4.5.25
ログアウトしていた。
テーブルの上にお菓子の山。
それを囲んでいた未希とストームが、突然戻ってきたオレを見て、ぎょっとしている。
「おにいちゃん? おかえり」
「部屋に入るなら、ノックしてほしいんだけど」
無理だよ……それは。
「オレは、何分差で戻ってきたんだ」
ストームが、壁の時計を見る。
「……13分? くらいかな」
「そうか」
オレは、どうやってログアウトしてきたんだろうか。
ログアウトした記憶がない。
まぁいいか。
時計を見ると15時半。
ログインしてたのは、1時間と少し。
今回も、かなり疲れた。
精神的に。
「総司」
「なんだ?」
「これ見て」
ストームがタブレットの画面を見せた。
航空機事故の記事。
1950年。ダグラス航空機行方不明事件と書かれている。
「これは、もしかしてカイルの?」
「ん、たぶんそうだと思う」
記事を読むと、機体と乗員は、現在も行方不明のままだった。
捜索は、70年以上経った今でも、ほそぼそと続いているようだ。
未希も、横からタブレットを覗き込んでいる。
「カイルさん、どこにいるんだろうね?」
「この記事だと、山か湖に墜落したんじゃないかって書かれてる。でも、カイルは、水が塩辛かったっていってたから、墜落したのは海なんじゃないかな」
まぁ……いずれにしても、もう死んでるな。
ついさっきまで、ニフィル・ロードで会話をしていたカイル。
その男が、半世紀以上前の飛行機事故で死んでいる。
もうこの世にいないのだ。
カイルだけじゃない。
ミラーもアーネストも、寿命を考えると、すでに死んでいる。
本当に奇妙だ。
「カイルさんの子孫が、まだ生きてるみたいだね。会ってみたいね」
「会ったところで、どうにもならないだろう?」
「なにか、伝言とか渡せるかもしれないよ」
「アーネストがすでに、なにかしてるんじゃないのか?」
「もう、おにいちゃん、否定ばっかり」
「ああ……すまん、クセだ」
「ぷ……ふふふっ。なにそれ、ミラーさんみたいなセリフ」
ストームが、航空機事故の記事を閉じて、検索フォームに別の入力をしている。
「ミラーのお墓は、どこにあるんだろうね」
「さぁな。スコットランドのどこかかな」
「今度行ってみる? 探しに」
「無理だろ。地球の反対側だぞ」
「わたしなら行ける。実家が大金持ち」
「……」
オレは先に帰ることにした。
ストームの豪邸を出て、駅へと向かう。
途中の定食屋で夕食を済ませてアパートに戻る。
郵便受けに、先日の仕事の報酬。
札束だ。かなりの額だった。
そのままサイフにねじ込む。
部屋に入り、布団に寝転がる。
眼を閉じると、意識を留めていられたのは、数分だった。
それから2日後。
7月28日、火曜日。
時刻は、午前11時。
オレ達は、ストームの部屋に集まった。
この部屋が、すっかりたまり場になっている。
昨日でもよかったのだが、月曜日はハウスキーパーのヨシコさんが来るというので、火曜になった。
ログインする前に、ストームが、アルゲンタヴィスの挿絵を見せてくれた。
なるほど。ハーストイーグルを襲った、巨大な鳥によく似ている。
しかし数百年前に絶滅したとある。
現代に事実として存在するのは、化石の骨格だけ。
挿絵も生態も、空想上の生物だった。
それが、いったいどういう理屈で、エレメント・ノードで生息しているのか。
それはストームにも、わからないらしい。
「じゃあ、わたし達は先にいってるね。総司は13分後で」
「わかったよ」
未希とストームが、ログインゲートの虹の中に消えた。
13分待てと言われたが、なにもすることがない。
しばらく、ぼーっとしていたが、数分後にオレもログインした。
眼を開けると、森の中。
灯りは、近くで燃えている焚火だけ。
夜中だ。
カラダを起こすと、焚火の傍にミラーが座っている。
他の連中は眠っている。
立ち上がって、焚火へと歩く。
オレの気配に気がついたミラーが、顔を向けた。
「よう、ソウジ。おはよう」
「ミラー。見張りは何番目だ? 交代するよ」
「おお、助かる。2番だ。次はソフィアを起こせ」
ミラーが立ち上がる。
「ミラー、オレはどうやってログアウトしたんだ?」
「あん? ああ、そうか。気絶してたんだよな」
「気絶?」
「おまえ、ぶっ倒れたんだ。耳の中で感染症が悪化してたらしくてな。けっこうヤバかったみたいだぞ」
「……そうか」
「そんで、ミキとストームの嬢ちゃんが、おまえの腕を掴んでログアウトさせたんだよ」
「そうだったのか。迷惑かけたな」
「迷惑? なに言ってんだおまえ」
「うん?」
「まぁいいや。寝るよ。あとは頼んだぜ」
「ああ」
ミラーが立ち上がる。
少し離れたところの岩影に腰を下ろして横になった。
オレは、サンダーソニアを腰から解き、剣の手入れを始めた。
刀身を磨き、クロスガードの土埃を払い、鞘の中のゴミを落とす。
野営中の日課だ。
いつの間にか、ミラーがイビキをたてている。
耳を澄ませると、未希やストームの寝息も聴こえてくる。
カイルとソフィアはずいぶん静かだが、胸が上下し、呼吸をしている。
それ以外で聴こえてくるのは、虫が鳴く音と、焚火の爆ぜる音だけ。
概ね、静かな森の中だった。
焚火の横に、カラになった鍋があるのに気がついた。
晩飯を食べ損ねているが、ログアウト直後なので、腹は減っていない。
耳も治っているし、すこぶる元気だ。
朝まで、あとどのくらいだろう。
ソフィアと交代しろと言われたが、起こさなくてもいいか。
このまま夜明けまで、オレが見張ろう。




