↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/439

4.7.19


 扉を出て、裏通りに戻る。

 庭園と違い、ここの通りは薄暗い。


 アルクを先頭に、そのまま壁伝いに歩いて行く。

 どこへ向かっているのか、ここが街のどのあたりなのか、オレにはサッパリ分からない。


 しばらくついていくと、2階建ての木造建築物の前で止まった。

 カギも使わずにその扉を開け、中へと案内された。


 最初に踏み入ったのは広い部屋。

 大きなテーブルと、それを囲む椅子。


 奥の壁に、タペストリーのようなものが吊るされているが、暗くて、どんなものなのかは、よく分からない。

 その部屋の脇にある階段を昇り2階へ。

 薄暗いが、分厚いガラスがはめ込まれた窓があり、陽が差し込んでいる。


 階段を昇りきるとすぐに部屋。

 ベッドがふたつ、中央にはテーブルと椅子。

 脇には執務机がある。


 アルクはテーブルの傍の椅子に腰を下ろした。

 オレもその向かいに腰を下ろし、日本語でアルクに質問した。


「オレに、なにをさせたいんだ? なにをさせられるんだ?」


「陛下は今、出所不明の聖犯の噂で、お立場が危うくなっています」

「それで? オレの存在で、その噂を掻き消そうと?」


「それもありますが、陛下も、無駄に王座に留まろうとは考えておられません。噂が燃え広がる前に、身を引こうと考えておられます」


「ならどうして?」


「モルウェナ様です」

「あの少女か? あの子はなんだ?」


「モルウェナ様は、リノン陛下の弟君の次女。つまり聖女。

 継承権第4位の王位継承候補者です」


 ああ……どうでもいい……

 現代社会の政治にすら興味がないのに、古代の王位継承権なんて、本当にどうでもいい。


「王族の姫は14歳を過ぎると、継承筆頭順位群へと格上げされます。モルウェナ様は現在10歳と4カ月。あと3年と8カ月で、筆頭順位群の名簿に記入されます」


 アルクのお経のような早口言葉。

 思いついた質問だけ、アルクに投げ返す。


「それまでの時間稼ぎをしたいということか」

「その通りです」


「他の継承者はどうなっているんだ」


「リノン陛下の叔父にあたる人物の18歳の孫娘が、現在第1位。その妹君が14歳で第2位となっています」


「3位は?」

「リノン陛下の祖父にあたる孫娘が、42歳で第3位です」


 えーと……


 いとこの娘と、その妹がポールポジションで?

 ほとんど他人の孫で、おそらくリノンよりも年配の婦人が2列目?


「それで4年くらい経つとどうなるんだっけ」

「リノン陛下の弟の娘。つまり、お父上の直系である、モルウェナ様が14歳になれば、その時点で第1位となります」


 なるほど。

 叔父のチームは、3年8ヶ月以内にモルウェナを暗殺するか、リノンを失脚させないと、娘は王女になれない。

 そりゃたしかに、王宮も荒れるかもな。


「モルウェナは次女と言ったな。他に娘はいるのか?」


「リノン陛下には、姉と妹がおられますが、すでにご結婚されています」

「結婚すると、継承権は消滅する……だったか」


「リノン陛下の兄上。こちらにも姫様がふたりおられました……

 が……長女は不審死。次女は誘拐されたまま行方不明。

 そして、モルウェナ様の姉君。

 所在不明なのですが……14歳でご存命です。ご結婚なさる予定です」



「行方不明なのに存命で結婚の予定?」

「数度の暗殺未遂と思われる出来事があり、地方に潜伏しておられます」


「不審死、誘拐、行方不明。この国の治安はどうなってるんだよ」


「お恥ずかしい限りですが、こればかりはどうにもなりません。王族の継承権争いというのは、傍から見れば滑稽なものなのでしょうね」


「モルウェナは安全なのか」

「現在は、リノン陛下のお側にあり、厳重な警備のもとで管理されていますが、完全なものではありません」


 あんなに小さくて、花をめでる無邪気な少女なのに……か。


「ちなみに、弟殿下もすでにお隠れになりました」


「は? お隠れって」

「馬車の車輪が外れ重傷を負い、そのまま……

 その事故で、モルウェナ様のお母さまも一緒にお隠れになりました」


「……聖女も、その家族も大変なんだな」

「まったくです……お昼のお茶会であっても、口につけるものには、必ず毒見が必要です」


 アルクが、遠い目で、空を見上げた。


「亡き弟殿下の忘れ形見であるモルウェナ様に、なんとしてでも王位を継いでほしい。それがリノン陛下と、女王派の切なる願いです」



「他の候補者を殺害したのは誰だ?」

「誰かは分かりませんが……その結果、叔父の孫娘が現在1位と2位です」


 現代社会で、足を引っ張りあってる政治家のほうが、よほど健全だな。


「で、そんな魔境で、オレになにができるんだ」


「かつての英雄、バイスタンダーの主となれば、大きな箔が付きます。

 ソウジさんがなにかをする必要はありません。

 存在をチラつかせるだけで、女王派の影響力は増し、リノン陛下に向けられる不信も霧散することでしょう」


 にわかには信じられない。

 アルクも、リノンも、夢でも見てるんじゃないのか。

 いや……縋るのはオレではなく、バイスタンダーか。

 昔のプレイヤーは、すごかったんだな。



「オレはなにもしなくていいんだよな?」

「はい。ああ……しかし、叙任式だけは出てください。それをしないとなにも始まりません」


「まぁ、だいたい理解した。それくらいならやってもいいだろう」


 やりたくないけどな。

 だから、オレも欲しいものを提示しよう。


「オレの条件を出そう」

「なんでしょう?」


「どこでもいいから、目立たない場所に棲み処を用意してくれ」


「それは簡単ですね。たとえばこの家でいいなら、今日からここはソウジさんの家です。ここが嫌なら別の場所も手配できます。他には?」


「従士3名を付けると言っていたよな。それはただの監視役だろう。不要だ」


「それは……どうでしょう。

 監視も含まれていると言うのは否定しませんが、護衛や連絡の任務も含まれていて、おそらくそちらの意味合いの方が強いかと思います」



「護衛? 女王からの依頼は、護衛が必要な要件なのか?」

「…………」


「誰かが、オレの首を斬り落としに、夜中に忍び込んでくるのか?」


 アルクが、困った表情に変わってしまった。



「ソウジさん……正直に申し上げます。

 その危険性は、ゼロではありません。

 25年後に蘇るあなたの命の価値観は、私には測りかねますが……

 あなたの存在は、リノン陛下の名誉と、この国の安寧に関わるもの。

 モルウェナ様のお命にも関わります。

 万にひとつも、あってはなりません。

 モルウェナ様が14歳になるまで、あなたには、生きてもらわなければ困るのです。ですから、従士の件は、どうかお受けになってください」



 まぁ……

 そりゃそうだよな……


 暗殺が横行する宮廷。

 そこに突然現れた、女王派の最重要人物。

 ヘタしたら、まだ時間のあるモルウェナよりも緊急の事案だ。

 狙われるに決まっている。


 しかしオレは、いつでもどこでも、エレメント・ノードに逃げられるし、そもそも、いつ殺されてもいいとすら思っている。


 なのでやはり、


「それでも、従士は不要だ。断わってくれ。

 これは、辞退ではなく、オレからの条件だ」


「わかりました……」

「ああそれと」


「まだなにか?」


 オレは左手で、サンダーソニアのクロスガードに触れた。


「この剣について知りたい。この国に残っている、サンダーソニアについての話を、いつでもいいから聞かせてくれ」


 アルクが笑顔を見せた。

 作ったような笑顔ではなく、自然な笑顔だ。

 珍しい。


「それなら了承されるでしょう。

 リノン陛下にお願いしてみます。

 他になにかありますか?」



「それだけだ」


 アルクが立ち上がる。


「それでは今日明日中に、ソウジさんの条件をリノン陛下に伝えます。

 明日の夕方に、またこの部屋で落ち合いましょう」



「ああ、わかったよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。