4.6.1 - 移住者
洞窟でのキャンプから2日目。
山への旅に出発してから6日目の昼。
オレ達は、前哨基地に帰還した。
火が消えかかった、誰も使ってなさそうな焚火の周囲に荷物を降ろし、まずは休息。
残りの食糧はあと2日分くらいあるらしい。
明日の朝の出発なら、噴水広場まで持つだろう。
今夜はここで野営し、水を補給し、明日の出発に備えることになった。
この基地で水を得るには、井戸で汲んだ泥水を念入りに濾過する必要がある。
オレは、ミラーと未希を伴い、3人で井戸へ向かう。
ストームとソフィアは、報告と滞在の申請のために、本部のテントへと向かった。
井戸へ行くと、その横に木杭で雑に立てられた立札があった。
『 前哨基地の居住者募集 』
この前哨基地は今後、エレメント・コアの攻略に向けた、大規模な増築工事が行われる。
書かれている内容を読むと、基地の拡充計画として、8カ月前後のプロジェクトを進めるつもりらしい。
居住区だけでなく、食料品店や、雑貨屋などの商業区画も整備し、この場所をちょっとした街にするつもりのようだ。
だが現状では、数軒のバラックとテントが散在するのみで、寒村よりも殺風景だった。
居住しているのも、せいぜい20人前後だ。
「おにいちゃんて、まだ、おうち建ててないよね?」
「無いな。建て方も知らん」
「ここに、おうち建てたら?」
「……は?」
「おう。そりゃいい考えだ。ここに建てれば、ここからメモリアに帰れるぞ。
んで、メモリアから食糧や建築物資を運んでくれたら、基地としても大助かりだぜ」
「なら、ミラーが建てたらいいだろう」
「おれぁ、もう無理だ。エレメント本部の近くに建てちまったよ」
「うん?」
「おうちはね、1度しか、建てられないんだよ」
「ああ、そうなのか」
噴水広場に戻らなくてもいいのは、確かに楽だ。
メモリアと行き来できるなら、食事や寝床は、カタセ村で済ませればいい。
満足に食糧も手に入らない前哨基地だが、オレ独りの生活ならどうにでもなるだろう。
しかし、未希やストームだけで、残りの旅をしなきゃならなくなる。
心配だ。
それに、オレのことだから、噴水広場にもほとんど行かなくなるだろう。
未希やストームの家にも行かなくなる。
まぁ、それは別にかまわないか。
仮想世界とはいえ、女性だらけの家での集団生活は、実は落ち着かない。
この掘っ立て小屋だらけの場所の方が、のんびり過ごせると思う。
未希のことは心配だが、そもそも未希は、ひとりで6カ月以上も生活しているんだ。
いまさら、オレが心配することでもないし、オレよりベテランだ。
近くに、ストームもいるし、ソフィアもいる。
「少し考えてみるか」
井戸で、水を濾過していると、ストームとソフィアが歩いてくる。
その後ろに、ウィリアムの姿があった。
ウィリアムは、この基地の責任者だ。
なんの用だ?
「君たちの中で、移住できる者はいるか」
その話かよ……
「たぶん、総司だけ」
「ソウジだけね」
「おにいちゃんだけ」
「指名されてるぞ、ソウジ」
……
「帰り道はどうするんだ? 4人で戻れるのか?」
ウィリアムが答えた。
「それは心配ない。明日の朝、補給部隊の大部分が噴水広場の本部に戻る。30人規模だ」
「……少し考えさせてくれ」
「そうか。いい返事を期待している」
ウィリアムが立ち去っていく。
わざわざ、それだけを言いにきたのか。
「未希、いいのか?」
「うん、いいんじゃない? おにいちゃんも独りになりたそうだし」
未希にまでオレは、見透かされているのか。
「ストーム。いいのか」
「利点は、たくさんある。
ここで補給ができるから、噴水広場からここまでの荷物が軽くなる。
この先、ルミナス・ノードを攻略するのにも、都合がいい。
それと、連絡手段がないこの世界で、離れた場所の情報が共有できるようになる」
早口すぎて、最後しか頭に入らなかった。
「どういうことだ」
「ログアウトすれば、前哨基地と噴水広場と、双方の情報が共有できるでしょ?」
……なるほど。
「ログアウトするタイミングは、どうやって合わせるんだ?」
「これ」
ストームが、腰から木札を取り出した。
「この数字は、わたし達がどれだけ離れてても、同じ数字」
ストームカレンダー。
木札の表面に「26」が浮き出ていた。
「30日の夜にログアウトしよう。次の予定は、その時に決める。どう?」
「わかった」
「ん? いいの?」
「なんだよ、ストームが言ってるんだろ。隊長の指示に従うよ」
「んん! 総司にしかできない任務」
またそれか。
オレは、この前哨基地に家を建てることになったようだ。
ストームが「場所を聞いてくる」といって、ウィリアムを追いかけていった。
本当にいいのか?
まぁいいか。
独りの時間が増えそうだ。
それよりも問題は、どうやって家を建てるのかだ。




