第85話 恐怖の調理実習、終了したのである!
レイヴンは、フレイヤの手を取り丁寧に教えている。
レティシアが目を見開き食い入るように二人を凝視しておりますが、フレイヤは真剣ですからね! 邪魔しないでね!
着火はなんとか成功した。
他の班も、魔導具を使って着火したようだ。
「このあとは何をいたしますの?」
フレイヤが尋ねるので、答えた。
「お湯が沸くのを待ちます」
フレイヤがキョトンとする。
「……それだけですの?」
それだけなんですけど、それらしく答える。
「お湯が沸くのを待つのも大変よ? いつ沸くかわかんないし。……あ? 沸いているのを放置するのは絶対にダメだからね! ちゃんと、お湯が沸くのを確認してね!」
やらかしそうなフレイヤに注意すると、フレイヤが慌てる。
「わ、わかりましたわ」
うなずいて、ちゃんと見張りだした。
そして、尋ねた。
「お湯が沸いているかどうかは、どう判断しますの?」
そっかー。
沸騰を知らないかー。
「ジーッとじゃなくていいから、鍋の中の水を観察していてね。ちょっとずつ中の水が変化していくから」
「そうなんですの!?」
フレイヤが驚く。
そしてジーッと鍋を見つめるフレイヤ。
こういうところ、素直で本当にかわいいって思うわー。
「……あ! 泡が、泡が出てきましたわよ!」
フレイヤが目を輝かせた。
「そうそう。この泡がね、もっと大きくなっていくのよ。ボコボコって音を立てて泡が激しく出てきて、湯気がもうもうとたったらお湯が沸いている証拠。……で、お湯は熱しすぎると湯気……つまりは熱い空気に変わるから、だから見張ってないとダメなのよ。全部空気に変わったら、お湯がなくなっちゃうでしょ?」
「そうなんですのね!?」
フレイヤが驚き、私をまじまじと見た。
「リリスって……博識ですのね。成績が良いのもうなずけますわ」
感心されちゃったよ。でもこれ、前世の知識の気がする。それに、これくらいはみんな知ってる気がする。
フレイヤはお嬢様だから、気にしたこともなかっただけだと思うわー。
そんな会話をしているうちに、ボコボコと音を立ててお湯が沸いた。
「よし! これで完了。……フレイヤ、いい? もしフレイヤが『スープを作れ』って言われたら、これをあげてね。そして、こう言うの。『私が習ったスープはこれで、味付けは各自お願いしますわ』って」
フレイヤが、口をぽかーんと開けて私を見た。
「……これは、お湯ですわよ?」
「違いますー。これはスープなんですー。味付けは、好みがあるから勝手につけてねってこと! わかった!?」
「わ、わかりましたわ……」
納得しきれないフレイヤ。
あと、ちょっとどころではなくガッカリしているフレイヤ。
うーん、さすがに誤魔化しきれないか。
「……じゃあ、味付けをするけど」
って言ったらフレイヤだけではなく、レイヴンも瞳を輝かせたし!
「まず、簡単なところから。……器に、ドライフルーツを入れます」
「「え?」」
二人から疑問の声があがったけど。
「簡単なのからって言ったでしょうが! これにお湯を注ぎ、しばらくおきます」
二人が黙って見ている。
「柔らかくなったら完成です。ドライフルーツは、甘みの強いものがメインで、あと酸っぱいのも入れるとアクセントになるかな。甘みが足りなかったら、ちょっとだけ砂糖を足すといいよ」
って言ったら、フレイヤが呟いた。
「……これは、スープですの?」
「フルーツスープだよー。簡単だし、栄養もあるよ。甘くておいしいし」
「そ、そうなんですのね。……さすがリリスですわ。物知りですわ!」
ですわですわと言われてしまったが、若干誤魔化してます。どちらかといえばフルーツティーだよね。
「あとは……アレか、定番の乾燥野菜とジャーキー。ジャーキーは細かく裂いてね。入れすぎるとしょっぱいから、気をつけて。これにお湯を注ぎます。……で、これも柔らかくなったら完成。飲んでしょっぱかったらお湯を足し、薄かったらジャーキーを足す。オーケー?」
「オーケーですわ!」
ようやく知っている感じのスープが出たので喜ぶフレイヤ。
「なるほど……味付けは各自、とはこういうことですのね。そして、とっても冒険者らしいですわ!」
感心しまくるフレイヤ。
私はチラッとレイヴンを見る。
レイヴンが苦笑しながらフォローした。
「そのとおりだ、かわいいレディ。魔法士団なら調味料や食材をたくさん運べるのだろうが、冒険者はそう運べない上に、長旅もする。乾燥した食材は軽くてかさばらないので必需品だ。こうやってお湯に注げば立派なスープになるしな」
「乾燥パンとチーズを乗っければ、よりおいしいよ」
って言ったら、二人がさっそくやり始めた。
コーデリア・セイジクラウン先生がものすごくホッとしている。
他の班も、どうにか作ったらしい。
「でも、リリスのアイデアでいいかなって思った~」
と、レティシアが言った。
ノエルも大きくうなずく。
「も、もし騎士団からスープを頼まれたら、お湯を渡す……」
と、オドオドしながら辛辣な決意を固めたノエルだった。




