4.5.15
翌朝。
朝食を済ませると、ミラーは用事があると言って、どこかへ行ってしまった。
残ったオレ達で、目的地の計測を始める。
ストームを先頭に、まずは、前哨基地の西のゲートへと向かう。
出入りするプレイヤーの邪魔にならないように、ゲートからズレた場所でオレ達は立ち止まった。
「ここで、ハンカチに魔法をかけて欲しいんだけど、いい?」
「うん」
「オーケイ」
「それと……あっちのゲートまでの距離が知りたいんだけど」
ストームが、指差す先は、東のゲート。
100メートル以上はありそうだ。
「どうやって測ろうか。歩数とかでもいいんだけど、もっと正確に測りたい」
「だいたいの距離じゃだめなのか」
「1メートルのズレで、どんだけ変わると思ってるの」
オレにわかるわけないだろう。
「230メートルくらいじゃないか」
答えたのは、カイルだった。
「んん、どうして?」
「若い頃に狙撃の訓練を受けていてね。距離の目測には自信がある」
「それで、230メートル?」
「そうだ。いまゲートを通過したプレイヤーの大きさから、200メートルよりも少し遠い。正確なのかと問い詰められると困るが、私なら230メートルで最初の射撃をするよ」
「ん……ちなみに、命中率は?」
「静止していて風も微風なら、この距離で外すことはない」
「わかった。歩幅で測るよりも正確だと思うから、その距離で計算する」
ストームは、その説明だけで、カイルの目測を信じた。
次は木の棒を3本、地面に並べた。
1本は、先端に紐がついていて、あとの2本はただの棒だ。
ストームは、ただの棒を1本、地面に突き刺した。
その後に魔法。
ハンカチを取り出し、未希とソフィアが、方角を特定する術をハンカチに施す。
酒場の時と同じように、光りの粒が舞い上がり、渦を形成して分離した。
ストームは、突き立てた棒が落とす影の角度に合わせて、ハンカチを地面に置いた。
それから、紐の付いた棒をハンカチの中心に立て、目的地と目される渦の上まで、紐を傾けた。
「総司、この棒と紐おさえてて」
「うん? ああ」
オレが押さえると、ストームは手を離し、腰のナイフを抜く。
3本目の棒で、中心と紐の先端までの長さの箇所に、ナイフで切り込みを入れた。
「おっけい。急いで東のゲートに行く」
言われるがままに、オレ達は、東のゲートへと向かう。
東のゲートでも、ストームの手順は同じだった。
3本目の棒にナイフで斬り込みを入れ終わると、地面に数字を書いて計算を始めた。
ソフィアと未希が、その様子を、まじまじと眺めた。
「ストームが、なんだか、かっこよく見えるわ」
「うん。学者さんみたい」
学のないオレには、さっぱりわからない。
「これはなにをしているんだ?」
「三角測量だな。計測機もないのに、みごとな知識と発想だ」
「こんなんで、まともに測れるのか」
「いくらか誤差は出るだろうが、かなり正確に測れるだろう」
「出た。4万3053メートル。43キロだね」
けっこう遠いな。
しかし、衝撃的なのは距離ではなく、そのあとだ。
「みんな、この方角の景色を覚えて。進む方向だからね」
「えぇ……」
ストームが指す先に見える景色。
その先にあるのは、山脈だった。
山ではない。山脈だ。
雪のような色味は無いが、山頂付近は、削り取られたような剥き出しの岩肌。
42キロが、あの山よりも近いのか遠いのか。
オレには、それすらも分からない。
「カイル、あの山までは何キロだ」
「狙撃できる範囲外の距離はわからないが、30キロ前後じゃないかな」
「んん。とにかく向かうのは、あの山。昇るのかどうかは、近づいてから考えよう」
おいおい。
「山登りなんて、したことないぞ」
「わたしだって無いよ。ミラーともよく相談しよう」
「ああ……そうだな」
「ミラーはどこ?」
「さっき、井戸で水汲んでたよ、あ、ほら」
未希が井戸の方を指差した。
ミラーだ。
ハートリーと談笑しながら、井戸の水を汲んでいる。
とにかく、まずは、旅の計画を相談しよう。
山登りか。
嫌な予感しかしないな。




