4.7.10
翌朝。
レストランへ行き、リンゴワインのボトルを購入した。
ボトルといっても、このメモリアではガラスはほとんど見かけない。
入れ物はガラスではなく陶器でできている。
料金は、銀貨1枚だと言われた。
農民の給料1~2ヶ月分。
1本購入し、部屋に戻る。
昨日買った、フェルト帽と黒いマントは部屋に置いていくことにした。
前哨基地に着て行ったら汚れるし、帽子の羽をみたティナに何を言われるか分からない。
オレは、元の盗賊おかしらコーデに戻し、前哨基地へと飛んだ。
リンゴのワインボトルを片手に、基地の中心部へと歩く。
陶器のボトルは、注ぎ口に紐がついていた。
江戸時代のサムライが、紐で吊った焼酎の瓶をぶら下げて歩いているような感じだ。
誰かに呑ませて、感想を聞こうと思っていた。
オレには、このワインは甘すぎてムリだ。
だからオレ以外の酒好きの感想が聞きたかった。
歩いていたら、後ろから声。
「おいソウジ。いつもいつも、アンタどこに出かけてんだよ」
ティナだ。
最初はうっとおしいヤツだったが、最近はそうでもない。
ティナも片手に、茶色い瓶を持っていた。
液体が入っているように見える。
「……なんだよ。なんか用か」
「バーボンあんだけどよ、アンタもどうだい。つきあいなよ」
「どうしたんだそれ」
「2連勤すると酒が手に入るっていう、最近のこの基地のルールだよ」
つまりティナは、14時間労働の後か。
「ティナは酒好きなのか。甘い酒も呑めるか?」
「甘い酒? よくわかんないけど、そんなの呑んでみなきゃわかんねーよ」
その通りだ。
ティナと2人で、近くの焚火まで歩き、腰を下ろした。
他には誰もいない。
ティナは、背中のポーチから、コップをふたつ取り出した。
そんなものまで、いつも持ち歩いているのか。
ゴミを飛ばしてくれたのだろうか。
コップの内側に「ブッ」と唾の混じった息を吹きかけてから、コップのひとつをオレに差し出した。
シュルン、とキャップを回し、オレのコップに琥珀色の液体を注いでいく。
その後、ティナ自身のコップにも注ぐ。
ティナはコップをクッとオレの方に掲げてから、自分の口に寄せる。
オレも注がれた液体に口をつけた。
ほんのりとリラックス感のある風味。
良かったのはそこまでだった。
コーンの搾りカスにキャラメルを塗り込んだような雑な甘み。
舌に絡みつくのは、接着剤を作ろうとして失敗したかのようなザラっとした粘液。
呑み込むと案の定、ハリネズミが暴れまわっているような刺激が、喉の粘膜を襲った。
ひと口飲んだだけで、視界が歪み、世界が変りかけた。
「接着剤でも煮詰めたのか」
「これが古き良きバーボンなんだよ。なに言ってんだ」
もうひと口、含んでみる。
ほんのり甘みがあるし、風味もまぁ悪くない。
雑味は酷いが、今まで呑んだこの世界の酒にしては、呑みやすいかもしれない。
「ところで、ソウジ。その瓶はなんだ? 酒か?」
「うん? ああ、アップルワインだ。呑んでみるか?」
ティナがコップのバーボンをあおる。
「ッフーッ」
っと、火でも吹こうとするような仕草を見せながら、カラになったコップをオレに向けて突き出した。
オレはそのコップに、アップルワインを注いでいく。
ティナは、まず香りを確認し、それから口をつけた。
ドロドロのアップルワインの液体を口の中で転がし、そして呑み込む。
「悪くないが、甘すぎるな……水か何かで割って呑むワイン……っていうかネクターだろこれ」
おまえはプロか。
自称ソムリエかなにかか。
しかしティナは、そのまま動きを止めた。完全に静止した。
視線は、コップに残ったアップルワインの液体に注がれたままだ。
「いや、まてよ……アンタ、コレもしかして……」
なにか思いついたのか?
その表情は、真剣そのものだ。
見張りのときでも、なかなか見ない顔だ。
ティナは、濃厚アップルワインが残るコップに、劇薬のバーボンを注いだ。
そして、それを口に含む。
「キタ、コレ……とんでもないアップルバーボンだよ。売れるよこれ」
「え?」
「やばい。旨すぎ。アンタも割って呑んでみな」
言われるがままに、自分のコップにアップルワインを注ぐ。
そして、口に含む。
ああ……旨い……かもしれない……ような気がする。
ハリネズミの怒りは、リンゴのドロドロの重厚感が丸め込んだ。
リンゴの濃厚な甘みと酸味が、接着剤の粘り気を分解した。
そして極めつけは、キャラメルとリンゴの融合。
ヘタクソなギタリストと、勘違いしたバレエダンサーの共演。
バーボンのキャラメル感とリンゴが絡み合い、スッキリとしたブランデー入りのアップルパイのような風味を生み出していた。
とりあえず、言えることは。
双方単体で呑むよりも、混ぜた方がまだ呑める。
それは間違いないだろう。
「デザートだなこれは」
「アンタ、わかってねぇよソウジ。これは女子に大人気になる。間違いない」
そうだった。ティナも女子だ。
ウィルコープスを投げ飛ばし、ダガーで喉を切り裂く女子。
信憑性は低い。
そもそもこのカクテルは、ブランデーなのか、バーボンなのか、ワインなのか。よく分からない酒になっている。
ゲームに負けた大学生が呑むような酒だ。
オレもティナも、すでに少し酔っているから、旨く感じるのかもしれない。
まぁしかし。
スピカの街の特産品の利用方法が分かったかもしれない。
バーボンで割れば旨い。呑める。
次にテーベに会った時、このレシピを売ろう。




