4.7.7
前哨基地に戻る。
任務開始の時間まで、まだ余裕があった。
ベンチに座り、旅の携行食のつもりで買った黒パンをかじる。
硬い。歯が軋む。
思えばニフィル・ロードでは、歯磨きをしていない。
しかし、この木材のようなパンを噛み砕くことで、歯も磨かれているのかもしれない。
食べ終わってから、基地の中心へと向かう。
途中の焚火で、リュウジとロンが座っていた。
リュウジは、バナナの皮タバコを咥えている。
「おいソウジ。おまえもいっぷくするか」
「タバコはもう、ヤメたよ」
「そうかぁ、まぁ百害しかねぇよなぁタバコは」
オレもそこに、腰を下ろすことにした。
「賭場の準備は進んでるのか」
「まぁだ、なんにもしてねぇよ。ヒトがいねぇしな」
「いつ増えるんだ、この基地の人員は」
「聞いた話じゃ、次の補充で百人くらいになるらしいぜ。賭場を始めるのはそのあとだ」
「次の補充っていつだよ」
「さぁな。バナナ喰うか?」
リュウジがポケットから緑色のバナナを出した。
「俺のメモリアはバナナばっかりだからよぉ。とっとと賭場を開いていいモン喰いてぇな」
バナナを受け取る。
近づけて見るとエメラルドのような色。艶のいいバナナだった。
熟す前のスイカのような匂いがする。
固い皮をむいて口に入れると、オレの知ってるバナナの歯ごたえじゃない。
甘くなく渋みが強い。
生のゴボウを食べているような気分だった。
「アンタ達、準備はいい?」
ティナの声。
振り向くと、腰に手をあてたティナが立っていた。
「おぅ、隊長の姉さん。バナナ喰うか?」
「いらねーよ。それより見張りの説明するから、1回で覚えろよ」
ティナが説明を始めた。
4人が4ヶ所に散らばる。
ひとりが隣の見張り場まで歩き、合流した相手が次の見張り場へ歩く。
4人でリレーしながら塀を1周。それを交代まで繰り返す。
なにかあったら、近くの鐘で知らせる。
つまり、3人は立ち止まり、誰かひとりが常に歩いていることになる。
定期的なローテーションが発生するので、居眠りしていても、歩いてきたヤツに起こされる。
「それじゃ始めるよ。担当する方角に行って交代しな」
オレは塀の北西スタートになった。
最初に歩くのもオレ。
交代する相手はウィリアムだった。
片手にワインボトルを掴み、塀の縁に座っている。
もしかして酒が欲しかったのは、部下じゃなくてウィリアム自身か。
声をかけると、疲れ切った顔をオレにむけた。
「よう、サムライボーイ。やっと交代か」
「サムライ?」
「君は最近、西洋剣を持ったサムライって呼ばれてるよ。もちろん褒め言葉だ」
「オレは、サムライじゃないよ」
「フッフフ、基地にいる日本人がサムライとヤクザだ。笑えるだろ」
「……交代だろ。さっさと帰って休んだらどうだ」
「それもそうだな。飲み過ぎた」
「基地の責任者も、ヤケ酒をあおりながら見張りをするのか。尊敬するよ」
ウィリアムがふらふらと立ち上がる。
襲撃があったら、どうするつもりだったんだ。
「それじゃ、後はたのむ。昼間はいいが夜は呑むなよ。しっかり見張れ」
ウィリアムは土塁を下っていった。
この基地の体制に、急激な不安を覚える。
……オレは、まじめに任務をこなそう。
いつもの仕事と同じだ。
ただ見張るだけ。
見逃したら怒られるだけじゃ済まされない。
オレの身も危険にさらされる。
いつもと同じだ。
まぁ、いざとなったら、オレだけ真っ先にメモリアに逃げよう。
いつもの仕事でも、そうしている。
パクられる見張りは、ただのマヌケだ。
ヤバそうだったら、報告だけ済ませて逃げる。
見張りは捕まらない。殺されない。
それが見張りという仕事。
ある意味、いちばん安全だ。
さて、じゃあ始めるか。
まずは北東へ。
オレは、ティナが立っているであろう基地の北東へと歩き始めた。




