4.8.4
結局。
革紐は買いに行けなかった。
騒ぎで衛兵が駆けつけ、オレとフィオンは、城に戻された。
襲ってきた3人の男達は全員死亡。
身元も分からず、ただの強盗で片づけられた。
強盗だ。
動機もある。街中で銀貨を見せた。
しかし、ここはカタセ村ではなく、王都。
それも、壁内の城塞都市中心部。
たかだか、銀貨5枚で強盗に襲われるはずもない。
それでも、なにも証拠がない。
ないから、強盗事件にしかならない。
「どう? 聖女を使用人にする気になった?」
城の中で夕食の時間。
リノンとモルウェナの3人で、デカいテーブルを囲んでいる。
なんで、オレはここで飯くってるんだっていう疑問。
それは、美味いからだ。
前哨基地で出される、家畜用のスープとは比較にならない。
「その前にリノン。なんでオレが襲われるんだ。襲ったの誰だ」
「叔父様たちの思惑とは違うんじゃないかしら。今はもう、あなたに取り入ろうとしてるみたいだし」
「じゃあ、誰だよ」
「これから調査するけど……可能性が高いのは聖女親派」
親派……ああ、あれか。
推しってやつか。
「叔父の娘の親派が、なんでオレを殺しに来るんだよ」
「叔父様のところも、一枚岩じゃないってことよ」
この世界の推し活は、こじらせると殺人までやるってのか。
まったく分からん。
「もういい。オレは、しばらく、記憶の回廊の先にこもる」
「あらぁ、何日くらい?」
「叙任パレードってのはいつだ?」
「そんなの教えるわけないでしょ」
「なんでだよ」
「教えたらあなた、その日だけ来ないじゃない」
この能面修道女。
やっぱり全部演技だ。
生きた人間が、マネキンを演じている。
ダテに国の女王ってわけでもないんだな。
「英雄様、今日は悪人をやっつけたってほんとう?」
先に食事を食べ終わったのだろうか。
いつの間にかモルウェナが、オレの隣の椅子に座っていた。
オレはどっちかっていうと、子供に怖がられる。
近寄るどころか、逃げられる。
なのに、モルウェナは平気な顔をして近づいてくる。
マネキン女王との生活で免疫でもついてるんだろうか。
「ウェナ……リンゴパイ食べるか」
「ええ、いいの?」
モルウェナが、リノンの顔色を窺っている。
窺ったところで、マネキンの表情なんて分かるのかよ。
リノンは、表情を変えずに、頷いただけ。
モルウェナが、オレの皿のリンゴパイに小さな手を伸ばした。
だが、届かない。
モルウェナの腕の長さでは、届かなかった。
しかたないから、フォークで引っ掛けて取ってやる。
モルウェナは、そのままフォークのリンゴパイを齧った。
口の中でサクサクと音をたてる。
ダメだ……
ここにいるとオレはおかしくなる。
いますぐにでも、気が狂いそうだ。
どうにか正気を保ち、モルウェナにだけ声をかけた。
「ウェナ、また今度な」
「うん、おやすみなさい。英雄様」
モルウェナが、口からリンゴの汁を飛ばした。
オレは立ち上がり、テーブルから離れた。
「パレードは、10日後よ」
背中の向こうからリノンの声。
知ってるよ。どうせウソだろ。
オレもよく使うし、それでアルクに、騙されたこともある。
食堂を離れて、借りている使用人部屋に戻る。
そして扉を閉める。
カギはいい。
カギを掛けたら、オレが戻るまで誰も入れない。
ひょっとしたら、このまま。
永久に、英雄の開かずの間として保存されるかもしれない。
あるいは、戻ったときに破壊されている扉を見るのも嫌だ。
ランタンの火を消し、ログインデバイスを出す。
そして、前哨基地へと飛んだ。




