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4.7.1 - 新生活


 ログアウトした。

 ストームの部屋の時計は、13時を回る手前だった。


 部屋にはオレしかいなかったが、1分もしないうちに、ログインゲートの幕がふたつ出現した。

 未希とストームが部屋に戻った。



 腹が減ったというので、3人で近くのファミレスへ向かう。

 ランチを食べながら、前哨基地で別れたあとの話をした。


 未希とストームは、なんの問題もなく、2日目に噴水広場に到着したらしい。

 その後は、また池を温泉に変えてソフィアと3人で疲れを癒し、アーネストらに招かれて食事会。

 カイルとの旅の顛末を報告し、労いの言葉をもらい、ログアウトしてきたと言う。


 それが、オレが守備隊にさせられて、都合50体のウィルコープスと戦って生き延びた数日間の話。


 自分の話をする気が失せた。

 説明するのも面倒なので、なにもせずにぼーっと過ごしたとだけ話して終わらせた。


「それで、これからどうする」

 これからの話に切り替える。


 ストームが答えた。

「前哨基地の改築が終わるまでは、適当に過ごそうと思う。

 また何か依頼があれば集まってもいいけど、無理に危険なことはしなくてもいいよね」


 それは賛成だ。

 ストームにしては予想外の提案だった。


「わたしはメモリアに戻って、用事を済ませたいから、2ヶ月くらい自由行動にしない?」

「じゃあ、みきはリュウタにマテとお手を教えようかな。おにいちゃんは?」


「オレは……とくに考えてないよ……」


「ん……それじゃあ、8月中は各自で60日進めようか。

 現実時間だと14時間半くらいかな。

 なにかイベントがあったら、時間を合わせよう」


「ストームのメモリアの用事ってなんだ?」

「ん、政変。政治が上手くいってないから、わたしが介入して丸く収める」


 ……いったい、コイツのメモリアはどうなってるんだ。


「ねぇ、まゆさんて、今、高3だよね。受験勉強とかいいの……?」

「ん……それは……」


 受験勉強か。

 オレには、関係のない話だ。

 

「まだ未定……」


 ストームの表情が沈んでいた。

 お嬢様だからな。親からのプレッシャーなんかもあるのかもな。

 やはりオレには、無縁の話だ。




 オレ達はファミレスで解散した。

 タクシーを捕まえてアパートに戻る。


 郵便受けに、A4厚紙封筒が届いていた。

 もう次の仕事か。


 ドアを開けて、蒸し暑い部屋の中へ入る。


 封を破いて中身を確認した。


 カギが2本。

 ふたつとも同じカギだ。

 ギザギザではなく、丸い窪みがたくさんついている。

 ディンプルキーというやつだな。

 どこかの家か、マンションのカギだろうか。


 それと地図が印刷された紙。

 地図の中央に赤い丸。

 その横に数字。

 『204』


 場所は遠くない。

 電車でふた駅。

 タクシーなら、20分くらいだろう。


 他には、なにも入っていない。

 入れ忘れたのか。

 これだけじゃなにもわからない。


 スマホを取り出し、雇用主にメッセージを送る。


『カギが届きました。どうすればいいですか?』


 返事は数分後。


『おめでとう、昇進だ。

 今日明日中に引っ越しを済ませろ。

 部屋に残したものは、3日後にこちらで全て処分する』



 どうやら……

 この灼熱のボロアパートから、脱出できるらしい。


 昇進か。


 次はどんな部屋だろう。

 エアコンはついてるだろうか。



 荷物か。

 必要なものはなにもない。


 部屋にあるのは、畳んだ記憶のない布団。

 捨て忘れた帽子や、眼鏡。

 床に散らばってるのはA4厚紙封筒の残骸。

 小さなちゃぶ台の上に灰皿がある。吸い殻も入っている。

 だが、オレはもうタバコを吸っていない。


 それと冷蔵庫。開けてみる。

 電源は入っていない。

 その中にコンビニ袋。


 メロンパンが入っていた。


 いつ買ったんだか。

 もう2ヶ月近く経っている。


 日本の菓子パンは優秀だ。

 まだ食べられそうな色味を保っていた。


 そのままそっと、冷蔵庫を閉じた。


 あとは、押し入れに、ジャージや着替えが入っている。

 置いて行こう。荷造りが面倒だ。


 持ち出す物はなにもない。


 この部屋のカギはどうするんだ。

 その質問をスマホに打ち込みながら、オレは部屋を出た。


 雇用主からの返信。

『ポストにでも入れといてくれ』

 この部屋のカギをポストに入れた。


 さっそく新居の内見をしにいこう。



 現実世界の引っ越しは楽だな。

 大工工事も必要ないし、丸太のベンチも不要だ。


 鉄階段を降りてる途中で、立ち止まって振り返った。

 このアパートに住んでいたのは2年。


 やめよう。

 いやな記憶しか浮かんできそうにない。

 鉄階段を降りて、アパートから離れる。



 そのまま一度も振り返ることなく、大通りへと向かった。


 


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