4.5.5
ハンカチの上で光を放つ粒子の渦は、北北東を示していた。
これで、存在と、方角が分かったとして。
「この渦は、いつまで光ってるんだ?」
ソフィアが、即答。
「あと、30分くらいかしら」
「大まかな方角は分かったが、近くまで行ったとして、細かい調整はどうするんだ」
この質問には、カイルが答えた。
「私も共に行く。都度、ハンカチに魔法を掛けなおせばいい」
「なら、まずは、前哨基地を目指そう」
テーブルの上のハンカチに視線を落としながら、ストームがそう提案した。
華奢だし肌も青白いが、仮想世界に入ったストームに、人見知りの文字は存在しない。
「前哨基地の東西2か所から、方角を取れば、大まかな距離も測れると思う。
方角と距離で歩く時間を試算して、近くまで行ったらまた、ハンカチで方角を修正する。
これでどう?」
「いいんじゃないかしら? 私もそれに賛成よ」
「それで、出発はいつにする。明日の朝か?」
今度は、アーネストが口を挟む。
「明後日でもいいか? 同行者を何人か付けてやる。
明日は、旅の準備を整える時間にあててほしい」
同行者? それは助かる。
3人は術師、カイルは片腕。
今のメンバーだと、近接で戦える人間がオレしかいない。
しかし、懸念もある。
「変なヤツは、お断りだぞ?」
「信頼できる部下を付ける。心配するな」
心配だ。
アーネストは、オレも信頼してるんだよな?
それだと、全くあてにならない。
「カイルさんはいいの? すぐ出発したいよね?」
「それはそうだが……
なにも分からないまま、2週間近く途方に暮れていた。
少し待たされるくらい、なんでもない」
「そのカラダで大丈夫なのか?」
「片腕が無いだけだ。問題無い。剣も振れる」
そうは言ってもな。
気持ちは分からなくもないが……
それから、物資や、行程の細かい打合せをした。
最初の食糧は、7日分用意することに決まる。
明日、オレ達よりも1日早く、前哨基地への最初の補給部隊が出発するらしい。
それでも、基地の食糧は不足している。
往復の食糧は、極力オレ達で用意し、不足は可能な限り現場で調達するという方針に決まった。
オレ達だけでできるのかという不安はあるが、野草や果実に詳しいソフィアも同行する。
どうにかなるだろう。
それと、前金として、5千ジェノを渡された。
そのカネで、服を買えと。
そういや、オレの服。ウィルコープスとの戦いで、あちこちが破れたままだった。
だが、どこで買ったらいいのか分からない。
話を終えて、アーネストの店を出る頃。
外は完全に夜だった。
歩きながら、前を歩く未希とストームに尋ねた。
「ところで、5千ジェノって、どのくらいの価値なんだ?」
「うーんと……桃が1個15ジェノだから……5万円くらい?」
「そうか。結構くれるんだな」
「そう? 命がけの調査遠征の報酬だって1人4千ジェノだから。だいぶケチだと思うけど」
まぁ……どのみち、オレにはカネの使い道が無い。
話しながら歩いていると、噴水広場に通りかかる。
暗くて隅までは見渡せないが、噴水おじさんの屋台は無かった。
夜は、メモリアに戻っているのだろうか。
オレは立ち止まった。
とくに理由はない。ただの気まぐれだ。
「未希、オレは今夜も、メモリアに行くよ」
「うん? なんか用事?」
「まぁ……そうだな。明日の昼前には戻る」
「わかった。じゃあ、みき達はおうちに戻ってるね」
「おやすみ、ソウジ」
「……ん」
「また明日な」
3人が、背を向けて遠ざかっていく。
たぶんオレは、独りになりたかった。
それだけだ。
ログインデバイスを出して、記憶の回廊へと向かった。




