4.6.9
夕方。
酒場へ立ち寄って、飯を喰う。
エールと美味い食事。
今日は、肉があまり入ってなかったが、野菜をふんだんに入れたシチューだった。
この店には、食事のために、しばらく通うことになると思う。
前哨基地は、食糧不足。
まぁ、仮に食糧があったところで、オレは料理ができない。
そうなると、やはり、おやしろまでの往復が面倒だな。
どこか近くに空き家とかないのかな。
忙しそうなヒミコを捕まえて尋ねてみたが、この近辺に空き家はないようだ。
そもそも、酒場の近くはこの村の一等地だと言われた。
それもそうか。
雑貨屋も近くにある。
店はそれだけだが、ここは村で唯一の繁華街だ。
ヒミコが提案した。
「うちの宿泊部屋に、ロングステイしたら?」
なるほど……
「1泊いくらだ?」
「鉄コイン2枚」
「安いのか高いのか、よくわからん値段だな」
「ソウジなら、タダで半年住めるくらいお金落としてると思うけどね」
まぁいいか。今夜は帰ろう。
「わかった、考えとくよ。マスターにも、それとなく伝えておいてくれ」
「おっけー」
食事を済ませて、おやしろに戻る。
寝る前に一度、様子を見に前哨基地へ飛んだ。
辺りはすでに夜。
オレのテントの周りには何もないので、真っ暗……
のはずだったが、焚火に火が灯っていた。
誰かがベンチに座っている。
こう見えても、ここはオレの家で、焚火もベンチも公共施設じゃないんだが。
「あっ、ソウジ、やっと出てきやがった! アンタさぁ……自分が守備隊のメンバーだってことわかってんの?」
座っていたのは、ティナだった。
「なんだよ。なんの用だ」
「仕事しねーから、文句言いにきたんだよ!」
「そうか。悪かったな。じゃあもう済んだろ。帰れ」
「そんなんで済むわけ……ん……?」
「……なんだよ」
ティナの視線がオレの左胸で止まっていた。
「なによこれ」
「あん?」
「これよ、これ」
「ああ……ブローチか。貰ったんだ。それがどうした」
「貰ったって……誰によ? 女?」
「まぁ……そうだな。男だったら断るのも簡単だったのにな」
「どんな女?」
「おまえには、関係ないだろ」
「……そ、そうね……関係ないわね」
なんなんだ。
なにしに来たんだホントに。
「それ……パンジー?」
「ぱん? なんだ?」
ティナが立ち上がる。
「まぁ、アンタのことなんてどうでもいいんだけど……」
横を向いたまま、また言葉を続けた。
「パンジーの意味、知ってるの?」
「知らねーよ」
「……私を思ってください……愛の告白」
「……」
「でも、それ、赤よね」
「赤だとなんだ」
「それは心にしまっておきます。私の思い……忘れないでね……」
ティナが、にやけながら、こっちを向いた。
「つまり、アンタはフラれたってわけよ。アハハハハ!」
片手で腹を押さえて、すこし屈みながら笑い続けている。
「じゃあ、アタシもさようなら。おやすみ」
それだけ言い捨てて、ティナは歩き出した。
基地の中心部へと立ち去っていった。
なんだ。
いったいなんなんだ、アイツは。
何がしたい?
何が言いたい?
オレのことはもう、ほっとけよ。
……まぁいいか。
ティナも守備隊メンバーなんだよな。
後ろからヘタクソな矢で射貫かれるのも嫌だから、次はもう少し顔を作るか。
ああ、めんどくせぇ。
帰って寝よう。
ログインデバイスを出す。
文字に触れようとしたところで、基地の方から鐘が鳴った。
カンカン、カンカンカン、カン。
カンカン、カンカンカン、カン。
鐘のリズムは、2回、3回、1回。
以前、リュウジに教わった記憶がある。
覚えているのは、鐘の音で、敵の種類と数を知らせているということ。
だが……
どの鐘が何だったのか。
まったく覚えていない。
「ソウジ! 仕事!」
ティナが振り向いて、大声を上げている。
ちくしょう……
様子を見にくるんじゃなかった。
このままバックレようかとも思ったが。
オレは、ティナのいる方へ駆け出していた。




