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4.5.8 - 水と魔法


 未希とストームの家へ。

 入ると、ストームとソフィアが、向かい合って話をしていた。


 適当に挨拶を交わしてから、今日の予定を聞く。


「食糧は、わたしとソフィアでメモリアから取って来る。他になんか必要なものある?」

「ミキとストームの武器じゃない? 魔法が使えるからって、丸腰じゃだめよ」


「んん。みきさん、どんなのがいい?」

「あんまり重たくないのがいいなぁ」


「じゃあ……とりあえず、わたしがお城で適当に貰ってくるから、そこから選ぶでいい?」

「うん」


「ミキはどうするの? 今日?」

「みきはね、やりたいことがあるから、それやる」

「なに?」


「ナナカマドの枝を使って、リュウタの首輪を作る」

「あら、いいわね」


 ナナカマドの枝。

 リュウタの父親オオカミの墓標となったナナカマドの木。

 その枝を、ストームが持ち帰っていた。


「枝で首輪か。痛そうだな」

「首輪っていうより、ネックレスかな。枝を削って、オオカミの形にして、それを紐でぶら下げるの」


「で、ソウジは?」


 オレか。

 なにもすることが無いな。


「ここで座ってるよ。なにか用事ができたら言ってくれ」


「んん。じゃああとで、荷造り頼む」

「……」


 ストームはデバイスを出して、メモリアに消えた。

 ソフィアは、家に戻ると言い捨てて、ストームの家から出て行った。


 未希は、自分の家に帰ったが、すぐにリュウタを連れて戻った。

 それから、ナイフを片手に、ナナカマドの枝を削っている。

 指を切らないか心配だ。


「なぁ、未希」

「ん?」

「魔法は、どうやって使うんだ」

「おにいちゃんも、挑戦してみる?」

「まぁな……使えないよりはいいだろ」


「う~ん……みきには、どうして魔法が使えるのか、わかんないんだよね」

「なにか、切っ掛けとか、無かったのか?」

「みきはね、生まれつき魔法が使えるんだって。なんでかは、わかんないんだけど」


「普通は違うのか」

「違うみたい。まゆさんかソフィアに聞いたほうがいいかも」


 話していると、ストームが戻った。

 両手に、麻袋を持っている。


「乾パンみたいなの貰ってきた。次は水筒に入れるワイン貰ってくる」


 言いながら、デバイスを出して操作している。


「ストーム、後ででいいから、魔法の使い方を教えてくれ」

「んん? ……世界を破壊するの?」

「まぁ……仕組みだけでも知っておきたい」


「……分かった。使えるようになれるか分からないけど、今教える」


 ストームは、左手に出したデバイスを消し、テーブルにあった木のコップを掴んだ。

 それを持ったまま、出入口へと歩き始める。


「家が壊れたら嫌だから、外で」


 オレが魔法を使うと、そんなに危険なのか。


 外に出ると、驚いた蝶がハタハタと飛んでいく。

 今まではあまり気が付かなかったが、小さな虫も、この世界で無数に存在し、生きている。


 ストームは、池に向かって進んだ。

 振り返らずに、話を始める。


「この世界って、どうやって出来てると思う?」

「ん? 誰かが作ったんじゃないのか?」

「大まかには、たぶんそうなんだけど……」

「違うのか?」


「虫も、動物も。木も空も、あの雲も。たぶん誰かの記憶」

「……?」

「この世界はね、大勢の人の記憶を集めてできている……と思う。それを目で見てるんじゃなくて、意識で見る」


 また、訳の分からない話か。

 まぁしかし、何となくわかる。それはつまり。

「夢を見ているような感じか」


 ストームが話を続けた。

「そう。そんな感じ。この世界は夢の中。それをみんなで一緒に見てるだけ」


「夢の中なら、魔法が使えても、不思議なことはないか」


「魔法はね、使えるようになるために、切っ掛けが必要なの」

「どんな?」

「わたしもよくわかんないけど、魔法を五感ではなく、意識で感じ取る」

「……どうやって」


「修行するしかない」


 池に辿り付くと、ストームは、池の水を木のコップに注ぐ。

 それから、オレの方を振り向いて目を閉じた。


 コップが歪むが、すぐに収まる。


「なにをした?」


 ストームがコップを覗き込む。

「この容器内の液体は、全ての光を反射する」

「は?」


 木のコップをオレの方へ向ける。


「太陽を自分の目に反射させないようにね」


 コップを覗き込む。

 オレの顔。


「なんだ……これは? 鏡?」

「水。だけど、たぶん鏡よりも鏡。反射率ひゃくパー」


 たしかに……水に写したように歪んでいるが……

 まるでそこに実体があるかのように、オレの顔がそこにあった。

 鏡に映した。というより、コップの中に歪んだオレの顔がある。


「じゃあ、これ持って」

「……オレが持ってもいいのか」


 ストームから木のコップを受け取った。


「地面に零してみて」


 言われるままに、コップを傾ける。

 水が零れていく。


 不思議だ。

 コップのフチまでは、水銀のような液体が、そこを離れると水に戻る。

 地面に流れ落ちる液体も、ただの水。そのまま地面に染み込んでいく。

 全ての液体が無くなると、木でできたコップの底に戻っていた。


「で、また池の水を汲んでみて」


 池に近寄り、水を汲む。

 無造作に掬いあげる。

 コップの中が、再び、磨き上げられた鏡になった。


「すごいな」

「ちょー簡単な魔法。鏡みたいだけど、そう見えるだけで、ただの水。たぶん飲める」


「オレにもこれをやってみろと?」

「違う。それを使って、魔法の切っ掛けを掴む」

「どうやって?」


「その水も、時間と共に魔法が解けて、ただの水に戻る。それを視覚ではなく、意識で感じ取る」


「すまん……どうやって……?」


「ごめん、その説明はできない……わたしにも分からない。でも意識で感じることができたら、魔法が使えるようになるはず」


「……なるほど」


「じゃあ、わたしは戻るから。総司はここで修行」

「これを眺めていればいいのか」


「……アホぉ。言ったでしょ、意識で感じ取る」

「ああ、そうか……やってみるよ」

「んん。魔法そのものじゃなくて、魔法の効果が弱まっていく感覚を探してみて」


 ストームが立ち去っていく。

 その足音だけを背中で感じながら、オレはコップに映る自分の顔を眺めていた。


 やはり不思議だ。


 好奇心で、その鏡に指で触れてみる。

 液体に揺れる感触が伝わるが、波紋が見えない。

 指先で触れたオレの顔が僅かに歪む。


 恐る恐る、指を沈めてみると、鏡面から先の指が消えた。

 刃物でスパっと切断されたかのように、オレの指が消えている。


 驚いて指を引き抜くと、コップの中のオレと指が、ぐにゃりと歪む。


 なんだ……どれが指で、どれがオレで……

 軽い眩暈、目が回る……

 脳まで揺らされるような感覚。


 歪んだオレが落下していく。


 気が付くと、コップが地面の上でバウンドしていた。

 そのままコロコロと転がっていく。

 水銀のような液体が、コップの中でガラスの破片のように跳ねまわっていた。


 目を擦って、地面に視線を戻す。

 残っていたのはカラのコップと、水が染み込んだ地面だけだった。


 だめだ。


 カラダを傾けて空を見上げる。


 なんだか、久しぶりに、タバコが吸いたい。


 このふざけた現象を意識で感じ取れ?



 無理だ。



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