表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/411

4.8.4


 結局。


 革紐は買いに行けなかった。

 騒ぎで衛兵が駆けつけ、オレとフィオンは、城に戻された。


 襲ってきた3人の男達は全員死亡。

 身元も分からず、ただの強盗で片づけられた。


 強盗だ。

 動機もある。街中で銀貨を見せた。

 しかし、ここはカタセ村ではなく、王都。

 それも、壁内の城塞都市中心部。

 たかだか、銀貨5枚で強盗に襲われるはずもない。


 それでも、なにも証拠がない。

 ないから、強盗事件にしかならない。



「どう? 聖女を使用人にする気になった?」


 城の中で夕食の時間。

 リノンとモルウェナの3人で、デカいテーブルを囲んでいる。


 なんで、オレはここで飯くってるんだっていう疑問。

 それは、美味いからだ。

 前哨基地で出される、家畜用のスープとは比較にならない。


「その前にリノン。なんでオレが襲われるんだ。襲ったの誰だ」

「叔父様たちの思惑とは違うんじゃないかしら。今はもう、あなたに取り入ろうとしてるみたいだし」


「じゃあ、誰だよ」

「これから調査するけど……可能性が高いのは聖女親派」


 親派……ああ、あれか。

 推しってやつか。


「叔父の娘の親派が、なんでオレを殺しに来るんだよ」

「叔父様のところも、一枚岩じゃないってことよ」


 この世界の推し活は、こじらせると殺人までやるってのか。

 まったく分からん。


「もういい。オレは、しばらく、記憶の回廊の先にこもる」

「あらぁ、何日くらい?」


「叙任パレードってのはいつだ?」

「そんなの教えるわけないでしょ」

「なんでだよ」

「教えたらあなた、その日だけ来ないじゃない」


 この能面修道女。

 やっぱり全部演技だ。

 生きた人間が、マネキンを演じている。

 ダテに国の女王ってわけでもないんだな。


「英雄様、今日は悪人をやっつけたってほんとう?」


 先に食事を食べ終わったのだろうか。

 いつの間にかモルウェナが、オレの隣の椅子に座っていた。


 オレはどっちかっていうと、子供に怖がられる。

 近寄るどころか、逃げられる。

 なのに、モルウェナは平気な顔をして近づいてくる。

 マネキン女王との生活で免疫でもついてるんだろうか。


「ウェナ……リンゴパイ食べるか」

「ええ、いいの?」


 モルウェナが、リノンの顔色を窺っている。

 窺ったところで、マネキンの表情なんて分かるのかよ。


 リノンは、表情を変えずに、頷いただけ。

 モルウェナが、オレの皿のリンゴパイに小さな手を伸ばした。


 だが、届かない。

 モルウェナの腕の長さでは、届かなかった。


 しかたないから、フォークで引っ掛けて取ってやる。

 モルウェナは、そのままフォークのリンゴパイを齧った。

 口の中でサクサクと音をたてる。


 ダメだ……


 ここにいるとオレはおかしくなる。

 いますぐにでも、気が狂いそうだ。


 どうにか正気を保ち、モルウェナにだけ声をかけた。


「ウェナ、また今度な」

「うん、おやすみなさい。英雄様」


 モルウェナが、口からリンゴの汁を飛ばした。



 オレは立ち上がり、テーブルから離れた。


「パレードは、10日後よ」

 背中の向こうからリノンの声。

 知ってるよ。どうせウソだろ。

 オレもよく使うし、それでアルクに、騙されたこともある。



 食堂を離れて、借りている使用人部屋に戻る。

 そして扉を閉める。


 カギはいい。

 カギを掛けたら、オレが戻るまで誰も入れない。


 ひょっとしたら、このまま。

 永久に、英雄の開かずの間として保存されるかもしれない。

 あるいは、戻ったときに破壊されている扉を見るのも嫌だ。


 ランタンの火を消し、ログインデバイスを出す。



 そして、前哨基地へと飛んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ