4.7.3
シャワーを浴びてから、商店街をぶらつく。
駅までは、歩いて10分くらい。
まったく知らない街というわけではない。
飲食店も充実している。
夕方に牛丼屋で夕食を済ませて、アパートへ戻る。
部屋に戻ると、エアコンは点けっぱなしだった。
静かなので、動いているのかどうかわかりにくい。
電気代の浪費で、雇用主から嫌味を言われるかもしれない。
次はちゃんと消そう。
部屋にはなにもない。
布団もない。
カーテンもない。
しかし、窓は防音のようだ。
隣の部屋も、床の下も静かだ。
たまに、振動で部屋がガタガタと揺れるが、それが過ぎると不気味なほどの静寂が戻る。
オレはフローリングの上に寝転がり、そのまま寝た。
翌朝。
7月29日、木曜日。
目が覚めたのは、朝の5時。
決して、早起きなのではなく、寝るのが早すぎただけだ。
カラダを起こすと、なにもないガランとしたフローリングの上。
ここが自分の部屋だと気付くのに少し時間が必要だった。
板の間で寝たので、カラダが痛い。
しばらくは、ぼーっと壁や天井を眺めていた。
カビているような箇所もなく、クロスも天井も清潔に見える。
床板の上で、ビリビリと不快な振動。
視線を落とすと、スマホが床の上を這いずり回っている。
充電が切れかけていて、電池のマークが赤色だった。
そういや、充電コードを前のアパートに置いたままだ。
それくらい、持ってくればよかった。
通知はストームから。
『今日は朝からログインするけど、総司はどうする?』
『オレは用事がある。明日でいいか』
『わかった。なにか伝えておきたいこととかある?』
『アーネストに、はやく増員送れと伝えてくれ』
『わかった』
10時頃になり、部屋を出た。
買い物をする。
スマホの充電コード。
タオルケット。
それとクッション。
とりあえず、それだけでいいだろう。
雇用主からメッセージを受信。
『引っ越しは済んだか? 指示書はどっちに送ればいい?』
『新しい家の方へお願いします』
『土日は空けておけ。仕事だ』
『わかりました』
やりたくない。
だが、断ったら、この部屋から追い出される。
仕事もなくなる。
使えないヤツはすぐに切られる。
情けはない。
拒否権もない。
夕方に未希からメッセージを受信。
『明日は、夕方に、みきの家でログインすることになったよ』
実家か。
行きたくない。
というか、もうオレ、ログインしなくてもいいんじゃないのか?
その翌日。
7月30日、金曜日。
近くの中華料理屋で昼飯を喰っていたら、ストームからメッセージ。
『総司も来て。まゆさんちにひとりで行くのムリ』
『なんでだよ。母親とも顔見知りだろ』
『今日は、お父さんもいるんだって』
だったら、なおさら、オレは行かない。
絶対に行かない。
『じゃあ、明日でいいだろ』
『明日は、みきさん、家族でお出かけするんだって』
知るかよ。
『なら日曜にしろ』
『総司の住んでるとこじゃダメ? だれかと住んでるの?』
ダメに決まってるだろ。
いや、まてよ……
雇用主が部屋に友達呼んでもいいって送ってきてたな……
でも、ダメだ。
『なんでそんなに急ぐ必要があるんだよ』
『夏休み中に、ルミナス・ノードまで行っておきたい』
もしかして、受験勉強とか、そういう理由か。
『部屋が汚いの? 彼女が住んでるの?』
『どうでもいいだろ、そんなこと』
『どうでもいいなら、いいじゃん』
よくない。
『総司、オネガイ』
それからも、押し問答がつづいた。
いい加減、無視をしていたが、最後のメッセージでオレは折れた。
『総司は、わたしに借りがあると思う』
いったい、いつからこんな性格になったんだ。
ストームは、コミュニケーション苦手だろ。
まぁいいか。
オレはまた流された。
オタクでネクラで不健康なはずの高校生に。
今日だけだぞと、念を押して、14時に駅前で待ち合わせをした。
待ち合わせ場所へ行くと、未希とストーム。
先に言っておくことがある。
「オレの部屋で、ニフィル・ロードの話はするな。小声で話すのもだめだ」
「んん、どうして?」
「他の会話なら、大声で話してもいい」
「なんでダメなの?」
「念のためだ」




