4.9.01 - エレメント・コア攻略戦
昼頃。
1週間ぶりに、前哨基地に戻った。
基地の中心から、敷地の近くの井戸まで、街路が整備されていた。
むき出しの地面で、多少は歩きやすくなったように見えるが、風が吹くと土埃が舞い上がるようになった。
以前の原っぱの方が、まだ良かったような気がしなくもない。
隣の黒ヒゲのパン屋は、まだまだ建築中だが、それ以外にも数軒の家が建つようで、地面に杭が刺さり、紐が渡されている。
区画の整理、というか、土地の主張が始まっているようだ。
それと、ずっと作りかけで放置されていた井戸。
その井戸も、いつのまにか、それっぽく完成していた。
膝ほどの高さまで石が積み上げられ、蓋がされている。
この井戸は、桶を引き上げる旧式では無かった。
ポンプ式だ。
レバーを上下させると水が出る。
しかも水が澄んでいる。
中央にある、桶で泥を巻き上げる井戸とは、まるで違う。
この一帯に新たな居住地を建設するという計画。
その方針の本気度が見え始めていた。
そして、オレの焚火とベンチ。
すっかり黒ヒゲのお気に入りになっていた。
今も、黒ヒゲはベンチに腰を下ろし、オート麦の粥を食べている。
「やぁ、ソウジ。久しぶりだね。お茶飲むかい?」
「……もうらうよ」
黒ヒゲはいつも、オレにお茶をご馳走してくれる。
シデリティスというお茶らしいが、黒ヒゲのお茶は旨い。
旨いお茶を煎れるこの男の作るパン。
オレも少し楽しみにしている。
だから、オレの敷地を好き勝手に使うのは構わない。
そもそもが、ベンチも焚火も野ざらし。
それを防ぐ手立てがない。
しかし黒ヒゲの建設を手伝う気もない。
お茶をご馳走になると、オレはとっとと医療テントへと向かった。
ウィリアムや、リュウジに見つかることもなく、医療テントへ滑り込む。
そして、ログアウトした。
眩暈と共に、記憶が圧縮されていく。
3日前の記憶は、1年前。
10日前の記憶は、3年前だ。
ヴィルゴ王国のドロドロの宮廷サスペンスが、昔に見た、日曜ドラマのように薄れていた。
部屋では、未希とストームが片付けをしていた。
散らかしたお菓子の袋を集め、帰り支度をしているようだ。
時計を見ると、16時45分。
「おにいちゃん、お帰り」
未希。
「ん、帰ってきたか……じゃあ帰ろう」
ストーム。
「なんだよ、なにかするつもりだったのか」
オレ。
「待たされるんなら、シャワー浴びようと思ってた」
「……帰れ。そしてもう来るな」
「シャンプーとか、コンディショナーは、総司も使っていいからね」
「ふざけんな……持って帰れよ」
だいたい、それを買ってきたのは未希だろ。
カネを払ったのも、たぶんオレだよな……?
オレの言葉が、届いているのか、いないのか。
未希とストームは、バッグを手に玄関へ。
そして、靴を履いてドアを開けた。
「まゆさん、うちでご飯食べていかない? 今夜カレーだって」
「ええ、いいの。食べたいっ……でもお父さんいない?」
「お父さん? 今日は帰るの遅いと思うけど」
「じゃあ、行こうかな……みきさんち」
ドアがカチャっと閉まる。
部屋の中が急に静かになった。
トントンと階段を降りる2人の振動。
そのまま消えるかと思ったら、駆け上がる振動。
また、ドアが開く。
「おにいちゃん、郵便物届いてたよ」
「……ああ、ありがとう。そこ置いといてくれ」
「うん」
ドアが閉まり、足音が遠のく。
なにも聞こえなくなった。
未希が運んできたのは、A4厚紙封筒。
中身はおそらく、次の仕事の指示書。
やっぱり、アイツらをこの部屋には入れたくない。
とくに未希には……




