらしているだけだった。
だがそれがいい。
現実世界で、ロクでもない仕事をして、ニフィル・ロードでぐうたら過ごす。
それがここ最近の、オレの日常。
日課になっていた。
いよいよ暇が過ぎて、リュウジの賭場はどうなったのかと尋ねると、その計画はすでに頓挫していた。
食べ物をチップに、賭場を経営するという計画だ。
前哨基地の食糧事情が、大幅に改善していたのだ。
穀物も、野菜も、肉も、卵も。
充分な量の供給があった。
しかも、安い。
守備隊に至っては、タダ同然で食事ができた。
そして、派遣されてきたコックの存在が大きかった。
司令部の近くに厨房が設けられ、コックが常駐するようになった。
だから、美味い。
宿屋、コック、それと医者も派遣されている。
前哨基地は着々と建設が進み、日々人口が増えていった。
もうオレには、前哨基地の全体像が、よく分からない。
8月21日。土曜日の夕方。
集まったのは、ストームの家。
今日は、未希が、ストームの家に泊まるらしい。
親の許可を貰い、お泊まりセット持参でストームの家を訪れていた。
だから今日は未希も、夜遅くまでログインできる。
ストームがタブレットの画面を、オレと未希に見せた。
計画表と題されている。
「わたしたちも、前哨基地に行く、久しぶりに総司と合流だね」
「いよいよ、エレメント・コアを攻略するんだね」
「ん。攻略に参加するプレイヤーは、3千人だってさ。すごいよね」
「そんな人数の大人が集まって、いったいなにをするんだ」
「PVEの戦争」
「ぴーぶいいー? 戦争?」
「これから始まるのは総力戦」
「まったく分からん」
「おにいちゃん、リュウタを見たら驚くよ。もう大人のオオカミだよ」
「そうか。オオカミの成長って早いんだな」
なんだか分からないが。
久しぶりに、未希とストームに会うのか。
いま、ここで会ってるのにな。
なにが久しぶりなんだ。




