4.7.27
前哨基地に戻り、自分のテントで寝た。
あの屋敷で寝起きする気はない。
翌朝。
陽が昇ってから起き上がり、近くの井戸で顔を洗う。
基地の方へ行き、ティナから文句を言われながらパンを分けてもらう。
それと、リュウジからバナナを貰ってそれも喰った。
朝食を済ませ、陽がすっかり昇りきったころに、ヴィルゴの屋敷へと飛んだ。
部屋の中は真っ暗だが、扉の隙間から、白い光が漏れている。
扉を開けると金貨が落ちてきた。
カドの油脂も減っていない。
だれかが扉を開けた形跡はない。
まぁまだ、初日だしな。
庭に出ると、シェルタンは馬の世話。
ヴェータは草むしりをしていた。
オレの足音に気がついたのか、ヴェータが立ち上がりながら振り向いた。
「おはようございます。バイ……ソウジさん」
バイ?
オレの新しい家名かよ。
まぁいい。
「レグルスはどうした」
「王城への定時連絡に出ています」
そういや、連絡係って言ってたな。
「ヴェータ。ひとつ、頼んでいいか」
「はい、なんなりと」
ヴェータが姿勢を正す。
オレはコイン袋を広げて、銀貨を10枚掴む。
それをヴェータに渡す。
「ワインを3本と、食糧を買ってきてくれ。
調理済みのものではなく、調理前の食材だ。
野菜とか乾燥豆とか、ベーコンな。
そのコインで、持てるだけ買ってこい」
「えっと、食事用の食材ならありますが?」
「それはおまえ達で食べろ。そのコインで買ってくるのはオレ専用の食糧だ」
「はぁ。どこかにお出かけですか?」
「いいから買ってこい。叙任式には顔を出すから、心配するな」
「かしこまりました」
ヴェータが銀貨を握りしめると、そのまま街の方へと駆け出していった。
「シェルタン」
「はっ」
「オレはまた部屋にこもるから、ヴェータが戻ったら、荷物は使用人部屋の前に運んでおいてくれ。扉は開けるなよ」
「かしこまりました」
「留守番たのむ」
「はっ。お任せください」
これでいい。
ここじゃ、昼寝もできそうにない。
石ころを2つ拾ってから、また使用人部屋に戻り、扉の上に金貨を挟む。
それと扉の内側に、石ころを2つ置いた。
ログインデバイスを出して、前哨基地に戻る。
戻ると、また、井戸の方に人だかりができていた。
補給部隊が到着したようだ。
行ってみると、遠征してきたプレイヤーは40人くらい。
驚いたのは、その荷物。
家畜だ。
ブタとヤギ、そしてニワトリ。
もっとも驚いたのは、がっしりとした体躯のシカのような生き物だった。
茶色いシカではなく、年月を経たケヤキのように黒光りしているシカだ。
サイズはロバくらいだが、脚がやけに長く、見た目のバランスが悪い。
何頭いるんだろうか。
そのシカが3頭ずつ、何台もある台車に繋がれている。
「あ、いたいた。ソウジ!」
オレを呼ぶ声。
振り向くと、オレの知ってるヤツがいた。
「ソフィア……おまえも来てたのか」
微粒子魔法の使い手。
ソフィアだった。
「まぁね。私は農場の娘だからね。護衛と家畜の誘導よ」
「未希やストームはどうした」
「今回は来てないわよ。なに~? 寂しい?」
「……好きに言ってろ」
「ウッフフ、相変わらずねぇ」
「あのシカはなんだ?」
「あれはね、ヘラジカ。噴水広場の近くの農場で育ててるのよ」
「……育てる?」
「何百キロもある生物を運び込むのはムリでしょ。
だから、子供のうちにメモリアから運ぶの。
やっと、台車がちょっと引けるくらいまで育ったんだけど、まだまだね。これからもっと大きくなるから。そしたら、プレイヤーが台車を押したり引っ張る必要がなくなるわ」
いったい、どうなっちまうんだ、この世界は。
「ちなみに、馬も育ててるわよ」
「馬? 馬も仔馬からか?」
「もちろんそうよ。
カウントが開始された直後に、親離れできそうな1ヶ月未満の仔馬を運ぶの。
それを過ぎると、100キロ超えちゃって、運び込むのはムリだからね」
「乗れるようになるのはいつだ」
「そうねぇ……2年後か3年後。いずれにしてもギリギリね」
「3年後って、このカウントはあと何年続くんだ?」
「平均4年前後で終わるらしいから、あと3年半くらい?
まともに乗れるくらいまで馬が育つのも3年くらい先。だから乗るのは最後の最後。最終決戦の時よ」
まだまだ……知らないことだらけだ。
「オレのメモリアでも馬を見たが、いまから連れてきても遅いのか」
「そうねぇ。
1歳の馬を運べたら役に立つかもしれないけど……
100キロ以上あるし、抱え上げるときに暴れられたら潰されて死ぬわ」
なるほど……
たしかに、仔馬じゃないと運ぶのはムリだな。
「ソフィアも、馬に乗れるのか?」
「ちょっとぉ、オレゴン農家の娘を馬鹿にしてるの? うちの近所は自転車よりも馬のほうが多いわよ」
それは自慢、なのか?
まぁ、しかし……こんなところに、オレの教師候補がいた。
「ソフィア。教えてほしいことがある」
「めずらしいわね。なによ?」
メモリアの馬を、メモリアで乗りこなす。
それができれば、移動がかなり楽で、しかも速くなる。
「馬に乗るにはどうすればいい?」
ソフィアは、鼻の周りを萎ませながら、顔を萎ませた。
その顔をオレに近づける。
ああ、そうか。
ソフィアはたぶん、二十歳を過ぎた大人から、自転車の乗り方を尋ねられているんだろう。
だが、オレは真剣だ。
「ソフィア。馬の乗り方を教えてくれ」




