表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/412

4.8.2


 食事を終えて、使用人部屋に戻る。


 女王は、使用人追加の件に加えて、数日後にバイスタンダー叙任のパレードをやりたいと言っていた。


 そんなの絶対に出ない。

 断固、断わる。



 とりあえず、前哨基地からパクってきた剣を3本。

 これを街に売りに行く。

 しかし、どこに持っていけばいいのか。

 女王に聞けばよかった。


 部屋を出て、城門へ向かう庭を進んでいると、アルクとすれ違う。

 後ろに部下を3人連れている。

 そんな光景を見せられると、コイツがけっこう偉い騎士だというのも、本当なんだろうな。


「ソウジさん、おはようございます。すっかりここの住人ですね」

 アルクの作り笑い。

 女王の能面も大概だが、コイツは逆の方向で真意が分からない。


「アルク、これを売りに行きたいんだが、どこに行けばいい」


 オレが抱えている剣を、アルクが眺める。

「剣ですか。まぁまぁ立派ですねぇ。軍に寄付していただけたりはしないのですか?」


「寄付してもいいが、コインか食糧と交換だ」

「それは、寄付とは言いませんよ、ソウジさん」


 アルクが振り向いて、部下のひとりを呼んだ。

「フィオン」

「はっ」


 名前の感じも、トーンも女性だ。

 ずいぶん若い声。


 緑色のフード付きのケープ。

 フードの中からこちらを窺う瞳の色がやけに青い。

 輪郭を覆う、蜂蜜のような色の髪が、ケープの中に吸い込まれている。

 ケープの下には、硬そうな革のベスト。


「バイスタンダー様を、鍛冶屋にご案内してあげなさい」

「かしこまりました」


 アルクが向き直す。

「では、ソウジさん。よい1日を」


 そして、城の方へと立ち去っていった。


「バイスタンダー様。ご案内いたします」

「お……おう……」


 オレも、王宮暮らしとやらに、慣れたほうがいいのかな。



 前を行くフィオンという女の後を追う。

 よく見ると、ケープもベストも光沢があり、汚れていない。


 着ている服飾そのものが、毎日きちんと洗っていますと、アピールしている。

 腰のベルトに、横向きで短剣が括りつけられている。

 刃渡りは短そうだが、鞘は太く革製。グリップは木製。


 左右に眼を配り、それでいて自信に満ちた風をおこしながら歩いている。

 後ろに大統領でもいるのだろうか。


 振り返ってみたが、誰もいない。

 街は少し臭い。


「フィオン」

「はい?」


「腰に巻いてるのは、なんていう剣だ」

「ウェルシュナイフです。御覧になりますか?」

「いや、いい……鍛冶屋は近いのか?」

「遠くはありません」


 フィオンが左手の指を水平に向けた。


「あの尖塔の手前です。バイスタンダー様」


 オレもその先に視線を投げる。


 まだ、1キロくらいありそうだ。

 そうだよ、忘れてたよ。

 この世界の住人の距離感。

 近い、とか、遠くないは、オレの知っている尺度とは違う。


 剣が重くなってきた。

 重いというか、持ちにくい。

 ときどき、持ち替えて、握力のバランスを入れ替える。


 フィオンが振り返り、頭を下に向けた。


「お気遣いが足らず、申し訳ありませんでした。私が運びます」


 フィオンが立ち止まり、両手を広げる。

 奪うのではなく、手渡せとジェスチャーしている。


「じゃあ、1本、持ってくれ」

「……かしこまりました」


 いちばん軽いのを1本手渡す。

 微かに不服そうなフィオンが背を向けて、また歩き始める。


「おまえも騎士か? フィオン」

「いえ、私はまだ見習いです」


 言葉を返すたびに、背筋を伸ばし直す。

 フードで、全体像は分からないが、たぶん18歳前後。


 オレの知ってる、近所のクソガキとは、まるで違う。

 気遣いも、振る舞いも。


 だから、戸惑う。



 鍛冶屋に着くころには、少し汗ばんでいた。


 煙臭い店主に剣を見せる。

 買い取り額は、銀貨3枚。

 オレには相場が分からない。

 それでいいだろうと思ったら、フィオンが口を挟んだ。


「安すぎます」


 フィオンは「この御方はバイスタンダーだ」と、店主に詰め寄った。

 にわかに騒ぎが大きくなりかけている。


「フィオン、いいんだよ」

「ですが……通常はその4倍以上かと考えます」


 そりゃ、ずいぶんボッタくりやがったなおい。


「いいよ。おい店主」

「はい……」


 オレがバイスタンダーだと知って、酷く青ざめていた。

 そりゃそうだ。

 伝説の英雄で、しかも女王のダチ。

 そいつからボッタくろうとしたんだ。


「買いたたかれていたことは、オレも分かってたよ。

 でもいいんだ。オレはおまえと、いい関係を作りたい。これからも懇意にしてくれると助かる」


 店主の顔に、安堵が戻る。

 まぁ、ぜんぶウソだけどな。


「ただ……おまえの片足を斬り飛ばす代わりに、銀貨5枚にしてくれ。それでいいか?」


 店主の顔が、歪んだ笑顔に変った。


「もちろんでございます! バイスタンダー様! 慈悲深き御方!」


 足を止めていた通行人や、鍛冶屋の従業員がどよめき出す。

 嘲笑や、軽蔑ではない。

 尊敬と、賞賛のどよめきだ。


 ああ、そうか。

 これが、英雄の力。名声。

 なんか、変な方向に向かいそうだ。


 カタセ村での、アロハ婆さんの視線を思い出した。

 オレが渡し人だと知りながら、野良犬を追い払うような眼を向けたアロハ。




 そうだな。

 そっちのほうが、居心地がよかったかもな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ