4.7.21
守備隊としての任務放棄。
おかげ、さんざん文句を言われたが……
そういうのには、慣れている。
どうでもいい。すべて聞き流す。
なにも聞こえない。
木材の運搬をいくらか手伝い、雑草とハーブで煮込んだ、恐ろしく不味い失敗作のシカ肉シチューを食べた。
急激に人数が増えた前哨基地では、圧倒的に食糧が不足しているようだ。
畑による自給自足ができるまで、まだしばらくかかるだろう。
逆に言えば、食糧を運び込めば、誰にも、なにも文句は言われなくなる。
だからオレは「食糧を手に入れるための工作中」だと告げて、陽が暮れた頃にヴィルゴの家へと戻った。
アルクへの依頼の条件に、食糧の提供も含んでおくべきだった。
まぁいいか。買えばいい。
カタセ村なら、銀貨1枚で1トンくらい買えるかもしれない。
……カタセ村で飢饉が発生するかもしれないな。
ヤメておこう。
そういや、ニシカタに頼んだ玉ねぎの受け取り。
あれいつだ。
もしかして、そろそろかもしれない。
間に合わないな。
ヴィルゴの家の2階に戻った。
日暮れだが、真っ暗だ。
……のはずだったが、階段の方で、オレンジ色の光が揺れていた。
カリカリとなにかの音がする。
剣を抜く。
足音を消して、階段に近づくと、カリカリ音がとまった。
オレが動くのをやめてしばらくすると、またカリカリ音。
それとパンとスープ。リンゴの匂い。
誰かいる。
誰だ。いや、それよりどうやって入った。
ばかばかしい。
足音を消すのはやめて、抜き身のままギシギシと階段を降りる。
剣の先だけ、階段の外に出し、反射で部屋の様子を伺うが、良く見えない。
黒い人影のようなものが映っているだけ。
その人影が喋った。
「ソウジさん、そんなに警戒しなくてもいいですよ。私です。アルクです」
ああ……なんだよクソ。
オレになんか恨みでもあるのか。
あるな。心当たりもたくさんある。
剣を鞘に戻し、階段を下って1階へ。
「どうやって入った」
念のため聞いてみたが、答えを聞くまでもなかった。
奥の扉が開いている。
「それは秘密です」
「この家は、修道女の別荘か」
「まぁ、そんなところです」
テーブルの上には、黄ばんだ紙と羽ペン。
アルクは、ここで書類を作っていたようだ。
「夕食は済ませましたか? 一応、もってきましたが」
「済ませたが、ほとんど吐いた。もらうよ」
「ソウジさんの条件ですが、女王様は概ね、了承されました」
「概ね? なにがだめだった」
「従士の件です。やはり監視よりも警護を厚くしたいと仰っています」
……ああ、なんでだよ。
せっかく、独り暮らしができるメモリアで、剣をぶら下げたやつと寝起きを共にするのは嫌だ。
「そこで、代案としてふたつ」
「なんだ?」
「王城に居住していただく」
「却下だ。従士だらけじゃねーか」
「では、従士ではなく、使用人かあるいはメイドを3名つけさせてください」
「どうせ、特殊訓練を受けた、ガチガチのコワモテ使用人が来るんだろう」
「それはもちろんそうですが、監視は無しです。身の回りの不便の解消と、王宮との連絡。それのみです」
身の回りの不便……
「パン買ってこいって言ったら買ってくるのか」
「もちろんです」
「カタセ村のエール買ってこいって言ったら、買ってくるのか」
「それは難しいですが……5人つけていいなら考えます」
まてよ……
これで解決するんじゃないか。
「分かったよ。使用人の条件を受け入れよう。ただし……」
「はい?」
「小麦と酒を100人、10日分用意しろ」
「……それは」
「なんだ、難しいのか」
「量を揃えるのは簡単ですが……反乱軍でも集めるつもりですか?」
「そんなわけないだろ」
「ではなぜ?」
「そうだな……恵まれない飢えた集落への寄付だ」
「どこですか? カタセ村ですか? 飢饉の話は届いていませんが」
ああ、めんどくせぇ……
「バイスタンダーの伝説には書かれてないのか?
オレの本業は、こことは別の世界。
そこに住んでる飢えた馬鹿どもにエサを持っていくのが、オレの仕事だ」
アルクが、静かになった。
視線はオレだが、途中の空気を見ながら、なにか考えてる。
「記憶の回廊の先……ということでしょうか?」
「そうだ。それをしなきゃオレは消滅。女王様も失脚。この国もおまえも終わりだ。いいのかそれで?」
「まったく信用できません……が、わかりました。食糧の件は私の方で考えてみます」
「ああ、たのむよ」
「本当に、反乱軍はナシですよ? お願いしますよ?」
「そんな面倒なこと、オレがすると思うか?」
「思いません」




