表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/262

4.7.10


 翌朝。


 レストランへ行き、リンゴワインのボトルを購入した。

 ボトルといっても、このメモリアではガラスはほとんど見かけない。

 入れ物はガラスではなく陶器でできている。


 料金は、銀貨1枚だと言われた。

 農民の給料1~2ヶ月分。


 1本購入し、部屋に戻る。

 昨日買った、フェルト帽と黒いマントは部屋に置いていくことにした。

 前哨基地に着て行ったら汚れるし、帽子の羽をみたティナに何を言われるか分からない。


 オレは、元の盗賊おかしらコーデに戻し、前哨基地へと飛んだ。


 リンゴのワインボトルを片手に、基地の中心部へと歩く。

 陶器のボトルは、注ぎ口に紐がついていた。

 江戸時代のサムライが、紐で吊った焼酎の瓶をぶら下げて歩いているような感じだ。


 誰かに呑ませて、感想を聞こうと思っていた。

 オレには、このワインは甘すぎてムリだ。

 だからオレ以外の酒好きの感想が聞きたかった。


 歩いていたら、後ろから声。


「おいソウジ。いつもいつも、アンタどこに出かけてんだよ」


 ティナだ。

 最初はうっとおしいヤツだったが、最近はそうでもない。

 ティナも片手に、茶色い瓶を持っていた。

 液体が入っているように見える。


「……なんだよ。なんか用か」


「バーボンあんだけどよ、アンタもどうだい。つきあいなよ」

「どうしたんだそれ」


「2連勤すると酒が手に入るっていう、最近のこの基地のルールだよ」


 つまりティナは、14時間労働の後か。


「ティナは酒好きなのか。甘い酒も呑めるか?」

「甘い酒? よくわかんないけど、そんなの呑んでみなきゃわかんねーよ」


 その通りだ。



 ティナと2人で、近くの焚火まで歩き、腰を下ろした。

 他には誰もいない。


 ティナは、背中のポーチから、コップをふたつ取り出した。

 そんなものまで、いつも持ち歩いているのか。


 ゴミを飛ばしてくれたのだろうか。

 コップの内側に「ブッ」と唾の混じった息を吹きかけてから、コップのひとつをオレに差し出した。


 シュルン、とキャップを回し、オレのコップに琥珀色の液体を注いでいく。

 その後、ティナ自身のコップにも注ぐ。


 ティナはコップをクッとオレの方に掲げてから、自分の口に寄せる。

 オレも注がれた液体に口をつけた。


 ほんのりとリラックス感のある風味。

 良かったのはそこまでだった。

 コーンの搾りカスにキャラメルを塗り込んだような雑な甘み。

 舌に絡みつくのは、接着剤を作ろうとして失敗したかのようなザラっとした粘液。

 呑み込むと案の定、ハリネズミが暴れまわっているような刺激が、喉の粘膜を襲った。


 ひと口飲んだだけで、視界が歪み、世界が変りかけた。


「接着剤でも煮詰めたのか」

「これが古き良きバーボンなんだよ。なに言ってんだ」


 もうひと口、含んでみる。

 ほんのり甘みがあるし、風味もまぁ悪くない。

 雑味は酷いが、今まで呑んだこの世界の酒にしては、呑みやすいかもしれない。


「ところで、ソウジ。その瓶はなんだ? 酒か?」

「うん? ああ、アップルワインだ。呑んでみるか?」


 ティナがコップのバーボンをあおる。


「ッフーッ」

 っと、火でも吹こうとするような仕草を見せながら、カラになったコップをオレに向けて突き出した。


 オレはそのコップに、アップルワインを注いでいく。


 ティナは、まず香りを確認し、それから口をつけた。

 ドロドロのアップルワインの液体を口の中で転がし、そして呑み込む。


「悪くないが、甘すぎるな……水か何かで割って呑むワイン……っていうかネクターだろこれ」


 おまえはプロか。

 自称ソムリエかなにかか。


 しかしティナは、そのまま動きを止めた。完全に静止した。

 視線は、コップに残ったアップルワインの液体に注がれたままだ。


「いや、まてよ……アンタ、コレもしかして……」


 なにか思いついたのか?

 その表情は、真剣そのものだ。

 見張りのときでも、なかなか見ない顔だ。


 ティナは、濃厚アップルワインが残るコップに、劇薬のバーボンを注いだ。

 そして、それを口に含む。


「キタ、コレ……とんでもないアップルバーボンだよ。売れるよこれ」

「え?」

「やばい。旨すぎ。アンタも割って呑んでみな」


 言われるがままに、自分のコップにアップルワインを注ぐ。

 そして、口に含む。


 ああ……旨い……かもしれない……ような気がする。


 ハリネズミの怒りは、リンゴのドロドロの重厚感が丸め込んだ。

 リンゴの濃厚な甘みと酸味が、接着剤の粘り気を分解した。


 そして極めつけは、キャラメルとリンゴの融合。

 ヘタクソなギタリストと、勘違いしたバレエダンサーの共演。

 バーボンのキャラメル感とリンゴが絡み合い、スッキリとしたブランデー入りのアップルパイのような風味を生み出していた。


 とりあえず、言えることは。

 双方単体で呑むよりも、混ぜた方がまだ呑める。

 それは間違いないだろう。


「デザートだなこれは」

「アンタ、わかってねぇよソウジ。これは女子に大人気になる。間違いない」


 そうだった。ティナも女子だ。

 ウィルコープスを投げ飛ばし、ダガーで喉を切り裂く女子。

 信憑性は低い。


 そもそもこのカクテルは、ブランデーなのか、バーボンなのか、ワインなのか。よく分からない酒になっている。

 ゲームに負けた大学生が呑むような酒だ。


 オレもティナも、すでに少し酔っているから、旨く感じるのかもしれない。


 まぁしかし。

 スピカの街の特産品の利用方法が分かったかもしれない。

 バーボンで割れば旨い。呑める。



 次にテーベに会った時、このレシピを売ろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ