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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
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3.1.01 - 再びあの世界へ


 風が頬を撫でていた。


 昨日見た夢と同じ感触。

 目を開けると、視界の情景も、まったく同じものだった。


 オレは草原に立っている。


 聞こえるのは風の音と、ヒバリのさえずる声。

 草原の先には森が広がり、遙か遠くには山頂に雪をいただく山脈が見える。

 空は青々と晴れ渡り、モコモコとした雲が、遠くの空まで浮かんでいる。


 夢ではなく現実と異なる世界。

 仮想の世界なのだと信じるしかない。


 ここはニフィル・ロードだ。


 湿度も、温度も、陽の光のあたたかさも。

 取り巻くすべてが、最適なところに調整されている。

 昨日と同じ不気味なくらいの清涼感。


 昨日と違うのは、オレには知識があり、心の準備があるということ。


 とはいえ、両手にはなにもなく、着ている服は、粗い亜麻布のチュニック1枚。

 靴は履いておらず裸足だ。


 まずはコレを試そう。


 左手を開いて、右手の人差し指で、手のひらの真ん中を、

 トン トン トン

 3回弾いた。


 まゆから教わった、ログインデバイスの呼び出し儀式。


 すると、ぼやっと手のひらの上が光る。

 手のひらサイズの灰色に濁った光。

 眩しくも無いし、熱くもない。

 その光が2~3秒で消えると、開いた手の上に、ログインデバイスが載っていた。


 手品か、魔法のようだ。

 そして、見た目はログインデバイスのそれだが、これは半透明だった。


 表面には、こう書かれている。

 『 World Count 24 / CONNECTED / ELAPSED 00:01 』


 半透明なので、裏側のシールと「K」の文字が透けて見える。

 掴もうと指を曲げてみたが掴めない。

 手のひらにデバイスの接触も感じない。

 ゆえに、重さが無い。

 ニフィル・ロードでは、ログインデバイスは実体として存在していないようだ。


 そのまま、軽く上下に動かすと、手に引っ付いたようにデバイスも上下する。


 手のひらを下に向けると、デバイスが消えてしまった。


 もう一度、手のひらを3回弾くと、再びログインデバイスが出現した。


 なるほど……

 ここはニフィル・ロードか。

 仮想世界なんだと、改めて実感した。


 表記されている文字を再確認する。

 英語はわからないが、少しなら単語の意味はわかる。


 『 World Count 24 / CONNECTED』

 ワールドカウント24に接続しているという意味だろう。


 『ELAPSED 00:01』

 経過。これは、この世界での経過時間だろうか。


 手を裏返す。

 ログインデバイスが消えた。


 次は右手だ。


 右手を開き、左手の指で3回弾く。


 ……出た。


 『 World Count 24 / ERROR / ELAPSED 43:06 』


 こちらはエラー。


 未希がいなくなったのは、おとといの夜8時頃。

 『ELAPSED 43:06』は、未希が行方不明となっている43時間と合致する。


 現実世界の経過時間と考えていいだろう。

 これはもう、確定していいのではないか。


 未希は、この世界のどこかにいる。


 43時間……ということは、ニフィル・ロードでは、4300時間。

 あいつは、この世界に6ヶ月近くも閉じ込められているのか。


 人や建物が見えない平原を見渡す。


 こんなところに6ヶ月……



 行こう。


 オレは歩き始めた。

 そして、また同じように、無意識にタバコを探す手が空を切る。


 まゆからの提案で、昨日と同じ道を辿ることにした。

 闇雲に、違う方角に向かうよりも、人がいた場所を辿り、そこに賭ける方が良いだろうと。

 人がいるなら、集落もあるはずだ。


 大前提として、危険と感じたらすぐに逃げろと何度も忠告された。

 森にも入るなと言われた。

 森ではなく、林を探し、それからどうのと言っていたが、そこから先は忘れた。


 まゆは、オタクのクセに妙にサバイバル知識が豊富だ。

 なぜだと聞いたら、すべてゲームで得た知識だという。


 ふざけるなと思ったが、オレの知識はここでは、たぶん役に立たない。


 ここがゲームだと言うのなら、ゲームで得たあいつの知見に頼ろう。



 そして、歩く。

 ひたすら歩く。

 方角もわからないが、昨日見た景色なら覚えている。

 少し違う気もするが、だいたい同じだ。


 やがて、森が近づき、葦の茂みが視界に広がった。


 ログインデバイスを呼び出す。

 『 ELAPSED 00:02 』

 2~3時間歩いただけの疲労はあるし、少し喉の渇きもある。

 この世界では、この世界としての時間が流れている。


 なのに現実世界では、まだ2分以下だ。

 どうなっているんだ、ここは……



 葦の茂みに入り、そこをかき分け、オレは川に辿り着いた。

 対岸には森が広がり、その奥もずっと森。

 川の様子は昨日と同じだが、なんだか少し違和感を感じる。


 ここから下流へと川を辿る。


 羽の生えた人形は見当たらなかった。

 まゆが「妖精」ではないかと言っていた。

 写真を撮ってきて欲しいと頼まれたが、どこに写真機があるというのか。


 そしてオレは、またやってしまった。

 足の裏が痛い。

 見ると、やはり小石や小さな木くずが食い込み血が滲んでいる。

 昨日と同じように、葦を結んで、草履を作った。


 そのまま、下流へと、歩き続ける。

 煙は見えないが、昨日の光景と同じ場所まで辿り着く。


 葦をかき分け、静かに進む。

 やがて茂みの中から、犬と3人組に殺された場所を見つけることができた。


 犬も男たちもいなかった。

 焚火の跡もここからでは確認できない。


 茂みから出て近づこうとしたら、ふと足の裏から、小石でも小枝でもない感触に気が付く。


 足元を確認してみると、白い破片が散らばっていた。

 拾い上げてみる。


 軽い。そして、表面がざらついている。

 仕事場で1度だけ触れたものに似ている。


 これは……



 骨片……か?




2章までのお付き合い。

本当にありがとうございます!

読んでいただいた時間が無駄にならないよう、研鑽してまいります。


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