4.8.9 - ストームとめし
その日の夜。
オレは、司令部の横にある救護所テントを借りた。
実は、ここが最も安全。
司令部の隣で24時間警備。
大群の襲撃があっても、手厚く守られる。
ここが破壊されるとしたら、基地が壊滅するときだろう。
中では、4人が死んだように眠っている。
ケガの有無に関わらず、常時、基地の誰かが、ログアウトしている。
イタズラされたとか、物を盗まれたという話も聞いたことが無い。
なのでオレも、意を決して、この救護所でログアウトすることにした。
外ではティナやリュウジ。ウィリアムの側近も混じって、オレが持ってきたワインで酒盛りしている。
あの調子じゃ、残りのワインもすぐになくなる。
救護所テントの奥に座り、ログインデバイスを取り出す。
『 ELAPSED 04:19 』
結構、長い時間いたな。
ログアウトの文字に触れ、オレは目を閉じた。
目を開けると、ガランとしたフローリングの部屋。
ああ、そうか。
オレ、引っ越したんだった。
ダイニングに人の気配。
見るとストームが、床のノートパソコンをカチカチと叩いていた。
それ以外の音は何も聞こえない。
静かな部屋だった。
「ストーム、今何時だ」
「おかえり。もう夜の8時だよ」
「そうか。未希は?」
「もう帰った。カギ閉められないから、わたしだけ残ってた」
「ああ、すまん。待たせたか」
「べつにいいけど、合い鍵つくれ」
「それはダメだ……」
ここは、ロクでもない会社の寮だ。
「んん……まぁいいけど。何日まで進めた?」
「覚えてないな。48日か、49日……くらいかな」
「なら、わたし達とそんなかわらないかもね」
「そうか」
ストームは、ごそごそとノートパソコンをナップザックにしまう。
帰り支度をしている。
ぐーぐーと、ストームの腹が鳴っている。
「飯でも喰いにいくか」
「ん」
ストームとふたりで、部屋を出る。
カギを閉めて、階段を降りていく。
途中の中華料理屋か、居酒屋に入ろうとしたが、どこも混んでいた。
そういや、今日は金曜の夜だ。
そのまま駅へと歩く。
横を歩いていたストームが、突然オレの影に隠れた。
気にせず歩いていると、ストームと同年代の複数人の少女。
存在を気付かれたくないのか。
こいつの学校生活は、どうなっているんだろうか。
まったく知らないし、踏み込むつもりもない。
「総司」
「なんだ」
「わたしの駅まで行くでもいい?」
別にかまわない。
ただ、電車に乗るのはダルかったので、走ってきたタクシーを止めた。
後部座席に座り、運転手に行き先を告げる。
タクシーの中では、なにも喋らなかった。
元々、お互いに話し好きではない。
話題もない。
未希がいれば、どうでもいいことを喋り始めるが、今は未希もいない。
ストームの家の最寄り駅には、10分もしないうちに着いた。
駅ではなく、ファミレスの前でタクシーを降りて、店に入る。
混雑しているが、待たされるほどではなく、すぐに席に案内された。
オレはハンバーグセットを注文し、ストームはオムライスとケーキのセット。
店員が立ち去ると、ストームはナップザックからタブレットを取り出した。
そして、口を開いた。
「前哨基地はどう?」
「ああ、まぁ……普通じゃないか? 何日か前に、ソフィアに会ったよ」
「ふーん。聞いた話だと、総司はぜんぜん基地にいないって。メモリア行ってるの? なにしてるの?」
何してるんだろうな。オレは。
「オレも、なにしてるのか、自分でもよく分からん」
出てくるのは、ニフィル・ロードの話題。
仮想世界での数日間の出来事を共有した。
なにが面白いのか。
オレには、いまだによく分からないが、あの世界での話は、ストームにとっては楽しいらしい。
オレの聖女王国の話題になると、ストームは、ますます目を輝かせた。
「すごい。NPCなのに、そこまで我が子の未来と権力に執着するんだね。ニフィル・ロードを作った人は本当にすごい。もうNPCじゃないね。別の次元に住む、わたし達と同じ人間」
「そだな。オレはもう、あいつらがNPCだとは思ってないよ」
「でもやっぱり、ゲームだよ」
「うん?」
「総司の国の話も、聞く限りじゃ完全にゲーム。
わたしの予想だと、ヴェータはクエストのカギになる人物。行方不明になったレグルスっていうのもまだ生きてるだろうね。
スピカの街も、聖女王国シナリオを進める重要なピースだから、もっとよく見たほうがいいよ」
「おい、それはいったい、どういうことだ?」
「前にも言ったでしょ。おとめ座王国。そのクエストをクリアするキーワードは、おとめ座」
テーブルに、頼んでいた料理が運ばれた。
いい匂いだ。
いや、そんなことより。
「ストーム、もっと分かりやすく説明してくれ」




