4.6.2
早速、敷地を手配することになった。
ウィリアムから指定されたのは、基地の南西。
新しく掘ろうとしているらしき井戸のすぐ近くだ。
今は放置された、ただの穴。
それでも、底には水たまりができている。
普通の地下水らしく、泥水ではなく、澄んだ水が空を反射している。
ちなみに、周囲には何もない。
しかも、ここは塀の外だった。
最寄りのバラックまでは、塀を隔てて、百メートル以上離れている。
風が吹いて、ころころと、枝に絡まった落ち葉が、転がっていく。
まだロクに塀の拡張もされておらず、前哨基地の中とは呼べない場所だった。
住む前から、村ハジキにされた気分だ。
ミラーとソフィアは、水の濾過作業を続けている。
井戸は遥か彼方。塀の向こう側なので、ここからは見えない。
「で……まずは何をすればいい?」
ストームに聞いた。
未希もいるが、少し離れたところで、リュウタと遊んでいる。
「ログインデバイスを出して」
左手を叩いて、ログインデバイスを出した。
「画面の下に、文字が書かれてない?」
緑色で文字が表示されていた。
『 Set Up Safezone 』
「いままで、気がつかなかった」
「その文字は、何もないところに立たないと表示されないから」
なるほど。
ここには何もない。
「20歩くらいの長さの四角い面積が、総司の敷地になるから」
「触っていいのか? この文字?」
「ホントにここでいいんだよね?」
「どこ向いても原っぱだろ。他と、どう違うんだよ」
「なら、とっととさわれ。井戸の真ん前だよ。橋が架かる前の日本橋だよココ」
よくわからないが、文字に触れた。
触れるとその文字は、すぐに消えてしまった。
とくに何も変化はない。
「ログインデバイスを、出し直してみて」
手を下に向けてデバイスを消してから、再び左手を叩く。
ログインデバイスの文字が増えていた。
噴水広場で出したときと同じ文字が書かれている。
『 Summon a gate ...
to Corridor of Memories. 』
「で? 次は何をすればいい?」
「家を建てる」
「え?」
「家を建てろ」
「どうやって?」
「大工仕事」
「……」
また乾いた風が、吹き抜けていく。
土埃と一緒に、枯草を巻き上げている。
離れたところで、リュウタと未希が、風上から顔を背けていた。
「わかった。オレから質問するから。それに答えろ」
ストームが、こくりと頷く。
なにか、フラッシュバックしかけたが、質問を始めた。
「おまえの家はどうやって建てた?」
「運べる資材はメモリアから運んだ。足りないものは、噴水広場の大工さんとこで買って、建ててもらった」
「普通に建てるのかよ……もっとこう、ゲーム的にポンとできないのか」
「この世界に、そんな機能あるわけないでしょ」
それもそうだな……
「入れなくなる膜を張るにはどうすればいい?」
「あれは、専用のクリスタルを買ってきて家の中に置く。家をバリアで囲むには、その石に魔法をかける必要がある」
「魔法をかけるとどうなる?」
「術者以外が、セーフゾーンの外壁に触れることができなくなる」
「術者以外? オレも入れないじゃないか」
「術者が許可を増やせば、入れるようになる」
「その魔法は、ストームでもできるのか?」
「できるけど、許可を増やせるのは、みきさんだけ」
未希はすごいな。
「で、そのクリスタル? それはどこに売ってる?」
「もうある」
「うん?」
ストームが、両手を開くと、ひし形の透明な石がのっていた。
「ウィリアムがくれた。移住者第一号のサービスだってさ」
ストームの手から、透明な石を拾い上げた。
透かしてみると、石の先のストームの青白い顔が、ますます青白く歪んでいた。
「家を建てるのか……」
「んん。建てろ」
辺りを見回した。
どこからどこまでが、オレの敷地なのか。
それすらもわからない、ただの原っぱだった。
「ストーム」
「ん?」
「とりあえず、テントでもいいか?」
「ああ、いいんじゃない? テントでもクリスタルを置けば、他人は入れなくなるよ」
「メモリアへ行って、なにかないか探してくる。
ストームはウィリアムの所へいって、テントにできるようなものが貰えないか、聞いてきてくれないか?」
「ん、わかった」
「これは、まだ預かっててくれ」
ストームの手に、クリスタルを戻した。
「未希」
「うん?」
「ちょっと、出かけてくるぞ」
「うん。いってらっしゃい」
ログインデバイスを出す。
オレは、記憶の回廊へ飛んだ。




