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4.5.30 - 花咲く種


「暗いのはやめようぜ」


 無言で焚火を囲んでいたら、ミラーがそう言った。


「悲しいのは俺達だけだ。カイルは悲しくもねぇし、寂しくもねぇ」


 ソフィアが、ミラーを睨みつける。

「なによ……それって、カイルはもう死んだから?」


「ちげーよ。ったく……

 せっかく、親子3人で一緒になれたってのによ。

 俺達が意気消沈してたら、ごめんて、あやまりに来なきゃなんねぇだろが。

 だからよぉ……明るく送ってやろうぜ」



「……そうね。ごめん」


 ソフィアが顔をあげた。

「それじゃ、楽しくご飯でも食べましょうか」

「んん、そうしよう。お腹空いてきた」



 夕食を食べて、寝て、あとは帰るだけだ。


 残った腸詰めパウチを盛大に振る舞った。

 オレ達は、腹が満腹になるまで食べた。


 わからなかった味も、今夜はよくわかる。

 美味い。


 飯を喰い、水筒に残った酒を飲み干す。

 大して残っちゃいない。

 まだ、基地まで2日かかるからと、ストームが慌てている。


 ソフィアだけが、ぼーっとしている。

 めずらしく無表情のまま夜空を見上げ、そこに浮かぶなにかを探していた。



 

 夜も更け、野営の順番を決めてから、オレ達は眠った。

 すぐそこの洞窟で、カイルとその家族も眠っている。


 翌朝。

 ひょっこり戻ってきたりしないかと、誰もが少しは期待したが、カイルの姿はなかった。


 オレ達は、洞窟の入り口でカイルとその家族に別れを告げた。



 出発の前に、オレはひとつ質問した。


「この剣はどうする」


 カイルが残した剣。

 バスケットヒルトと呼ばれる、籠状の剣柄がついた軽量の長剣。

 このまま置いていっても、ウィルコープスの武器となって、見知らぬだれかに奪われる。


 ミラーの提案から始まった。

「隊長のストームでいいんじゃねぇか」


「んん……わたしはストーム。風の支配者。その剣は、わたし向きじゃない」

「じゃあ、ソフィアか」

「私は、ソフィア。微粒子の支配者」

「未希はどうだ?」

「みきの支配者はリュウタ」


「ミラーでいいんじゃない? たぶん今回、いちばんの功労者だし」

「まぁ、スコットランドで作られたっぽい剣だが……そんな軟弱そうな剣の使い方なんて知らねぇよ」


「おにいちゃんは?」

「オレには、サンダーソニアがある」


 しばらく議論した。

 最終的に、未希が受け継ぐことになった。


 軽い剣だ。

 扱えるかどうかは別として、荷物としても邪魔になりにくい。


「抜いてみろ、未希」

「うん……」


 剣なんて……未希には似合わない。


 生き物を殺すための道具。

 そんなもの、振り回してほしくないんだがな。


 未希が左腕で鞘を掴み、バスケットヒルトの中へ右手を挿し込む。

 そして、引き抜いた。

 カイルが毎晩、磨き上げた剣と鞘。

 音はしない。引っかかることもない。



 不思議な光景だった。


 未希が引き抜いた片刃のバックソード。


 それがなんだか、ユリの花のように見えた。

 殺すための白刃が、命そのものの光を放っているかのようだった。


 剣は生きる。

 鞘は生かす。

 生きていくことこそが、可能性を先へと繋ぐ、唯一の条件。

 人が変われば、生き方も変わる。

 だからこの剣も、生き方を変える。


 そんな、カイルの声が聞こえた気がした。


 未希が受け継いだのは剣ではなく、剣に込められた思いそのもの。

 鞘に宿る命そのもの。


 それが今、未希の手元で、新たな道を開こうとしていた。




 オレ達は、前哨基地への帰路についた。


 沢まで戻り、水を補給し、そのまま沢伝いに南下していく。


 途中でクマの親子と遭遇した。

 しかし未希の魔法で、クマの親子もオレ達も、誰も傷つくことなく森を抜けた。



 未希の腰には、カイルのバックソード。

 それを見て、ふと、思いついたこと。

 それを、そのまま未希に伝えた。


「未希」

「うん?」

「その剣に名前をつけろ。カイルもそれを望んでいるよ」


「そうだね……素敵な名前を考えよう。おにいちゃんも考えて?」


「いや、オレには無理だ。それに……まぁ、ストームに手伝ってもらってもいいが」


「うん?」

「未希が、自分で考えろ」



「……わかった。それじゃあ……この子の名前は……」


 未希がリュウタを降ろして、鞘ごと剣を自分の胸に引き寄せた。

 そして、眼を瞑った。


 おい、まさか……


 鞘におさまったままのバックソードが、歪む…………


「ブルーム・シード」

( Bloom Seed )


 未希がその名を呼ぶと、大小様々な花が未希の周囲に咲き乱れ、未希を包み込んだ。

 おもわず、目を瞑り擦る。

 再び、未希を眺めると、花はもう見えなかった。


 幻覚……だろうか。



 剣と鞘から、花の香がした。




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