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4.7.22 - 約束事


 翌朝。


 まだ薄暗い時間。

 オレは、王城近くの建物の2階で眼を覚ました。


 階段を降りていくとアルクの姿。

 今日も、アルクと共に王城へ向かう。


 しかし、入り口のドアはかんぬきを掛けたまま。


 アルクが口を開く。

「朝いちばんで、リノン陛下とお会いしていただきます。参りましょう」


 アルクが、奥の扉を抜ける。

 オレもその後に続く。


 アルクはランタンに火を灯し、内側から扉のかんぬきをかけた。

 すぐ横に地下へと続く階段。


 そこを降りていくと、半開きになっている鉄でできた頑丈そうなドア。

 ドアの先は、真っ暗な地下通路が続いていた。


 ランタンの灯りを頼りに、その通路を進んでいく。

 しばらく進むとまた扉。


 アルクがその扉をノックする。

 ガコンと音が聞こえたあと、その扉が開いた。


 扉の向こうに階段。

 その途中に、昨日の若い剣士2人が立っていた。

 その先は明るい。

 陽の光が差している。


 アルクは持っていたランタンを剣士に預ける。

 そして、階段を昇っていく。

 途中で振り返り、呆けているオレに声をかけた。


「ソウジさん? こちらですよ」


 階段を昇りきると、全体的に石造りの部屋。

 狭くはない。

 天井の高いところに、隙間があり、そこから外の光が差し込んでいた。


 部屋の中央には、面積の半分ほどの窪み。

 膝ほどの深さの石造りの窪みだ。

 その窪みの中に、綺麗な真水が蓄えられていた。


 井戸ではない。水を蓄えておくための大きな石の桶。

 その大きさ。深さ。

 日本人のオレに思いつくのは、ひとつしかない。

 湯気はたっていないが、どうみても浴槽。

 つまり、ここは浴室か。


「アルク、ここはどこだ?」

「秘密です。王国のトップシークレットです」


 アルクが、靴を脱ぐ。

「申し訳ありませんが、ソウジさんも……」

「土足は禁止か」

「それと、ここからはエングル語でお願いします」

「オーケー」


 ふたりで靴を抱えて、その部屋を出る。

 次の部屋は、獣脂の匂いがこもったフローリングの部屋だった。

 片側の壁には、均等に四角いガラスが埋め込まれている。

 そこから、光が差し込んでいる。

 そのガラスも分厚く、外は見えない。


 壁際にはずらりと衣装が並んでいる。

 極わずかだが、ひらひらとフリルのついたドレスもあるが、どれも地味なものばかりだ。


 進む先に木の扉。

 重厚なものではない。


 アルクがその扉の前に立ち、ドアをノックしてから、扉に向かって話かけた。

「アルクです」

 扉の向こうから、女性の声。

「入りなさい」


 アルクがノブを回し、その扉を押す。

 建付けが悪いのだろうか、ギィッと大きな音。

 アルクが首をまわす。


「ソウジさん、ここからは靴を」


 中央には、ソファーとローテーブルのセット。

 その奥の壁際には、本棚や、飾り棚が並んでいる。

 顔を右へ向けると大きなガラスから陽の光が差し込んでいた。


 ガラスの手前に重厚な事務机。

 その先に座っていたのが、修道女のような格好の女性。


 この国の女王だと紹介されているリノン。

 リノンが立ち上がり、机を離れてソファーに歩み寄る。

 アルクもソファーの横へ。


 リノンがソファーに腰を下ろすと、アルクは左手を広げ、オレにも座るようにと促した。


 その前に靴を穿く。未希から貰った靴。

 ソファーへと歩み寄る。

 オレは、リノンの真向いに腰を下ろした。



 ずいぶん手の込んだ仕掛けを用意してくれたものだ。

 ある意味、最高級のVIP待遇。


 リノンはオレに、命の隠し場所を教えた。


 あの修道女は、命の残りのチップを、バイスタンダーに全額賭けやがった。

 それでいいのか、本当に?

 バイスタンダーとはそれほどの価値なのか?

 昔はともかく、今はオレだぞ?


 なんだか、うすら笑いが込み上げてくる。


 それを感じ取ったのかどうかは知らないが、リノンの能面から、僅かな笑みが滲みだした。

 そのまま、その口元が揺れる。

「それじゃ、約束事を決めましょうか」


「……そうだな。サインは必要か?」

「そんなもの、なんの価値もないわ。あるのは要求と権利。それだけよ」


 なんだよ、分かってるじゃないか。


 裏社会のルール。

 ただの口約束。

 契約もないし、誰かが保障してくれるわけでもない。


 あるのは、要求された仕事と、対価を受け取る権利だけ。

 どちらかが約束を破れば、失うのは信用。

 誰も仕事をしなくなるか、次の仕事がなくなるだけ。

 破滅するか、殺されるだけ。


 いいだろう。

 オレはなにも信用しないが、その賭けにのってやる。



 いつのまにか、にやけ顔が消えて、いつもの能面に戻っていた。

 鏡を見て、自分の顔を修正でもしているかのように、オレを眺めている。

 そして、その顔の口だけがまた揺れた。



「あら、あなたも、そんなふうに笑うのね? ソウジ?」



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