第84話 いよいよ恐怖の実習が始まったのである
私は、料理をしたことのあるメンツを集めた。
頼れる孤高の冒険者レイヴンと、実家の手伝いをしていたノエル、魚を捌くのは任せて~のレティシア。
そして、水属性だからか皿洗いから始まり各種洗い物を任されその過程で家事が得意になったというジャック・アクアリオ君とトム・ミズハラ君。
土属性で開墾させられてばかりいた過程で畑作業から料理が得意になったらしいベン・ストーンリッジ君。
これらが集結し、『パンがないならお菓子を食べればいいじゃない』のご令嬢ご令息がたへの対策を練ることにしたのである!
「野外演習のみクリアすればいいんだろう? 大惨事を引き起こしそうな連中は、全員魔法士団以外の就職先を希望しているんだ。何も料理を作れるようになる必要はない。見学させて、無難に調理実習と野外演習を終わらせればいい」
と、レイヴンが一見にして建設的な意見を言ったんですが。
「誠に遺憾ながら約一名、冒険者を目指しておりましてですね……。調理実習にも野外演習にも、非常に意欲的なのであります」
私が懸念点を出したらば。
「…………」
レイヴンが黙っちゃったよ。
あ、他のみんなもだ。お通夜みたいな雰囲気になっちゃった。
レティシアが思いついたように顔を上げ、
「……えっとー、フレイヤに関してはリリスに任せた! 他の子たちは、私たちがなんとかするよ~」
とか言いだしたんだけど!
「「「「「賛成」」」」」
って、私以外が言う!
「無理だよ! フレイヤって、攻撃魔法以外の実習で、たき火を業火にしたんだよ!?」
その様は、お焚き上げかキャンプファイヤーかってくらいすごかったんだから!
私がさんざんゴネると、サポートでレイヴンがつくことになった。
その代わり、私とフレイヤとレイヴンが作った料理はその三人で食べ尽くしていい、ってことでまとまったのである。
レイヴンが空を見ながらつぶやく。
「……天国か、はたまた地獄か」
「地獄に一票!」
「奇遇だな、私もだ」
レイヴンとそんな言い合いをしつつも、調理実習の日を迎えたのである!
*
当日、コーデリア・セイジクラウン先生の顔色が悪い。
「通常、野営ではあまり煮炊きをしません。手持ちの携帯食料でしのぎます。ですが、スープくらいは作らされることがありますので、その程度はできるようになってください」
スープかあ。
材料を放り込んで煮ればいい……いや最悪お湯を沸かして塩コショウして出せばいいかな! どうせ騎士団用でしょ? よし、フレイヤには最低限のお湯を沸かせるようにさせよう。それに塩コショウ……ううん、味付けもヤバいね。やめとこう。お湯だけでいいや。
「……リリス、どうする?」
レイヴンが声をひそめて尋ねる。
「お湯を沸かせるようにさせよう。まずはそこから」
「なるほど、いい手だ」
レイヴンがうなずいた。
班分けをしたとき、私とレイヴンがフレイヤの両側についた。
それを見て先生が安堵の息を吐く。
いやまだこれからだから!
私が顔をしかめると、先生が気づいて声をひそめて尋ねてきた。
「……どう対応するつもりでしょう?」
「お湯を沸かせるようにします。味付けは各自で、ってことで」
先生が笑顔でうなずいた。
「なるほど、いい案です。どうせ飲むのは騎士団ですし、今度知人にも伝えておきましょう」
先生の知人って……あ、なるほど、現役魔法士団ですね。
フレイヤに火魔法は使わせない。
「フレイヤ、いい? これから先、フレイヤに『火魔法を使って火をおこせ』って言ってきた奴がいた場合のみ、火魔法を使うことにして。それ以外は、レイヴン……こちらの経験豊かな冒険者の持つ、この着火の魔導具を使うようにしてね!」
火魔法を使おうと意気込んでいるフレイヤに釘を刺した。
フレイヤは、前半の私の言葉に不満顔、後半の言葉で目を輝かせる。
「冒険者は、それで火をおこしますの!?」
「その通りだ、可憐なレディ。これは使いやすいが値段は高めだな。だが冒険者を目指しているのなら、こういった必需品はケチらずいいのを揃えたほうがいいよ」
「わかりましたわ!」
レイヴンがフレイヤを誑かし……いやうまいこと丸め込んでいる。
フレイヤは、『冒険者』というワードに弱い。
しかも、当主様を尊敬している。
当主様は『剣が最も得意だ』と言っていたけれど大規模範囲攻撃魔法も得意らしく、そんな当主様を尊敬しているフレイヤの火魔法も、そりゃあもう高火力だ。
先生は、『上級魔法ばかり使うのではなく、適宜、一番効果があり、かつ数を撃てる魔法を選択して使うのも実力ですよ』と説教していたが、フレイヤはどうも高火力で大きな魔法を使いたがるんだよね。
弱火を知らず、業火のほうがいいと思ってる。
なぜなら料理をしたことがないから!
でもって、当主様の逸話で高火力の魔法を使って敵を倒したってのがあるから!
なのでもう、フレイヤに攻撃魔法以外での火魔法を使わせることを諦めたのである。
先生は先生だから何度も諭していたけれど、私とレイヴンは先生じゃないのでとっくに匙を投げてるよ!




