4.7.25
いつのまにか、太陽が傾き、夕方になり始めていた。
遠くから誰かが歩いてくる。
3人。ひとりは女かな。
女王がよこした、使用人だろうか。
アルクはまだ、うつむいたままだ。
ちょっとやりすぎたか。
「アルク、誰か来るぞ」
アルクが顔をあげた。
ずいぶん、疲れた表情をしていたが、すぐに切り替えた。
「陛下が手配した使用人ですね。2人は見覚えがあります」
「そうか」
いずれも肌着の上に革のベストを重ねた町人風の格好。
剣ではなく、短いダガーを腰に帯びている。
外見はオレのリクエスト通りだが、やけに姿勢がいい。
3人とも、ほとんど同じ歩幅で縦並びで歩いてくる。
手の角度は低いが、足の運びだけを見るとまるで行進だ。
3人が近づくと、オレの前に並び、自己紹介を始めた。
まずは、短髪で背の高いノッポの男。
「リーダーのシェルタンと申します。護衛と雑務を担当します。なんでもお申し付けください」
次に、茶髪で肉付きのいい男。
「レグルスです。護衛と連絡役です」
最後に女性。小柄だが筋肉質。髪型はブロンド色のボブカット。
「ヴェータです。護衛と雑用を担します」
ノッポのシェルタンが、三十代。
レグルスとヴェータは二十代前半くらいに見える。
それにしても、名前か……それも3人。
覚えきれるか。
別にいいか。覚えなくても。
「アルクの顔見知りは、どれとどれだ」
「シェルタンと、ヴェータです。えっと……」
「いいよ。どうせ、騎士かなにかなんだろ。服装変えただけじゃねぇか」
「いえ、騎士ではありません」
「じゃあなんだ?」
「特別な試験をパスした傭兵です。信用が置ける者達です」
信用なんてするわけねぇだろ。
「では、私は戻ります」
「なんだ、泊まっていかないのか」
「ソウジさん……私も一応貴族ですよ。こんなあばら屋、お断りです」
アルクが使用人モドキの3人に視線を向ける。
「3人とも、あとはお願いしますね」
「ハッ!」
3人がアルクの前で膝を折る。
なにが、傭兵だよ。
どう見ても、兵士か騎士だろ。
そのあとアルクは、背を向けて街の方へと歩き始めていた。
「歩いて帰るのか? あの馬車は?」
「あれは、馬ごとソウジさんにお貸しします」
貸すって……世話とかどうすんだ……
って、そうか。使用人がいるのか。
慣れないな。こういうのは。
「おい、ノッポ」
「はい。シェルタンです」
「おまえ、馬車運転できるか?」
「できます」
「じゃあ、あのお貴族様を、途中まで送ってこい」
「かしこまりました」
なんの意見も、反論もしないんだな。
完璧なイエスマンだ。
現実世界のギャングの下っ端とは違う。
アルクが振り向く。
「お気遣いどうも。それでは、お言葉に甘えて」
ノッポのシェルタンが手際よく手綱を操り、馬車を回した。
「それではソウジさん、また後日」
アルクは馬車の荷台に座り、街の中心へと戻っていった。
残ったのは、茶髪の男とブロンドの女。
「おまえたちは、屋敷を片付けろ。日が暮れる前に、寝る部屋だけ準備しろ」
「かしこまりました」
2人が、屋敷の中へと駆けて行った。
オレはまた、焚火の傍に腰を下ろす。
それから、腰のサンダーソニアを引き抜く。
ポーチから布と油の瓶を取り出す。
油で湿らせた布で、剣を磨く。
日が暮れ始めていた。
リーリーと虫の鳴き声が聞こえ始めている。
少し整理しよう。
これからオレは、どう動くか。
あの使用人モドキを、どう扱うか。
信用していいのは3人。
利害関係のある、女王リノンとアルク。
それと、その渦中にあるモルウェナ。
それ以外は、いつ寝首をかかれてもいいようにしておく。
心の準備をしておこう。




