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4.5.29 - 旅の友


 洞窟を出て、焚火の周りに腰を下ろした。

 誰もなにも喋らない。


 あんな光景を見るために、こんなところまで来たのか。


 ミラーはどうだ?

 革水筒のキャップを開けて、ワインをあおっている。


 ソフィアは?

 洞窟を出てからも、うなだれたまま。


 ストームは?

 ソフィアの背中に手を置いて、左肩にカラダを寄せている。


 未希は……

 リュウタの頭をなでている。


 何かと戦って惨敗したわけでもないのに、オレ達の空気は、まるで葬式の前日だ。



「カイルの息子さんね……」

 視線を落としているソフィアが、つぶやいた。


「1歳のときに、ログインデバイスに触れてログインしちゃったんだって」


「え……」

 未希とストームが口をそろえて、ソフィアに顔を向けた。


「ああ、でも、すぐに戻ってきたみたいよ。

 でも1歳よ。ログアウトのやり方なんて、わかるわけないわよね」


「じゃあ、死んで? もどったの?」

「まだ言葉も知らない息子さんに、なにが起きたのかは、カイルにもわからない。

 でも、カウントが繰り上がって24になってたから」


「じゃあ、あのウィルコープスは……」

「うん……カイルの奥さんは、それをずっと探してたんじゃないかな」


 俯くソフィアの真下。

 地面に水滴がこぼれ落ちている。

 

「私にもね、4歳の娘がいるの」


「えぇ……っ」

 未希とストームが、また口をそろえてソフィアを覗き込んだ。


「だから……ちょっとだけ……わかるなぁ……カイルの気持ち」


 俯いたままのソフィアの肩が震えている。

 不規則な呼吸。鼻をすする音。

 泣き叫びたいのを堪えているかのようだった。


 未希が左から。ストームが右から。

 ソフィアの肩に腕をまわして、抱きついた。

 3人で固まったまま、その後の言葉は、なにも出てこなかった。


 時間だけが過ぎていく。


 いつの間にか、陽が傾き、夕方に差し掛かろうとしていた。

 カイルは、まだ洞窟の中だった。


「おせぇな。もう灯りも消えてる頃だ。ちょっと、様子みてくるか」

「オレも行こう。灯りはどうする」


「これでいいだろう。少しは見える」

 ミラーが左手を叩く。

 ああ、ログインデバイスか。


「わたしも行く」

 ストームも立ち上がった。


 未希とソフィアは、動けそうもない。

 ソフィアは、明らかに、悲しみと戦っている。


「未希」

「……うん?」

「ソフィアを頼む」

「うん、いってらっしゃい。おにいちゃん」


 未希が微笑んだ。

 言動がおかしい。

 ウソまみれの未希の顔。

 未希も何かと戦っているんだ。

 何かを塗りつぶそうとしている。



 オレとミラー、そしてストーム。

 3人でログインデバイスを出し、文字の光を頼りに、再び洞窟へ。


 斜面を下りながら、音を拾う。

 なにも聞こえてこない。


 カイルはどうした。



「カイル?」

 空洞に辿り着き、声を掛ける。

 返事が無い。


 奥で、3人が固まっているのが見える。


「総司、まって」

 近づこうとしたところで、ストームに静止された。

「どうした?」

「地面……なにか書いてある……」


 オレ達3人は、ログインデバイスの光を地面に向けた。

 燃え尽きた生技の松明の燃えかす。

 その傍らには、カイルが大切にしていた剣。

 バックソードが添えられている。


 そして地面に英文。

 枝かなにかで書いたのだろうか。

 

 ストームが、地面の文字を読み上げた。



――親愛なる旅の友へ


  ここでログアウトすることにした

  この身体は、この場所で妻と息子の傍で眠る

  私の魂は、妻と息子と共に海の底で眠る


  妻と息子に会わせてくれてありがとう

  生涯で、最も素晴らしい旅だった

  どうかこの先も、君たちの旅が、素晴らしいものであれと願う


  私の剣は、君たちの誰かに譲ろう

  どうか、共に旅をさせてほしい

  私の命はここで尽きるが、剣の命を繋いでほしい


  私の思いも剣と共に、いつまでも君たちと共にある


   Kyle Robert.




 子供の頭に添えられた妻の手にハンカチ。

 カイルは、その上に自分の左手を置き、妻を抱きかかえるようにして、眼を閉じていた。


 カイルが、死んだように眠っている。


 カイルは、ログアウトした。

 墜落した飛行機の中へ。



 海の底へ。



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