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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント23
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2.6 - まゆ


 オレは席を立ち、少し離れてから達郎を手招きした。


「送ってってやってくれ。丁重にな」

 財布から1万円札を5枚抜き取り、達郎に渡した。

「あざっす! わかりましたっ!」

 達郎への情報料だが、ストームの分も入っている。

 配分は達郎に任せていいだろう。


「それと、ストームとの会話はぜんぶ忘れろ」

 と言って、もう1枚、万券を渡す。

「あざっーす!」

 高級外車と交換できるレアモノの話が含まれていた。

 1万円じゃ安いかもしれないが、達郎なら大丈夫だろう。


 席に戻り、ストームの連絡先を尋ね、SNSのアドレスを交換した。


 最後にひとつ、ログインリチャージについて質問した。

 次にログインできるまでの待ち時間とのことだった。

 待ち時間は30時間。

 明日の15時頃まで、ログインできないということになる。


 ストームには、明日、また連絡すると告げて、その夜の会話を終えた。

 いったんアパートに戻って寝よう。

 ストームとの会話が事実なら、オレは殺される夢を見たのではなく、殺される経験をしたってことになる。

 さすがに疲れた。




 翌朝。

 また、母親からの電話で起こされる。


 未希がまだ帰ってこないという報告。

 オレも探していて、今日の午後、家に行くかもしれないと告げて、通話を切った。


 父親も、自分の情報網を使って、捜索を始めていることだろう。


 父親の名は、大嶽和彦。

 オレと同じで高卒だが、警備会社に勤めていて、要人の身辺警護が主体の部署にいるらしい。

 警察とのパイプもあり、政治家や企業の重役にもコネを持っている。

 表の情報網は広い。


 まぁ、オレの仕事を知ったら、いよいよオレは勘当されるか。


 SNSでストームにメッセージを投げる。

『今日の昼頃から夜くらいまで時間を空けておいてほしい。いいか?』

 まだ、朝の8時だった。寝てるだろうな。


 もう少し寝ようかと横になると、スマホが鳴った。

 ストームからの返信。

『分かりました。何をすればいいですか?』

 意外だ。


 オタクは明け方に寝て昼過ぎに起きるという、ホストかキャバ嬢のようなサイクルだと聞いていた。


 そのまま、メッセージをやりとりし、13時にストームが指定した駅で待ち合わせることになった。


 どうやら興奮して寝ていないらしい。

 あれから、ストームも情報を集めていたらしく、オレと話したがっていたようだ。



 指定した時間に、駅前につくと、ストームはすでに待っていた。

 昨日と同じくフードで顔を隠してはいるが、今日は黒ではなく、裏地が青の白いパーカー、ベージュのクロップドパンツ。赤と白のハイカットスニーカーを履いていた。

 長い黒髪がパーカーの中に吸い込まれている。


 オレを見つけたのか、小さく頭を上下させた。

 分かりにくいが、挨拶したのだろうか。


 近づいて、ストームに声をかける。

「先に、少し話したいんだけど、いい場所あるか?」

 ストームは何も言わず、首をかしげた。


 オレは周囲を見渡す。

 雑居ビルの隙間に、小さな喫茶店を見つけたので、そこへ入ることにした。

 昭和からやっているようなレトロな店内だった。


 オレはコーヒー。ストームはカフェオレを注文した。


 店員が立ち去ってから話を始めた。

「今日、15時頃に、カウント24へログインする」

 と、ストームに告げて、未希を含めたこれまでの経緯を簡単に説明した。

 それを聞いてストームが顔をあげる。


 目元は隠れているが、唇をぎゅっと結び、ほころんだ表情を作っている。

 「妹が行方不明」だと告げたはずだが、期待とワクワクがその顔から滲み出ていた。


「未希はどうしてあんな危険なところで、生き残っていられるんだ」

「女性は大抵、魔法使いかテイマーになるらしいの」


「……は?」


「魔法使い……なりたい……」


 だめだ……わからない……

 裏社会は、嫌悪されがちだが、分かりやすい世界だ。

 利用するか、されるのか。それだけだ。


 だが、ストームの話は、常軌を逸している。

 天井を見上げるしかなかった。


 その後、オレ達は、これからオレの家に行くということ。

 ストームは、未希の友達で、探す手伝いをしに未希の部屋を見に来たことにすること。

 それから、偽名でいいから、普通の呼び名をリクエストしたら、

 「まゆ」

 と、答えたので、家では、「まゆ」と呼ぶことにした。


 会計を済ませて、店を出る。

 電車で行こうと思っていたが、ストームの歩く速度があまりにも遅い。


 走ってきたタクシーを止めて、オレの家に向かった。

 タクシーの中で、引き続きレクチャーを受けるが、ストームの受け答えが鈍い。


 横を見ると、ストームは窓にもたれ眠りこけていた。

 タクシーの揺れで、フードがずり落ち、微かなリンスの香りが撒き散らされた。

 黒髪が光を帯びて、パーカーの内側に吸い込まれている。


 話しておきたいことはまだあるが、そのまま寝かせておく。

 静かになったタクシーの中で、これからのことを考える。

 未希が24にいると仮定して、これから24にログインする。


 なぜだか、妙な高揚感があった。

 オレも、ストームと同じように、「ニフィル・ロード」というものに高揚しているのかもしれない。

 根拠もなくこの先の未来に期待している。


 だがオレは知っている。

 こういうときは大抵、最後に待っているのは、良くないことだ。



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