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4.6.8 - 鉄コイン1キロあたり


 翌朝。

 ストームカレンダー29日目。


 オレは、鉄コインを100枚抱えて、ニシカタの農場を訪れた。


 久しぶりに顔を合わせたので、ニシカタは喜んだ。

 その後ろにシチリとコユルギ。

 夫婦と、孫娘のようにしか見えない。

 モトと、ヤマのふたりは、畑でなにか作業しているようだ。


 この5人にも色々あったが、今は、力を合わせて家業を支えていた。


 オレが持ってきた鉄コインは4キロ。

 それをニシカタの前に、ドサッと降ろして提案した。


「今後、数カ月の間、ここで生産される食糧の何割かを売ってほしい」


 要は、契約農家の提案だ。


 契約といっても、口約束。

 ニシカタ達の生活優先で、ムリのない範囲で構わない。

 しかしオレには相場もわからないので、納品する作物の種類も量もぜんぶお任せだ。 

 それでも、鉄コイン換算で1キロあたり野菜80キロ。

 ニシカタは320キロの野菜を渡すまで、この契約を継続すると約束した。

 もちろん、渡し人価格だ。


 まぁしかし、320キロの野菜がどの程度なのか。

 オレには、ピンとこない。

 ニシカタが言うには、千人の1日分に足る量らしい。


 もちろん一度に渡すことはできないので、何度か通うことになる。


 納品は、オレがここまで受け取りに来ることにした。

 次は8日後に、玉ねぎの収穫があるらしい。

 受け取る量は、その日の収穫量で調整してくれと頼んだ。


「じゃあまた、8日後に来るよ」

「お待ちしています。わたしびと様」


「そろそろ、その呼び方もやめてくれ。ソウジでいいよ」

「わかりました。ソウジ」


「あの……ソウジ……」


 立ち去ろうとしたら、コユルギに呼び止められた。

 スピカの街で最初に見たときの、やせ細った姿ではなく、毎日ちゃんと食べてそうな健康体に見える。

 黒髪も陽の光を良く反射している。

 肌の色もいい。

 こんな村の農家で腐らせるのはもったいないほどの美人だ。


 コユルギは緊張した顔を見せている。

 そのすぐ後ろ。祖母のシチリの姿もあった。

 シチリはニコニコと笑顔を浮かべている。


「どうした?」

「これ……」

「うん?」


 コユルギが手に持っていたのは、花のブローチだった。

 赤い花。

 4枚の花弁が広がっている。

 不恰好なハートが折り重なったような花弁が3枚。

 切り込みの入ったスペードのような形をした花弁が1枚。


 それが、手の上でぶるぶると震えていた。

 いや、震えているのはブローチではなく、コユルギの手の方か。


「これは?」

「おばあちゃんと……作りました」


 シチリの顔を見る。

 少し申し訳なさそうな顔をして、こくりと頭をゆらした。


 要らないと言ったら、コユルギが泣き出すかもしれない。


 なんだろう。

 オレが接待されているようで、実はオレが接待させられている気がする。

 分かったよ、受け取らない理由を探すのも面倒だよ。


 オレは、コユルギの手にあった、そのブローチを受け取った。

 ブローチってどうやって付けるんだろう。

 現代のブローチすら、手にしたことがないのに。

 しかも、この時代の分厚い革でできたベストにどうやって取りつけたらいい。


 困っているのを悟ったのか、コユルギがオレの手のブローチに、細い指を伸ばした。


 コユルギが、その頭頂部をオレの胸元に寄せる。

 オレの左胸に、ブローチを付けようとしている。


 土と草。汗となにかの花の匂い。

 逞しさがほとばしる、農家の娘の匂いだ。


 コユルギが、すぅと後ろに下がった。

 オレの左胸に、赤い花のブローチが付けられていた。


「ありがとう。無くさないように気をつけるよ」


 コユルギが、右手をまるめて口元に寄せ、クスクスと笑った。

 緊張がほどけている。


「じゃあな。また来る」


「はい。いってらっしゃい」

「いってらっしゃい……」


 ニシカタの家を出た。

 これは、なんの花だろうな。


 未希がこのブローチを見たらなんて言うだろう。


 まぁいいか。




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