4.5.23
カイルに揺り起こされる。
野営の交代時間だ。
まだ夜は明けていない。
右の耳の異音は消えていた。
鼓膜がふさがったのだろう。
耳の奥に、痛みというか、圧迫感のような違和感が残っていて少し気になる。
まぁいい。
起き上がると、ソフィアがぐつぐつと湯を沸かしていた。
昨日は、ハーストイーグルの爪で肩を切り裂かれ、生死の境を彷徨っていたソフィアだった。
しかし、再ログインを終えたソフィアに、その様子はまるで無い。
「おはよう、ソウジ。昨日はありがとね」
「もうなんともないのか」
「再ログインしたからね。見ての通り、健康体よ」
「そうか」
「ねぇ、ミラーが私に変なことしなかった?」
「頭からキノコが生えるのが嫌だと言って、なにもしなかったよ」
「アッハハ。ソウジもハーブティー飲む」
「ああ、もらうよ。ありがとう」
しばらくすると、未希とストームも目覚めた。
目覚めたというより、ログインか。
だから、寝起きのようなモタつきはない。
未希の耳も治っているし、ストームもリフレッシュできたようだ。
ふたりの話では、オレも今夜ログアウトするらしい。
そんなつもりは全くないんだが。いったいどんな理由だろうか。
ふたりも理由は知らないようだ。
にしても、未来を知らされるというのは、妙な気分だ。
ログアウトせずにいたら、どうなるんだろうか。
試してやるか……
陽が昇り、朝食を済ませてから、ハンカチの魔法で方角を修正することになった。
指し示した方角は、北北西。
距離はわからない。
少なくとも、あと1日は歩く必要があるだろう。
北から流れている沢を登っていくのかと思ったが、ミラーは森に入ることを選択した。
沢は岩が多く歩きにくい。崖もある。水を飲みに来るクマと鉢合わせる可能性もある。
とにかくなんらかの理由で、いずれ迂回を強いられる。
というのが、ミラーの主張だ。
専門家の指示に従い、ミラーの先導で森の中を進むことになった。
昼になる少し前。
苔むした大きな岩を迂回している最中だ。
「うぅおぁっ!」
ミラーが奇声を上げて、上体を逸らした。
ミラーのすぐ右側を長い剣が掠めた。
ウィルコープスの群れだった。
岩のくぼみに集団で引っかかっていた。
ミラーは、ギリギリで振り下ろされる剣先を躱したが、バランスを崩して尻もちをついた。
わらわらとくぼみから、ウィルコープスが歩き出してくる。
立ち上がる暇もないまま、ミラーは3体に囲まれた。
ミラーが腰の斧を抜く。
オレとカイルも剣を抜いて、ミラーの元へ駆け寄る。
しかし、すでに、その3体の動きは散漫だった。
目の前で尻もちをついているミラーを見失っているような動き。
よく見ると、キラキラとなにかの粒が、ウィルコープスの顔の回りに浮遊している。
ソフィアの魔法だ。
あいかわらず速い。
オレとカイルで、まずはその3体を斬り伏せる。
岩のくぼみで、岩肌を眺めていた複数のウィルコープスが、一斉に振り向いた。
ミラーが立ち上がる。
狭い場所での斬り合いが始まろうとしていた。
「少し下がれ、距離を取ろう」
カイルの指示。
その言葉に従い、大岩から離れる。
あのまま密集して戦っていたら、剣は振れない。
味方にあたる。
まずは、オレを追いかけてきた1体と対峙する。
武器は、不格好な両手斧。木こりが使うような重そうな長い斧だ。
ウィルコープスが横殴りの体勢で、斧を引き寄せている。
これは簡単だ。
振り込まれる前に、ウィルコープスの喉に、サンダーソニアを突き刺した。
そのまま体重をのせて、ウィルコープスの腹を蹴り飛ばす。
ウィルコープスは、吹っ飛ばされて、そのまま大の字で地面に倒れた。
あんな重たい武器のヤツなんかに、負ける気がしない。
もう起き上がらないと思うが、念のため、斧を掴んでいる腕を斬り落とす。
次の相手を探そうと顔を向けると、ミラーがすでに2体を斬り伏せていた。
その奥でカイルが、3体を相手に戦っていたようだが、すでに2体が転がっている。
3体目の剣戟を躱し、右上からバックソードを振り下ろした。
「ソウジ!」
ミラーがオレを突き飛ばす。
なにしやがんだと、顔をあげると、すぐ目の前を何かが掠めていった。
右側の岩で、カンとキレのある衝撃音。
飛んできた方を向くと、数十メートル先の森の中に、弓を構えているウィルコープスが1体。
「飛び道具も使うのかよ」
「左右からいくぞ、俺は左だ」
「ああ」
オレとミラーが走り出そうとすると、2本の枝が飛翔し、弓を持ったウィルコープスの腕と頭に命中した。
ストームの魔法だった。
今ので最後のようだ。
戦闘が終わった。
ふぅ……と、全員が胸を撫でおろした。




