4.6.10 - 2戦目
北東の塀の上に辿り着くと、すでに6人の射手が配置についていた。
そこにティナも加わり射手は7人。
塀の下には剣士が4人。
ウィリアムの側近が3人と、面識のない男が独りいた。
ウィリアムはどうしたと聞くと、ログアウト中だと言われた。
肝心なときに不在になる事情は、誰にでも平等にあるらしい。
リュウジはどこかと探してみると、遠く、舎弟のロンをつれて東のゲートの守備についていた。
オレは塀を飛び降りて、剣士達と合流した。
暗くてわかりにくいが、前進してくるウィルコープスの数は30体前後だろうか。
距離が100メートルになったあたりで、魔法の矢が1本飛んだ。
ストームのようなジグザグの軌道ではなく直線だ。
矢の先端が燃えている。
それがウィルコープスに命中した。
暗がりが照らされて、少し見やすくなった。
そのまま、2本、3本と魔法の火矢が飛翔していく。
魔法の矢は、外れることはなく、3本ともウィルコープスに命中した。
前線が火に照らされていく。
50歩の距離を切ったところで、射手の斉射が始まった。
しかし、あいつらの矢は昼間でも当たらない。
夜間でまともに当たるわけもない。
それでも、魔法の火矢のダメージもあってか、4体か5体のウィルコープスが地面に倒れた。
ウィルコープス側からの応射はない。
指揮官がいないので、オレを含めた剣士5人で軽く打合せをする。
中央と左右で、3手に分かれる。
オレは独りで中央。
残りの4人が左右に散った。
削るのは左右の4人で、オレの仕事は、倒すのではなく耐えることだった。
サンダーソニアを右手で引き抜く。
ウィルコープスの集団のところへ駆け込んでいく。
とにかく動き回って、ウィルコープスの注意を引く。
ぱっと見で、5体のウィルコープスが、オレに対して武器を構えた。
剣に斧、槍。デカいハンマーのようなものを持ったヤツもいる。
ハンマーを持った奴の腕を斬り飛ばし、ウィルコープスの前列を駆け抜けた。
あちこちから、白刃や槍が振り込まれてくる。
オレはなにをやってるんだ。
なんで、こんな無鉄砲なことをしてるんだ。
ここで死んだら、どうなるかな。
未希は残念がるだろうな。
ストームは怒るかもしれない。
ッフフ……少し興味が湧く。
ウィルコープスの槍が、左頬のすぐ横を掠めていった。
直後に右の視界の端からもなにかが飛んでくる。
視線を流すと、斜め下から白刃が振り込まれてくる。
躱せない。
サンダーソニアを下に向けたまま、右手を引きあげる。
振り込まれてくる白刃を乗せて、そのまま右後ろに逸らした。
次は真正面。
斧が左上から斜めに振り下ろされてくる。
これも躱せない。
どうしよう。
いや、躱せるな。
たった今、右後ろにいなした剣を持っているウィルコープスを、左脚で蹴り飛ばした。
その勢いで、斧を躱す。
すぐに左脚を引っ込めたが、斧がちょっとカスったかもしれない。
首筋に棒が触れる感触。
ああ、そうか。
こっちには、槍が伸びていた。
左手をあげて、その棒を掴む。
少し引っ張ってみたが、その程度じゃ手放さないようだ。
棒を掴んだまま体重を支え、カラダを右に捻る。
塀の方へ向いて、一歩踏み出す。
棒から手を離し、さらに大股で2歩距離を取るが、進む方向の左右に剣を持ったウィルコープスが2体。
オレの重心は左にある。右足を踏み込み、左のウィルコープスに一歩迫る。
すでに、右上から剣が振り込まれていた。
オレの首が跳ね飛ばされる未来が見える。
次の左足に重心を乗せて、カラダを右側に逸らして剣を躱す。
その勢いのまま、サンダーソニアを左下から右上へ振り上げて、そいつの上半身を斜めにぶった斬った。
斬った感触は無い。
オレは、ふたつに分離しながら崩れていくウィルコープスを蹴り飛ばし、さらに距離を取る。
振り向くと左から順に、剣のヤツと、槍のヤツと、斧のヤツが追いかけてくる。
背後の塀の方から悲鳴。
ヘルプって言ってる気がする。
知るかよ。
自分でなんとかしろ。
先に槍の穂先が飛んでくる。
速いが、躱せる。
カラダを左にそらす。いや、これは……掴めるな。
胸元を吹き抜けていった槍の柄を左手で掴み、引っ張りこんだ。
槍の持ち主が、つんのめる。
オレは槍から手を離す。
サンダーソニアのグリップを両手で掴む。
上半身を屈めたウィルコープスの右上から、サンダーソニアを振り下ろした。
次は斧。
右から横殴りで迫ってくる。
躱せねぇ……
剣で迎え打つしかない。
サンダーソニアが折れるかも。
その前に、オレの少し手前を矢が吹き抜けた。
斧のウィルコープスの左頬に刺さった。
斧の切っ先が逸れる。
オレは右足で踏み込んで、そいつの左下からサンダーソニアを振り上げた。
まだあと1体。
左側から剣のヤツ。
両手剣だ。やけに長い。
左後方に振りかぶっている。
オレの重心は右。
その右で地面を蹴って、サンダーソニアで真横に薙ぐ。
ウィルコープスの上半身が、両手剣を振りかぶったまま崩れ落ちた。
「ソウジ!」
ティナの声。
首を捻って視線を向ける。
ティナはオレの真後ろだった。
ティナは、弓を捨ててダガーを抜いている。
よじ登ったのか、塀の上にウィルコープスの影が3体。
弓兵は7人いたはずだが、ティナを含めて3人しかいなかった。
ティナに襲い掛かっていく最初の1体は手斧。
ティナは、その斧の持ち手を掴み、ウィルコープスを組み伏せた。
そのままダガーを首にあてて横に引く。
ウィルコープスの鮮血が、ティナの顔に飛び散った。
次のウィルコープスの剣が、ティナの頭上に振り下ろされようとしている。
オレは地面に転がっていた槍を掴み、力いっぱい投げた。
槍はウィルコープスの横腹に刺さり、塀の向こう側へと吹っ飛んで見えなくなった。
塀の上のウィルコープスの影はあと1体。
残っているプレイヤーは、ティナだけだった。
アレに全員やられたのか。
オレは、塀に駆け寄った。
高さは2メートルもない。
ジャンプすれば届く。
飛び上がって、塀の上を掴む。
よじ登ると、立ち上がったティナが、ウィルコープスと対峙していた。
なんだ……あのウィルコープスは。
日本人か?
袴……違う、あれはたぶん、着流しというやつだろう。
沼のような深緑色。浴衣のような着流しを羽織り、紺色の帯を巻いている。
その手には打刀。
構えは啓介のような正眼ではなく、脇構え。
左脚を前に出し、刀の切っ先は右後ろ。
見ただけで感じた。
あれはやばい。普通じゃない。
雰囲気が違う。
「まてティナ! いくなっ」
ティナが、右手に持ったダガーを突き出した。
ウィルコープスは、ティナのダガーを左上に跳ね上げ、返す刀でティナの右腕を斬り落とした。
ティナが、短いうめき声を上げながら、塀の内側へ転がり落ちていく。
塀の上に残ったのは、オレと、着流しを羽織ったウィルコープスだけだ。




