4.5.14
翌朝。
陽が昇ると、すぐに、オレ達は旅を再開した。
川を離れ、森へ入る。
ミラーの表情が、いつもと違った真剣なものに変わった。
森の空気は澄んでいた。
ときおり、どこかから届く鳥の鳴き声。
そよそよと吹き抜けていく風が、心地よい音を奏でている。
森そのものが、巨大な楽器のように感じた。
暫く歩くと、ミラーが立ち止まって、振り向いた。
「オオカミの心配は、しなくてよさそうだ」
誰かが通った形跡。
それも、大人数の足跡が森の奥へ続いているらしい。
前日の補給部隊だろう。
オレには見分けがつかないが、ミラーには、街道のように見えるらしい。
「ハートリーも、補給部隊に参加してるんだ。見てみろ、あの枝」
ミラーが、折れた枝に指を向けた。
手を伸ばせば届きそうな高さの枝。
樹皮でかろうじて繋がっているが、折れてブラブラと揺れている。
「あれが……? なんだというんだ?」
「安全だというサインだ」
オレには、まったくわからない。
「カイル、わかるか?」
「いや、私にも、狩人の言葉は意味不明だ」
だよな。
安心した。
それでも警戒を続けながら、オレ達は森の中を進んだ。
ミラーがいなければ、到底無理な森の道。
どこかから、ガサガサと音がするたびに、未希やストームが顔を向ける。
オレもつられて、視線を向けるが、森しか見えない。
ミラーは、見向きもせずに先へと進む。
カイルは、木々や木漏れ日を眺め、森林浴をしながら歩いている。
ビクビクしているのは、現代人だけだった。
昼になると、少しの休息。
ポケットティッシュのような大きさの乾パン。
固すぎるので、水筒のワインを染み込ませてから齧る。
未希は、リュウタに、フルーツの香りがするネクターを飲ませていた。
オレ達の革水筒の中身は、ワインかエールだが、未希だけ、特性のネクターが入っている。
旅を再開し、もう間もなく夕方になろうかという頃。
前方に人影。
数十人の大所帯だった。
畳よりも一回り小さい台車が複数台。
森の中を進むためだろうか、小型の台車だ。
重そうな麻袋が満載されたその台車を、4人がかりで押している。
前哨基地へ向かう補給部隊だ。
部隊の先頭を歩いていたハートリーがオレ達に気が付き、短く手を振った。
補給部隊は女性が4人。あとは全員、むさくるしい男ばかり。
オレも言えた格好ではないが、まるで盗賊団の様だった。
これなら、オオカミも逃げ出すに違いない。
村人だってこれを見たら村を放棄するだろう。
城か街に近づいたら、確実に警報の鐘がなる。
オレ達も彼らに合流し、総勢36人で前哨基地へと向かった。
台車の軋む音が森の静けさを掻き消していた。
さすがにこの人数。
先ほどまでの緊張感は皆無だった。
そして、陽が落ちる寸前に、前哨基地へと到着。
死体や瓦礫は除去されていて、いくつかのテントやバラックが、疎らに立ち並んでいた。
人影は多くないが、数日前の荒れ果てた敗戦跡のような雰囲気は、残っていない。
ミラーを先頭に、まずは基地の責任者であるウィリアムを探した。
ウィリアムは再建された本部で、書類仕事をしていた。
ここに来た経緯を話し、明日の昼頃には、北へ向かうと説明した。
忙しそうなので、用件だけを手早く済ませて、そこを離れた。
今夜はここで一泊する。
テントやバラックは、物資の保管で使えない。
だから、オレ達も野宿だ。
前哨基地の一角を間借りし、焚火を設営した。
井戸があるので、水はある。
しかし、泥水なので、念入りに濾過してから煮沸する。
ここでハラを壊してログアウトするのは手間だし、なによりカイルはログアウトすると死ぬ。
焚火を囲み、食事を済ませて、明日の予定を立てる。
スケジュールは、隊長であるストームの担当だ。
明日。
朝の内に、ハンカチに魔法をかけ、前哨基地の離れた2か所から、目的地の方角を特定する。
距離の計算を終えたら、荷物をまとめて出発だ。
他にも細かい説明があったが、すぐに忘れた。
オレは、20キロ近い荷物を背負って、丸一日歩いた。
もう、ヘトヘトだ。
今夜の見張りは不要でいいだろう。
昨夜、あまり寝てないオレとカイルは、とっとと寝る。
寝る前に、ひとつ思い出したので、隣に座っている未希に言葉をかけた。
「そういや、リュウジはどこだろうな」
「うん、見てないね。ここにはいないのかな?」
未希が、膝に視線を落とした。
「ねぇ、リュウタ。リュウジはどこ?」
膝の上で丸まっているリュウタが未希を見上げたが、首をかしげるだけだった。
まだ、よちよち歩きなので、旅の間は未希がずっと抱っこしている。
未希の唯一の荷物だ。
まぁいいか。
今日も疲れた。
これ以上は、何かを考えるのも億劫だ。
寝よう。




