4.6.4
しばらく風に当たっていた。
ベンチの座り心地も悪くない。
基地のほうから、ゴロゴロと台車を転がす音。
顔を向けると、2台の台車がこちらに向かっていた。
引いているのはミラーと、ハートリー。
後ろから未希とストーム、それとソフィアが台車を押している。
オレは、座ったまま、台車が近づくのを待った。
乗せられているのは、角材が数本、大きな布。
あとはなんだ、石コロか?
「すごーい、ベンチがある」
「ベンチがないと、どこに行ったらいいかわからなくなるわね」
ミラーが腰に手をあてて言った。
「んじゃ、やっちまうか」
「うん? なにをする気だ?」
「まぁ、まかせとけ。で、どっからどこまでが、ソウジの領土だ?」
「しらねぇよ」
ストームが歩み寄る。
手に、枝を4本持っている。
「ログインデバイスだして」
言われるまま、左手を叩いて、デバイスを出す。
「記憶の回廊に行けなくなる境界を探す」
「なるほど」
未希とソフィアが、さっそくベンチに座って、おしゃべりを始めた。
何しにきたんだよ。
ストームと共に、周辺を歩き回り、敷地の四隅の地面に枝を刺した。
丸太のベンチの位置は、敷地のほぼ中央だった。
それが済むと、ストームもベンチに座って、女子トークに参加した。
その脇で、ミラーとハートリーが、テントの設営を始めた。
テントといっても、現代人がイメージするようなものではなかった。
運動会で使うような、長方形のやつだ。
あれの縮小版。
四隅に太い木を突き刺し、梁を渡す。
梁から布をたらし、天井にも布をかける。
さらに、中央にも支柱を立て、四隅へ梁を伸ばした。
それで完成らしい。
ミラー達の手際がよく、15分もかからなかった。
長方形の、布に囲まれたテントの完成だ。
高さは1メートルもなさそうだ。
テントというよりも、布で囲まれた荷物置き場だ。
台風がきたら、簡単に飛ばされてしまうだろう。
「この石コロは何に使うんだ」
ミラーが答えた。
「キッチンを作るんだよ。ソウジも手伝え」
指示されるままに石を運んだ。
円形に配置していく。
真ん中に薪木を積んでいく。
焚火かよ。
「ソウジ、テントにバリア張ってもいい?」
「まて、バリアを張ったテントが、風に飛ばされたらどうなるんだ」
「……どうなるんだろう?」
ハートリーが答えた。
「クリスタルごと飛ばされるだけだ。探しにいきゃいい」
「飛ばされたクリスタルはどうなる?」
「セーフゾーンから出たら、ただの透明な石ころだ」
「……ストーム、まだやめておこう」
「ん、それがいいかも……」
ミラーが言った。
「まぁ、とりあえず、家はできたな」
「できたのか……これで?」
「場所がわかりゃいいだろ」
そろそろ、陽も傾き始めていた。
ミラーとハートリーが「台車」を返してくると言って、基地の方へと戻っていった。
残ったオレ達で、焚火に火を灯す。
背の低いテントと、その手前に並ぶ丸太のベンチと、焚火。
これが、オレの家か。
そのまま、焚火で夕食の準備を始めた頃。
両手にワインボトルを掴んだミラーが戻った。
「見ろ、ウィリアムからの差し入れだ」
「あらぁ、うれしいわね。私はあんまり関係ないけど、ごちそうになっちゃおうかしら」
「えー、またお酒。みきはサイダーが飲みたい」
「ん、水で割って飲もう」
「ちょっとまってろ、オレもなんかもらってくるよ」
ログインデバイスを出して、メモリアへ渡る。
メモリアに渡ると、酒場のど真ん中だった。
突然現れたオレに、客は驚いたが、すでにできあがっていた。
わけもわからず歓声と拍手がおこる。
後ろで、誰かがオレとぶつかった。
振り向くと、店員のモトが頭からジョッキをかぶって尻もちをついていた。
「ああ、すまんモト。大丈夫か?」
「わたしびと様! 大丈夫です! なんともありません! すぐご用意します!」
「あ、いや……」
いきなり現れてスマン……
「いよう! ソウジ! なんだ、ド派手な登場だなぁおい」
顔を向けると、クラゲだった。だいぶできあがっている。
「まぁ、座れよソウジ。ひさしぶりじゃねぇか」
まぁいいかと、クラゲの隣に腰を下ろす。
酒臭い息を吐きながら、クラゲがベラベラと喋っている。
すでに言ってることが、要領を得ていない。
「あれぇ、ソウジじゃん。また来たの?」
頼んでもいないのに、ヒミコがエールを運んできた。
そのまま捕まえて、コインを渡し、今日のイチオシを大皿で持ってこいと注文した。
ヒミコが立ち去る。
しょうがないから、1杯付き合う。
「今日のウサギは、おれが獲ってきたんだ。うめぇぞ」
「そうか。昼間も喰ったよ。美味かった」
「またイノシシが喰いてぇなぁ。いつおれの仕事を手伝ってくれるんだソウジ」
「今は忙しいんだ、近いうちにまたくるよ」
「そうかぁ、まぁいいけどよ」
「コユルギはどうしてる。元気か?」
「ああ……その話か……」
「なんだ?」
クラゲが静かになった。
そのまま放置して、店の中へ。
マスターが特大のボウルを抱えて、厨房から出てくるところだった。
「おう。まいどあり。これで足りるか」
昼間喰ったウサギ肉のポタージュだった。
見た目にも肉が増量されていて、しかも軽くローストされている。
カブとネギも追加されているようだ。
間違いなく、昼間より美味い。
「充分だ。ちょっと奥の部屋借りていいか。すぐ終わる」
「うん? まぁかまわねぇが。汚すんじゃねぇぞ」
酒場の奥の宿泊用の小部屋に入る。
そこで、ログインデバイスを出し、前哨基地へと戻った。
未希とストームが、ベンチに腰を下ろし、水で割ったワインをチビチビと舐めていた。
ミラーとソフィアは、すでに酔っぱらっていた。
「うわー、おいしそうじゃん、なにこれ!」
「おぅ、ウサギだな、臭みがぜんぜんねぇが、匂いでわかる。こいつは美味いぞ。間違いねぇ」
オレは、焚火の横に、そのボウルを置く。
まっさきに駆け寄ってきたのは、リュウタだ。
いまにも、鼻先を突っ込みそうな勢いで匂いを嗅いでいる。
美味そうだな。
オレもそう思う。
未希やストーム、ソフィアにミラー。
こいつらに、この美味い料理を食べてもらいたい。
そう思ったのは、ただの気まぐれだ。
これを喰って、こいつらはどんな顔をするんだろう。
オレが感じた、美味いって気持ちを、こいつらにも知ってほしい。感じてほしい。
そんな風に思ったのは、何年振りだろう。
記憶にない。
ミラーが言っていた。
仲間と居場所。
カイルが書き残した。
信頼し、分かち合える友。
わかってる。
こんなの気まぐれだ。
オレには必要のないものだ。
捨て続けてきたもの。無視し続けてきたもの。
浸らない。縋らない。信じない。
そんなもの、壊れるだけ。壊されるだけ。
わからない。
ニフィル・ロードにかかわってから、よくわからなくなっていた。
壊れてるのは、世界じゃない。
未希でもなければ、こいつらでもないのかもしれない。
もしそうだとするなら、壊れてるのは……




