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【書籍化】脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。(web版)  作者: サエトミユウ
8章 聖属性の魔法使い、イベントをこなす!

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第99話 メデリア・ドラマティカの処置 上

 本来なら、養子に向かった先でも地獄が待っていたはずだ。

 メデリアは義弟を認めず、養子入りを拒む。そのため公爵もちゃんとした養子縁組をせず、遠縁から預かった子どもということにした。そんな状態なので使用人にも舐められ大小の嫌がらせを受け、それを公爵も黙認する。

 それを救ったのが主人公だったはずだ。

 何気ないひと言でヴィクターは心が軽くなり、彼女に心酔する……はずだが、主人公の暗殺を闇ギルドに依頼したのはヴィクターだ。ゲームのシナリオに齟齬がある。


 私はその齟齬に違和感を持った。

「……何か思い出せてないの?」

 わからない。

 ただ、闇ギルドに依頼したヴィジョンが視えたのはそんなに昔ではない。

 幼少時に視たヴィジョンは、アドリアン様とオーレン様、バルトス様から厭われ粗雑に扱われ断罪されることと、義弟をいじめていたがため、入学して主人公の優しさに触れた義弟が真面目に勉学に励み、アドリアン様たちと一緒に私を蔑むようになるヴィジョンだ。


 もうそのヴィジョンは視ない。

 だから代わりにそれを視たの。


「……ッ!」

 ――また視えた。

 義弟が……牢獄で私の名を呼んでいるヴィジョンが。私を責めるヴィジョンが。


 ……と、お父様に声をかけられた。

「ヴィクターが、お前に会いたがっている。お前は指示していないだろうが……お前のためを想い、暴走した。アレは、お前に心酔しお前が王妃になることを願っていたからな。……最期に会うか?」

 そう問われて思わず首を横に振ってしまった。

「私は……本当に、命令なんかしていません。主人公……いえ、リリスは聖女ですから」

 聖女に害をなしたら、それこそ私の人生が終わる。だからアドリアン様にもすみやかに婚約解消するように頼んだし、できるだけ関わりなく過ごそうと心に決めていた。

 唯一、レイヴン様から殺される可能性だけは潰せなかったけれど……私は主人公に手を出していないから、その可能性は低いはずよ。

「そうだな。お前はわきまえているし、優しい子だ。ヴィクターに罵られたら気鬱になってしまうだろう。……わかった、断っておく。アイツが暴走しただけだ」

 お父様が申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。

「すまなかったな……。本来、養子には別の、もっと明るく元気な少年にする予定だったんだ。もともとその家にも養子で入っていて、それでも明るく社交的で友人も多いタイプだったんだよ。だが養父母が嫌がった。その子自体も嫌がってな、自分の双子の兄……養子に出ていないほうの子を推薦した。双子なら同じだろうと思ったが……来たヴィクターを見て失敗したと思った。あまりにも似ていないから。真逆と言ってもいい。暗い瞳で常に俯きがちの細い少年だ。逆に、お前に懸想する心配はないかと思ったが……お前の優しさに触れて、針が振れたように心酔してしまった。あらゆる面で心配で、正式な手続きは卒業後にしようとしていたんだ。正解だった」


 私は息を呑んだ。

「ヴィクターは……まだ養子縁組していなかったんですか?」

「あぁ。ヴィクターにもそのことは伝えていた。『実力を見て考えたい。だがどんなに遅くても卒業までには結論を出す』とな。学ぶ姿勢は非常に良かったし、お前が王妃につくのを楽しみにしているようだったので、お前にとってもよい弟だと判断していた。……だが、お前に心酔しすぎていることと、社交面での不安があって、そこが解消されるまでは養子縁組の手続きはしないつもりだった」


 乙女ゲーでそんな設定、あったかしら……。本編にはあまり関係がないから出なかった……? いえ、関係はあるわ。だって、主人公に絡む人物だもの。公爵令息と子爵令息では大きく違うわ。

 私が混乱していることも知らず、お父様は独り言のように続ける。

「……スコール君が来てくれれば、こんな騒ぎにはならなかっただろうな。だが……いや同じ結末だったか。もともと打診していたスコール・ボクシー子爵令息は、ヴィクターに隷属魔法をかけられ意思を奪われて奇抜な言動を起こし、評判をさげていた。そこまで双子の兄を厭うヴィクターが、もし当初の予定どおりスコール君を養子に迎えていたとしたら、それこそ公爵家自体を暗殺のターゲットにしたかもしれない」


 私はお父様の言葉を信じられない思いで聞いていた。

 私にとっては優しい義弟だった。

 年下だけれど歳が近くて、まだ育ちきっていない線の細さが魅力的だった。

 髪色が似ているので「本当の姉弟のようね」と言うと、うれしそうに笑っていた。

 あれも全部、演技だったの?

 本当に、そんな恐ろしいことをしでかそうとしていたの?


 お父様は私の顔色が悪いのを見てとり、優しく言う。

「ヴィクターには会わせない。私が会う。……何か、伝言はあるか?」

 私はしばらく黙った。

「……どうして、そんなことをしたのかって、聞いてください。私は望んではいなかった。本当は……静かに暮らしたかった。アドリアン様の婚約者にも、最初はなりたくなくて……いろいろ条件をつけて、失礼なことも言って……。それでもアドリアン様が私とこの国を治めたいと言ってくださったから、私は王妃としての勉強を頑張りました。でも私は、本当は静かに暮らしたかったんです。だから、主人公……リリスとはかかわらないようにしてきたんです」


 お父様もしばらく黙った。

「……わかった、尋ねておこう。だが……私にもヴィクターの返答はわかる。お前にはわからないんだな」


 なぜかお父様が疲れたように呟いた。


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2026年8月17日 電撃の新文芸より発売
脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。2


著者:サエトミユウ / イラスト: とよた瑣織



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