4.8.20
オレは、フィオンと共に、女王の別邸を離れた。
雨はまだ降り続き、建物も庭も、灰色のヴェールに覆われている。
そのまま、尖塔へと戻る。
セレンとヴェータは1階のロビーにいた。
「お帰りなさいませ。ソウジさま」
セレンがオレを、バイスタンダーとは呼ばず、ソウジと呼んだ。
それでいい。
きな臭い予感がする。
その単語は伏せたほうがいいだろう。
「ウルス皇国ってなんだ? 別の国か」
セレンが答えた。
「はい。我が国の東に在る大国です」
まず最初に驚いたのは、ヴィルゴ王国以外にも国が存在したこと。
オレはまだ、カタセ村近辺と、この国のことしか知らない。
メモリアは広い。
いったいどれだけの国が存在し、どれだけのNPCの人生が積みあがっているのか。
想像すらできない。
「その国とは、どういう関係なんだ?」
「国家間で何度も矛を交えましたが、ヴィルゴ王国は、ウルス皇国の保護国となり、現在は平和が保たれています」
「保護国?」
「現在は、互いに守護しあう関係にありますが、軍事的優位はウルス皇国にあり、ヴィルゴ王国は弱い立場にあります」
なるほど。
よく分からん。
「フィオン」
「はい」
「使者の用件はなんだ?」
「……」
フィオンが口をつぐむ。
「あの……」
セレンが口を挟む。
「なんだ? 知ってるのか?」
「推測ですが……ご婚約のお申し出ではないかと」
「婚約? だれと?」
「第2皇子のディアデムさまが、16歳になられたと聞きます。ご婚約の相談に参られたのではないでしょうか」
「ディアデム……」
ストームの予言。
……あとはディアデムかな。
……出てくるとしたら、ちょっと邪魔するだけの脇役。
「ヴェータ」
「はい」
オレは階段を昇る。
知れることは、先に知っておきたい。
「セレンとフィオンは、昼飯の準備をしろ。
ヴェータちょっとこい、話がある」
「は、はい……?」
ヴェータとふたりで、書斎へ。
「扉を閉めろ」
「はい」
ヴェータが扉を閉めて振り返る。
少しの恐怖、かなり緊張した顔。
オレって、そんなに悪人に見えるのか。
「たしか……デネボラ、だったか。おまえの名前は」
「え……どうしてそれを? アルク様ですか?」
「ああ。だいたいの話は聞いている」
まぁウソだけどな。
聞いたのは、ストームから。
やっぱすげーな、あいつ。
「だからって、なにも変わることはない。でも知っていることがあるなら、話してくれ。知りたいのは、なにが真実なのか。それだけだ」
「はい……えっと……」
ヴェータは、少し間を開けて、ポツポツと話し始めた。
「わたしの祖先はウルス皇国の貴族です。
三百年近く前の、オニビトの子孫であると、代々伝えられています」
え……
まて、追いつかねぇ。
「オニビトの長男はウルス皇国の初代皇帝となりました。
私の祖先は、オニビトの三男だったそうです。
しかし、年月を経て、国を追われました。
そのあと放浪を経て、先代のバイスタンダーの時代に、かの英雄と巡り会う幸運があったらしく。
共に諸国を旅し、辿り着いたヴィルゴ王国で居住地を得たと、祖父から聞かされています」
うん。分からなすぎる。
分からなすぎるのは「オニビト」だ。
英語の中に、日本語が混じっている。
「オニビトってなんだ?」
「バイスタンダーよりも以前に、異邦の地から現れた英雄です。
数々の戦争で鬼神のように暴れまわり、ウルス皇国の礎を築いた軍神だと伝えられています」
「ヴェータは、そのオニビトの子孫なのか?」
「そのように、聞かされていますが」
「なぜ、デネボラと名乗らずに、ヴェータと名乗っている?」
「それは……わたしも詳しくは分かりませんが、家名は名乗らず、ヴェータと名乗るようにと、父から言われています」
えーと……
オレの4代前のプレイヤーは「オニビト」と呼ばれていたと。
その子孫が、ウルスっていう国の皇帝で?
ヴェータの祖先は、追放された皇帝の兄弟?
ってことは、ヴェータも、かつてのプレイヤーの子孫?
……ってこと?
「わたしの祖先と、アルク様のご先祖は、かつてのバイスタンダー様の旅の仲間だったと書物に記されています。
わたしにも、その血が流れているのだと思うと、いまこうしてソウジ様の前に立つことができるのは、我が家の悲願。望外の喜びです」
オレはまったく……嬉しくねーよ……
メモリアは、がんじがらめだ。
「で、ヴェータから見て、ウルスからの使者の目的はなんだと思う?」
「セレン様のお見立てで間違いないでしょう。
ウルス皇国の要求を跳ねのけることはできません。
いずれかの聖女様を、ウルス皇国に差し出すことになるかと」
いずれかって……
誰だよ。
1位の聖女か?
それとも、セレン。
まさか、モルウェナ。
なんでだ。
どうなってんだ、この国。
いや、この社会。この世界。
メモリアって世界は、壊れまくりじゃねぇか。




