4.7.23
リノンと今後の話をまとめた。
叙任式は3日後。
それ以後、オレは、リノン女王のゲストナイトという称号を得て、女王の側近という肩書になる。
オレの寝床は、王城から、できるだけ離れた場所にしてくれと頼んだ。
そして、ヴィルゴシータの街から外れた南側に決まった。
場所が分からないので、これからアルクに案内してもらう。
食糧による報酬の支払いも、リノンは承諾した。
最初の支払いは、叙任式の当日。
交渉の末、穀物30キロ、リンゴのワインを樽で20リットル。
30人分の朝食のパンが、1週間くらい焼ける量らしい。
以後は、パーティーや式典に参加するごとに、同じ量を支払うと言った。
ようは、完全出来高制の現物支給だ。
なんだか、最終的にオレが丸め込まれただけな気もする。
しかたない。
あいつらは、日常的に、王宮の魔窟で命がけの舌戦を繰り返してるんだ。
オレなんかが上がれる土俵じゃない。
がんばったほうだろう。
少なくとも、この国の女王との友好的なパイプができたんだ。
それで充分だ。あまり深く考えるのはよそう。
そして、サンダーソニアの話。
それは叙任式の後に話すと言われた。
さすがだ。ぬかりはない。
オレが本当に欲しいものは、ぶっちゃけそれだけ。
しっかり、見抜かれている。
帰りは、堂々と城の正門から出た。
リノンと会話していた建物は、城内にあるリノン専用の屋敷だった。
その屋敷に入れる人物は極めて少数で、信頼のおける生え抜きの女性メイドと、アルクのような幹部の側近だけらしい。
ちなみに、モルウェナもその屋敷で寝起きしてるようだ。
家には馬車で向かうことになった。
引く馬は1頭。御者はアルク。
必要最小限のスピードで走るよう念を押す。
アルクの手綱さばきは丁寧だった。
ほんとうに主席騎士なのか。
運転台で手綱を握るアルクに尋ねた。
「アルク」
「なんでしょう」
「ゲスト騎士のオレと、主席騎士のお前と、どっちが偉いんだ」
「もちろん、ソウジさんです」
だよな。ウソだ。
「使用人はどうなってる」
「人選は終わっています。夕方には屋敷に訪れるはずです」
「屋敷?」
「はい。屋敷です。使用人の食事や日用品は、彼らに用意させますので、ソウジさんが気になさる必要はありません」
「屋敷?」
「ええ、屋敷です」
ガタガタと馬車が走っていく。
時間は、まだ正午の少し前。
「アルク」
「なんでしょう」
「飯くっていこう。お前のおごりで」
「この国で、私に、たかることができるのは、リノン陛下とあなたくらいですよ、ソウジさん」
「でも、おまえの方が偉いんだろ?」
「私の仕事は、あなたの接待です。
身分は私が上ですが、政治的にはソウジさんは、リノン陛下と同格です」
「なるほど」
「それより、ソウジさん。
叙任式が済むまで、目立つ行動は控えてください。外食もダメです」
「なぜ?」
「バイスタンダーが女王派についたという噂が、すでに広まりつつあります。普通に考えて、叙任式までの3日間が寝首を襲うピークですね」
それは……めんどくせぇ。
「アルク」
「なんですか?」
「反現王派だったか?
テーベはなぜ、そんなものを組織することになったんだ?」
「それは……株式会社です」
「え?」
「ソウジさんがもたらした、株式会社の仕組みです」
「それがどうかしたのか?」
「出資と配当……すばらしい仕組みです。
商売の知識がなくとも、お金を出すだけで商売に参加し、配当を得ることができます。
あれからまだ、半年しか経っていませんが、テーベは多くの貴族を出資者に誘いました。
現在のスピカの街では、政治家や王族を含む、あらゆる権力者が配当を得るために出資し、スピカの街の経済を回し始めています。
もちろん、その権力者の中に、リノン陛下の叔父も含まれています」
なるほど……
王権を打倒するかもしれないと期待して、オレが蒔いた火種。
それが、ちゃんと燃え上がって、打倒しようとしていたのか。
ん……まてよ……
ということは、今回オレが巻き込まれてるのは、自分で蒔いた種?
つまり、オレのせい?
「それは……悪いことしたな……」
「いえ、そんなことはありません。
王国の経済は生産をけん引しながら、劇的に前進し始めています。
今回の国難さえ乗り切れば、この国の治世も、民の生活も、ますます豊かになっていくことでしょう」
「ならいいんだが……」
「さ、見えてきましたよ。あれがソウジさんのお屋敷です」
お屋敷……
そんなんじゃなくて、ワンルームマンションの1室みたいなのでよかったんだが。
見えてきたのは、ホーンテッドハウスのような建物だった。
原っぱで存在をアピールしているのは、西洋の山奥にありそうな三角屋根が載った2階建ての屋敷。
最初は白かったのだろう、スス汚れで黒ずんだ壁。
夜になったら、闇に紛れて建物全てが消えてしまうかもしれない。
とにかく「ザ・マンション(豪邸)」という雰囲気の佇まいだった。
「なんかでるだろあの家」
「さぁ? どうでしょう。大丈夫だと思いますけど」
「おまえも、今夜、泊まっていけ」
「申し訳ありません、私は別件で仕事がありまして……」
だよな。ウソだろ。




