4.5.26 - 電光石火
陽が昇り始め、しばらく経った頃。
そろそろ、ソフィアを起こすかと立ち上がる。
なんだろう。焚火の煙の匂いがおかしい。
甘い匂い。
気持ち悪い。オレは甘い匂いが苦手だ。
駅前の……キャラメルラテの匂いだ。
なんで焚火からこんな匂いがするんだっけ。
再ログインすると、ひとつ前の些細なことは、だいたい忘れる。
「はっ……起きて! 敵襲!」
叫んだのは、ストームだった。
見ると、カラダを起こし、キョロキョロと辺りを見渡している。
ソフィアが飛び起きる。
カイルもカラダを起こし、未希はリュウタを抱き上げた。
ミラーは、まだ寝ている。
異変は上空だった。
空から響き渡ったのは、岩石が降り注ぐような音。
ゴロゴロと、恐怖を煽るような不気味な音だった。
見上げると、上空に見えたのは巨大なタカ。
ログイン前に見た、挿絵の鳥。
アルゲンタヴィス。
巨大な翼を広げ、一直線にこちらへと急降下していた。
空から伝わる重低音が、地面をビリビリと揺らしている。
戦闘機が墜落してくるかのような圧迫感。
もう何秒も残されていない。
オレは、サンダーソニアを引き抜く。
カイルも、バックソードを抜いた。
しかし、こんなもので、あんな戦闘機にどう立ち向かえばいいのか。
そう思った矢先。
焚火の灰が、竜巻のように回転しながら舞い上がった。
場違いなキャラメルラテの匂いを撒き散らしている。
パツンと、タオルをはたくような音を立てると、灰が一点に集まる。
そして、つむじ風のように上空へと飛んだ。
その灰が、飛来してくる巨体に向かって襲い掛かった。
ソフィアだ。
彼女の魔法は、本当にすごい。
あの巨体の動きを一瞬で止めた。
灰を浴びたアルゲンタヴィスの降下が止まった。
上空で、バサバサと巨大な羽をバタつかせる。
その中心から、岩を擦るような音。あの鳥の鳴き声だろう。
体勢を立て直そうとしている。
落下しそうになりながら、翼をばっさばっさと振り下ろしている。
真上で、ヘリがホバリングしているかのようだった。
周囲の枝が、音をたてて揺れている。
焚火の炎は荒れ狂い、落ち葉が埃かなにかのように飛び散った。
剣を抜いたオレとカイルは、その風圧に耐えながら、上空を見上げていることしかできない。
そこへ、2本の棒が飛んだ。
まるで、地上から放たれた稲妻のような軌道。
速すぎて一瞬のことだった。
2本の棒が、上空で撒き散らされている乱気流を切り裂くように、アルゲンタヴィスへと突進した。
2本の棒は、アルゲンタヴィスの翼を貫通した。
そのまま空の彼方へ飛んでいってしまった。
轟音のようなアルゲンタヴィスの鳴き声が響く。
岩が降ってくるような鳴き声だ。
そしてまた棒が2本。上空へと稲妻の軌道で飛んでいく。
それは2本の矢だった。
矢羽が見える。
今度は、ムネと、クビに突き刺さっている。
貫通せずに、深々と。
矢の衝撃で、アルゲンタヴィスが上空でぐらついた。
そのまま動きが止まり、落下を始めた。
ここではなく、すぐ近くの森へ。
木々の上から、バキバキと音がする。
アルゲンタヴィスの巨体が、枝を叩き降りながら、ドスンと大きな音をたてて地面に激突した。
その後は、ウソのように静かになった。
舞い上がっていた落ち葉や土埃が、ゆっくりと地面に戻っていく。
呆然と立ち尽くしたまま、木陰の下に転がるアルゲンタヴィスを眺めていた。
少し遅れて降ってきた枝や葉が、その巨体の上にぱらぱらと落ちていく。
何秒かの静寂。
だれも何も言わなかった。
沈黙をストームが破る。
「わたしはストーム! 風の支配者! 稲妻の矢を導く者!」
矢を掴んだ両腕を、胸の前でクロスさせている。
2本の稲妻の線が、クロスしているように見えなくもない。
決めのポーズか。
フハハ。ハハハハッ。
オレだけじゃない。
ソフィアも未希も、カイルも。
顔をゆがめて、笑っていた。
ミラーは立ち上がりもせず、上体だけ起こして、口をあけたままだった。
森の朝は、まだ明けたばかり。
寝起きのミラーが、尻をかきながらのそりと起き上がる。
ミラーだけは、機嫌が悪そうだ。
そうだよな。
朝っぱらから勘弁してほしいぜ。




