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妹が消えたあと、世界の数が合わなくなった話  作者: 渡しログ
1章ワールドカウント23
11/20

2.7


 タクシーが家の前に到着した。

 カネを払ってから、ストームを揺すって起こし、タクシーを降りた。


「おい、まゆ」

 パーカーを被りもせず、偽名にも反応しない。

 もうなにもかもどうでもいい、と言いたげに、立ったままでも寝ようとしている。

 タバコを取り出して、火を付ける。


「おい、まゆ、起きろ」

 反応しない。


 立っているのも辛そうで、その場に座りたがっている。

 オレは、まゆの腕を掴んで、無理やり立たせる。


「おい、ストーム」

「ふぇぃ……」


 結局その場で10分弱。

 ようやく、目が覚めて、今からおまえはストームではなく「まゆ」だと認識させた。

 念のため、苗字も決めておいた。

 きたむらまゆ。漢字はどうでもいい。


 オレは、実家の呼び鈴を押した。

 母親が玄関を開ける。

 玄関先で、未希の友達だと紹介し、手掛かりを探しに未希の部屋を見ると告げる。


「……まゆです……」

 と、小声で言うと、小さく会釈した。


「ええ……あ、えと……いらっしゃい、まゆちゃん」

 明らかなコミュニケーション不足だが、まゆは、香水もつけていないし、ケバケバしているところが微塵も無い。

 そして、まゆは、外見も内面も、誰が見ても、自己表現が苦手なタイプの権化だった。

 突然の来訪で、少し戸惑った母も、こういう子なのだろうと、納得したようだ。


「父さんは?」

「今日は休みだけど、会社にいったわよ」

 居ないことは予想していた。父は、家にいるよりも、会社にいたほうが、未希の捜索に都合が良い。


 玄関で母と別れ、俺たちは2階へあがり、未希の部屋に入る。


 デバイスは2台ある。


 1つは、部屋の床に落ちていたデバイス。

 もう1つは、遺品箱から持ち出し、オレがログインに使ったデバイス。


 2台のデバイスは、昨日のまま、机の上に置かれていた。


 画面は表示されていなかったが、手に取り、しばらくすると文字が映し出された。

 これも、まゆが調べて分かったことだが、触れて人物の情報を読み取ったあとに文字が表示される仕組みのようだ。

 床に落ちていた方のデバイスを手に取る。

 しばらくすると、このデバイスにも文字が表示された。


 シールに「S」のデバイス

 『 World Count 24 / Login Error 』

 Error ?

 どういうことだ?


 オレがログインに使ったデバイスを手に取る。


 シールに「K」のデバイス

 『 World Count 24/ Login Recharge 1 』

 こちらは、エラーとは表示されていない。

 ログインリチャージの意味が、まゆのいう通りなら、1時間以内に再ログインできるはずだ。


 2台を、まゆに見せる。

 それを手に取ると、舐めまわすように観察を始めた。

 もう、フードで顔を隠すのも、どうでもいいようだ。


「まゆ」

「ん」

「1台はエラーになっているが、どういうことだ?」

「……わからない、けど、みきさんがログインするとき落とした……のかも」


「こっちはログインできるよな?」

「うん、いける……はず」


「1台で2人ログインすることは可能か」

「むり」

「入りたいか」

「そうしたいけど、それもダメ」

「なぜ?」

 少し間を開けて、まゆが答える。

「こわい」


 まゆには、オレが昨日見た夢のこと。

 つまり、ログインしたあとに体験したことも話している。


「わたしは、ログインするところを見て、ここで待つ」

 まゆは、背負っていたナップサックを降ろし、中から薄いノートパソコンを取り出すと、カチカチと何かを始めた。


 モニターを覗くと、小さなウインドウが花火のように次々と開いては消えるを繰り返していた。


「30分から1時間で戻ってくればいいから」

 と、モニターを見つめる、まゆが言った。


 ニフィル・ロードは、いくつかの特殊な効果を持っているらしい。


 その一つが、「時間の圧縮」

 ニフィル・ロードでは、時間が100倍に圧縮される。

 ここでの1分は、ニフィル・ロードでの100分。

 まゆの言う30分から1時間で戻ってこいというのは、ニフィル・ロードで100時間過ごす前にログアウトしろという意味になる。


 昨日、オレは4時間近く、あっちの世界にいたが、目覚めてみると10分も経っていなかった。

 ニフィル・ロードで過ごした4時間弱は、こちらの現実世界では、たったの2分半なのだ。


 それと、もう一つ、「時間軸の強制同期」

 これは、オレには、まったく意味が解らない


 まゆいわく、オレが未希の救出に成功するなら、今のこの瞬間にも未希が部屋に戻って来る可能性があるらしい。


 オレには、わけがわからないので、これに関しては、まゆに任せる。

 まぁ、これから色々分かっていくだろう。


 今日の予定は、あっちの世界で100時間生存し、慣れることだ。


 まだ時間があるので、まゆから受けた注意点を反復する

 まずは、言葉の通じる人物、あるいはその集落を探すこと。

 最初に降り立つメモリアという場所は、デバイス所有者が連綿と受け継ぎ、築き上げてきた世界らしい。

 このデバイスの過去の所有者が日本人ならば、言葉の通じる現地人が必ずいるだろう、というのがまゆの予測だ。


 次にログアウトに関する重要な事。

 ログアウトは、必ず安全な場所で行うこと。


 ログアウトすると、その場所に、プレイヤーの抜け殻が放置されるらしい。

 そして次のログイン時に、ニフィル・ロードでは、ログアウトから6時間後の再開になるんだそうだ。

 つまり、ログアウトするとニフィル・ロードでは、6時間、無防備にさらされ、その間にナイフを突き立てられると、次のログインと同時にそのプレイヤーは死亡する。


 そして、まゆが、最後に釘を指す。

「死んだらそこでカウント24は終わる……それだけは絶対忘れないで」


「死んだらどうなる?」

「もう、24へは2度と入れなくなる」

 マジか……

 つまり、ワールドカウント24では、未希を見つけるまで、死ぬわけにはいかない。


 ふと、トストスと、階段を昇る足音。

「総司。お茶もってきたよ」

 母親だった。


 変なイメージを持たれるのも面倒なので、ドアは、開けっ放しにしている。

 丸いお盆に、ティーポットとクッキー。それとティーカップが2つ。

 オレはお盆を受け取り、床に置いた。


「じゃあね」

 と言って、母は階段を降りて行った。

 寝不足の表情は、昨日と変わらないが、少しは寝たのだろう。

 足取りは、しっかりしていた。


 まゆは、見向きもせず、部屋の真ん中で、ノートパソコンに集中していた。

 それから、まゆは、次々とわけのわからない説明をオレに続けた。


 集落を探すヒント、モンスターが出やすい場所、魔法の発動方法。

 それから、簡単なサバイバルの知識。

 そんなに頭に入るわけないだろう?


 時間が経ち、15時を回る。

 ログインリチャージには、まだ1と表示されている。

 20分を過ぎても、まだログインできない。


「これも持って、ログインしてみて」

 と、まゆが、エラー表示のログインデバイスをオレに手渡した。

「左手のデバイスでログインして、右手にはこれをもつ」

「どうして?」

「これがないと……みきさん……ログアウトできないかも」


 ……ああ、そうか。


「2つ持って入れるのか?」

「わからない。試す」


 『 World Count 24 / Waiting for Login 』


「時間だ」

「うん」

 フードを外したままの、ストーム……まゆが、目を輝かせてオレを見つめている。

 可愛い……ではない。

 それは、あたらしいゲームを起動する前の、好奇心に満ち溢れたオタクの目だ。


 まゆが、床に広げたノートパソコンや、お茶のお盆をどけて、部屋の隅に下がる。

 オレは、部屋の中央に立ち、デバイスを水平にする。


 『 Join Me 』


「母親が来たら、コンビニにでも出かけたって誤魔化してくれ」

「ん」

「じゃあ行ってくる」

「ん」


 オレは、「Join Me」をタップする。


 1メートル手前に、虹色のホログラムが出現した。

 横で見届けるまゆにも、見えているようだ。

 口を「ほ」の字に開けて、ホログラムの動きを目で追っていた。

 ティンカーベルでも出てきそうな、子供の瞳だった。


 おっと、ログイン時の注意点。

 動かない、目を閉じる、落とさない。


 オレは目を閉じて、


 まもなく、シャボン玉の膜に呑みこまれた。



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