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4.6.11 - ボス戦


 なんだ、コイツの殺気は。

 本当に日本人か?


 見た目は50代。

 髭を生やし、ちょんまげでなく、長髪を後ろで束ねている。


 啓介のような、剣道を磨いた気配ではない。

 リュウジのようなヤクザとも違う。


 このウィルコープスの殺気は、なんというか、ホンモノだ。


 容姿は明らかに日本人だ。

 でも、オレが知っている日本人の空気ではない。


 よくわからないが……生きてきた時代が違う。



 とにかく、オレは正眼に構える。

 それしか知らない。


 男は、脇構え。

 白刃が背後に隠れていて、切っ先が見えない。

 間合いもよくわからない。


 だから、オレは動けなかった。

 読めない。わからない。


 だが時間もない。


 見てないが、ティナの出血は酷いだろう。

 早くログアウトさせてやらないと、あいつは死ぬ。退場だ。


 まぁ、べつに、ティナのことなんてどうでもいい。

 オレの知ったことじゃない。


 でも、借りがある。

 さっき、矢でオレを助けたのは、おまえだろうティナ?


 だからちょっと待ってろ。

 ティナのためじゃない。

 オレが納得できない。

 だからオレのためだ。

 オレのために、ティナを助ける。

 今すぐに、この男を斬り伏せて、おまえをログアウトさせてやる。

 だからもう少し待ってろ。


 とりあえず、右脚をすり出して、距離を詰める。

 ずりずりと、数センチ。

 それを繰り返す。

 まだ遠いが、そろそろ刀2本分の距離。


 男の右足がピクっと動いた。

 重心を変えたのか。


 来た。

 男が先に動いた。

 腕の振り方から見て、おそらく中段。


 オレも剣先を合わせにいく。

 サンダーソニアを中段に振り込む。


 え……ウソだろ。フェイントかよ。

 男の剣先が軌道を変えた。


 右脚が前に出る。

 脇構えからの横薙ぎと見せかけて、男の白刃がト音記号のような曲線を描きながら真上へ上がった。


 大丈夫。まだ間に合う。

 オレも軌道を横から、左上へ。

 サンダーソニアを振り上げる。


 しかし、剣が触れた感触がなかった。

 アイツのカタナを折ったか?


 と思ったら違った。


 男の刀は、脇構えのままだった。

 なんだよ、なにをした。

 様子見か?


 わからないので、半歩さがる。

 オレが距離を離そうとしたら、男が左前に傾き始める。

 また何かくる。


 男の腕。力が入っているようには見えない。

 フェイクか。

 オレはサンダーソニアの切っ先を、飛び出そうとする男の半身に向ける。

 なにも来ない。フェイクか。


 男の右脚が、前に出た。

 そのまま上段に構えが変わっていく。


 オレはその刀が振り下ろされ始めるのを少し待った。

 その待ち時間は、コンマ2秒、いやその半分かもしれない。


 男の右腕に力が伝わっていくのがわかる。

 切っ先の空気が、切り裂かれる準備をしている。

 オレは左半身を捻りながら、右腕だけで突きを繰り出した。

 突きの方が速い。

 しかし、男は刀を振り下ろすことなく、後ろに半歩飛んだ。



 あいつも見ているんだ。

 オレの重心。筋肉の動き。空気の流れ。


 そして、オレもオマエを見ている。

 でも、まだ本気じゃないよな?

 遊んでるのか?

 まさかな。この男はウィルコープスだ。



 ん?



 ……なんだよ。


 オマエまさか、楽しいのか?

 笑ってるだろ今?


 ウィルコープスのクセに戦いを楽しんでやがるだろ?


 表情はなにも変わっていない。

 無表情の抜け殻だ。

 この男のカラダに魂は宿っていない。


 でも、この男に纏わりつく空気を見ればわかる。


 ああそうだよなぁ、楽しいよなぁ。


 いまのオレ達には、言葉も表情も必要ない。

 命を賭けた、ボディーランゲージだ。


 こんな会話ができるやつ、どれだけいるだろうな。

 少なくともオレは、独りしか知らない。

 オマエでふたり目だ。


 交わすのは、ほんのわずかな筋肉か空気の歪みだけ。

 たったそれだけの意思疎通。

 1秒にも満たない変化。

 たったそれだけで、オレ達は、頭の中のシナプスを無数に交換していた。

 意識と思考の直接会話だ。


 しかし、おかげでよくわかった。

 オマエが馬鹿正直で、真剣勝負のジャンキーだってこと。

 それがよくわかったよ。


 でも、オレはな……無関心で、カラっぽなんだよ。

 オマエが次になにを仕掛けてくるのかなんて、どうでもいいんだ。


 だから次の動作に、オレはなんの関心も無い。

 だからそれ以外のことにも目を向けられる。

 見てみろ、オマエの右後ろ。ほら。

 オレが代わりに見てやるから。

 よそ見だ。ほら、後ろ。誰かいるぞ。

 オマエが殺し損ねた弓兵が起き上がったところだ。


 ああ……


 きっといいヤツなんだろうな。

 オマエがどこの誰で、どんな時代を生きたのか。

 さぞ壮絶な人生だったことだろう。

 現代人のオレなんかには想像もできないほどに。


 呆れるくらい苦労して、大勢の生き死にを見て、血なのか涙なのかわからない液体を流して。

 それを繰り返して、技を磨いてきたんだろうな。


 でもな……

 そんなことはどうでもいいんだ。

 オレには関係ない。

 興味ないんだよ。


 オマエはたぶん、いいやつだった。

 それだけのこと。


 オマエが、後ろに気を取られたほんの一瞬だ。

 ごめんな。

 そこには、誰もいないんだよ。


 オマエは、オレを信じた。


 だからオレはそこに踏み出すだけ。

 それでも、視線はオレを見続けている。

 だが、後ろを警戒したオマエの重心が浮いている。ど真ん中だ。


 右後ろの脇構えから刀が繰り出されてくる。

 それでも、後ろに気をとられたぶん、オレの突きのほうが速い。


 サンダーソニアの剣先が、ウィルコープスの左胸を貫いた。

 あとは薙ぐだけ。


 刀を振り出そうとする左腕ごと薙ぎ払った。

 ウィルコープスの左腕が力を失う。

 それでも、右腕の力だけで、刀を振り出そうとしていた。


 ごめんな。


 オレの頭には、最初から、まともに勝負する気なんか1ミリも無いんだ。

 オマエはいいヤツ。真剣勝負を求めるサムライ。

 そして、オレはオレだ。


 そのまま全体重をかけて、ウィルコープスを弾き飛ばす。

 ウィルコープスは、斬り落とされた左腕だけを空中に残しながら、地面に仰向けで投げ出された。



 ゆっくりと、地面に寝そべるウィルコープスに近づく。


 眼だけを動かして、オレを眺めていた。


 そんな顔すんなよ。

 楽しい勝負だったんだろ?



 もう一度、サンダーソニアを振り下ろす。



 楽しかったよな。

 オレもだ。



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