4.5.10 - 腸詰めパウチ
目を覚ますと、夕方だった。
カラダを起こすと、すぐ近くに池。
その途中の土の上に木のコップが転がっている。
立ち上がって、コップを拾いあげる。
中には、なにも入っていない。
池に近づき、水を汲む。
覗いてみたが、ただの水だった。
結局、なにも得られなかった。
ひたすらコップの鏡で自分を見つめ直し、未希とサンドイッチを食べ、あとは寝てただけ。
まぁ、それも悪くないか。
日本での日常と変わらない。
コップだけ手に持って、ストームの家へと戻った。
入ると、こってりとしたラーメン屋の厨房のような匂いがする。
長テーブルの上には食糧の山。
乾燥したパンのカケラに、豆、果物、ジャーキー。
7日分なので、かなりの量だ。
「あ、総司が戻ってきた。どうだった」
「ああ。よく眠れたよ」
「んん……? 魔法つかえそう?」
「いや、まだ無理だな」
「ねぇ、ソウジ、ちょっとこっち来て、手伝って」
「うん? ああ。何をすればいい?」
ソフィアの方へと近づく。
少し離れたところで未希が床に座っている。
大きなボウルに野菜、果物。
それをスプーンで掬って、黒ずんだ小袋に流し込んでいる。
「これはなんだ?」
ソフィアの手元にある黒ずんだ小袋。中には酢漬けの野菜が詰め込まれていた。
それを、紐で縛ろうとしている。
「ストームと私で、開発したMREよ。どう? すごくない?」
「えむあーるいー? 病院にある装置のことか?」
「おしいっ、それは、MRIね」
オレには、小さな黒いゴミ袋に、野菜を詰め込んでいるようにしか見えない。
「で、オレは何をすればいい」
「これ、すごく固いのよ。紐で縛ってくれない?」
「縛ればいいのか」
ソフィアから、受け取ると、袋の表面はゴム……いや、これは……
「腸詰め?」
「そ。焼いた腸管に、酢漬けの野菜を詰めて縛るの。私達が開発した、この時代のレトルト食品ね」
紐は、革紐だった。
たしかに固い。無茶苦茶固い。
指にほぼ全力の力を込めて、どうにか結べる。
この袋はつまりモツ焼きだ。
伸ばした袋状のモツ焼きの中に、酢漬けの野菜を詰め込んで、それを革紐で縛る。
紐はゴワゴワで、太いし融通が効かない。
モツ焼きの袋は、僅かな伸縮性のあるグローブのようだ。
これは確実に、明日、指が筋肉痛になる。
結びおわると、懐中電灯のような太さのソーセージができあがった。
そして、次々と、野菜が詰まったモツ焼き袋を渡される。
中身は、キャベツや、玉ねぎ。ネギに、カブ。
「おにいちゃん、口あけて」
「うん?」
振り向くと、未希がメロンの切れ端を摘まみ上げていた。
口に入れる。
……甘い……甘過ぎる。
蜂蜜漬けのメロンの切れ端。
吐き出しそうになったが、我慢して噛み砕き、飲み込んだ。
野菜を詰め終わると、こんどはフルーツを詰め込むのか。
「まさかこれも?」
「そうだよ。どんな味になるか、楽しみだね」
リンゴに、モモ、メロン。
最後は、それらのミックスフルーツ。
どんな味っておまえ。
いったい、どんな旅にするつもりだ。
遠足に行くんじゃないんだぞ……
と、言いかけてヤメた。
たぶん、オレ以外は、みんな遠足気分だ。
「次は、仕上げよ」
ソフィアが、用意したのは、煮込んで溶かした樹脂。
紐で縛って袋詰め状になった腸詰めを、次々と樹脂の中へ沈める。
そして、樹脂でコーティングすると、天井に渡した紐に吊るしていく。
ポタポタと、樹脂が滴り落ちるが、床には雑巾のような布が敷かれていた。
「干すのか」
「そうよ。明日の朝には固まって、完全に密閉されるわ」
これで、食糧の準備は終わったらしい。
「みきさん、こっちきて。武器どれにする?」
ストームが未希を呼ぶ。
テーブルの上に、ナイフや短剣が複数本、並んでいた。
未希が歩み寄り、並んでいる刃物を眺めている。
「う~ん……ぜんぜん分かんない」
幾つか手に取ってみているが、ピンとこないようだ。
オレも、順に手に取ってみる。
ソフィアが持っていたナイフと似たようなものが1本。
手に取ってみると、見た目通り軽い。
刃渡りは、15~16センチくらいだろうか。
片刃で、少し湾曲している。
触れてみると、強度もそこそこありそうだ。
「これでいんじゃないか?」
未希に見せる。
「うん、じゃあ、それにする」
まぁ、どれでもいいよな。
未希には、ナイフで誰かを斬ったりするようなシーンは想像できないだろう。
オレもだ。
そうならないように、オレが立ち回ればいいだけの話。
「鞘もあるから」
ストームが、革でできた鞘を未希に手渡す。
未希がナイフと鞘を受け取り、納刀して、腰に結び付ける。
「似合う?」
「……アクセサリーじゃないからね」
「……」
そうだ。人を殺すための備えだ。
未希がそれを腰にぶら下げている。
やはり、この世界は好きになれない。
「さて、じゃあ、あとはご飯食べて寝るだけ? 明日は早いからね」
「いま、何時くらいかな?」
未希の問で、ストームがログインデバイスを出した。
「う~ん、夜の8時か、9時くらい? ログアウトする?」
「朝の準備もあるわよね。夜明けと共に出発だと、ギリギリかもね」
「じゃあ、もうご飯食べて、寝よう」
「うん」
それからオレ達は、野菜と果物だけの簡単で質素な食事を済ませる。
あとは、くだらない話ばかりだった。
オレは、先に部屋に戻って、横になる。
しかし、昼間、さんざん寝たので、眠くない。
明日からまた、旅が始まる。
眠くなくても、目を閉じる。
ときおり、扉の先から、未希やソフィアの笑い声が聞こえてくる。
無視して頭をカラにする。
なにも考えずにぼーっとしているだけ。
そうしていれば、どこだろうと同じだ。
オレだけの空間、オレだけの時間に思えてくる。
……




