4.8.2
食事を終えて、使用人部屋に戻る。
女王は、使用人追加の件に加えて、数日後にバイスタンダー叙任のパレードをやりたいと言っていた。
そんなの絶対に出ない。
断固、断わる。
とりあえず、前哨基地からパクってきた剣を3本。
これを街に売りに行く。
しかし、どこに持っていけばいいのか。
女王に聞けばよかった。
部屋を出て、城門へ向かう庭を進んでいると、アルクとすれ違う。
後ろに部下を3人連れている。
そんな光景を見せられると、コイツがけっこう偉い騎士だというのも、本当なんだろうな。
「ソウジさん、おはようございます。すっかりここの住人ですね」
アルクの作り笑い。
女王の能面も大概だが、コイツは逆の方向で真意が分からない。
「アルク、これを売りに行きたいんだが、どこに行けばいい」
オレが抱えている剣を、アルクが眺める。
「剣ですか。まぁまぁ立派ですねぇ。軍に寄付していただけたりはしないのですか?」
「寄付してもいいが、コインか食糧と交換だ」
「それは、寄付とは言いませんよ、ソウジさん」
アルクが振り向いて、部下のひとりを呼んだ。
「フィオン」
「はっ」
名前の感じも、トーンも女性だ。
ずいぶん若い声。
緑色のフード付きのケープ。
フードの中からこちらを窺う瞳の色がやけに青い。
輪郭を覆う、蜂蜜のような色の髪が、ケープの中に吸い込まれている。
ケープの下には、硬そうな革のベスト。
「バイスタンダー様を、鍛冶屋にご案内してあげなさい」
「かしこまりました」
アルクが向き直す。
「では、ソウジさん。よい1日を」
そして、城の方へと立ち去っていった。
「バイスタンダー様。ご案内いたします」
「お……おう……」
オレも、王宮暮らしとやらに、慣れたほうがいいのかな。
前を行くフィオンという女の後を追う。
よく見ると、ケープもベストも光沢があり、汚れていない。
着ている服飾そのものが、毎日きちんと洗っていますと、アピールしている。
腰のベルトに、横向きで短剣が括りつけられている。
刃渡りは短そうだが、鞘は太く革製。グリップは木製。
左右に眼を配り、それでいて自信に満ちた風をおこしながら歩いている。
後ろに大統領でもいるのだろうか。
振り返ってみたが、誰もいない。
街は少し臭い。
「フィオン」
「はい?」
「腰に巻いてるのは、なんていう剣だ」
「ウェルシュナイフです。御覧になりますか?」
「いや、いい……鍛冶屋は近いのか?」
「遠くはありません」
フィオンが左手の指を水平に向けた。
「あの尖塔の手前です。バイスタンダー様」
オレもその先に視線を投げる。
まだ、1キロくらいありそうだ。
そうだよ、忘れてたよ。
この世界の住人の距離感。
近い、とか、遠くないは、オレの知っている尺度とは違う。
剣が重くなってきた。
重いというか、持ちにくい。
ときどき、持ち替えて、握力のバランスを入れ替える。
フィオンが振り返り、頭を下に向けた。
「お気遣いが足らず、申し訳ありませんでした。私が運びます」
フィオンが立ち止まり、両手を広げる。
奪うのではなく、手渡せとジェスチャーしている。
「じゃあ、1本、持ってくれ」
「……かしこまりました」
いちばん軽いのを1本手渡す。
微かに不服そうなフィオンが背を向けて、また歩き始める。
「おまえも騎士か? フィオン」
「いえ、私はまだ見習いです」
言葉を返すたびに、背筋を伸ばし直す。
フードで、全体像は分からないが、たぶん18歳前後。
オレの知ってる、近所のクソガキとは、まるで違う。
気遣いも、振る舞いも。
だから、戸惑う。
鍛冶屋に着くころには、少し汗ばんでいた。
煙臭い店主に剣を見せる。
買い取り額は、銀貨3枚。
オレには相場が分からない。
それでいいだろうと思ったら、フィオンが口を挟んだ。
「安すぎます」
フィオンは「この御方はバイスタンダーだ」と、店主に詰め寄った。
にわかに騒ぎが大きくなりかけている。
「フィオン、いいんだよ」
「ですが……通常はその4倍以上かと考えます」
そりゃ、ずいぶんボッタくりやがったなおい。
「いいよ。おい店主」
「はい……」
オレがバイスタンダーだと知って、酷く青ざめていた。
そりゃそうだ。
伝説の英雄で、しかも女王のダチ。
そいつからボッタくろうとしたんだ。
「買いたたかれていたことは、オレも分かってたよ。
でもいいんだ。オレはおまえと、いい関係を作りたい。これからも懇意にしてくれると助かる」
店主の顔に、安堵が戻る。
まぁ、ぜんぶウソだけどな。
「ただ……おまえの片足を斬り飛ばす代わりに、銀貨5枚にしてくれ。それでいいか?」
店主の顔が、歪んだ笑顔に変った。
「もちろんでございます! バイスタンダー様! 慈悲深き御方!」
足を止めていた通行人や、鍛冶屋の従業員がどよめき出す。
嘲笑や、軽蔑ではない。
尊敬と、賞賛のどよめきだ。
ああ、そうか。
これが、英雄の力。名声。
なんか、変な方向に向かいそうだ。
カタセ村での、アロハ婆さんの視線を思い出した。
オレが渡し人だと知りながら、野良犬を追い払うような眼を向けたアロハ。
そうだな。
そっちのほうが、居心地がよかったかもな。




