第83話 いよいよ恐怖の実習が始まるのである
授業は、来るべき野外合宿へ向けての準備というか訓練的内容が増えてきた。
最初にやったデイパックに荷物を詰めるから始まり、徒歩訓練、攻撃魔法以外の魔法訓練、そして調理実習。
家事関係ねえ!
って思ってたら調理実習がきましたよ。
「ドキドキするねえ……」
「ああ。さすがの私も呑気に『君の白く繊細なその指で紡ぎだす美食の数々を楽しみにしている』なんて言ってられないな」
「いや言ってんじゃん」
緊張感が足りない!
ここまでで、あれだけ不安を口に出していたシエラは、まったくもって問題がないことが判明した。
研究職で蝶よ花よと育てられていたらしいし何もやったことがないのは確かなんだけど、やったことがないだけでできないわけではなかったのである!
「シエラ、むしろ優秀じゃん。なんであんなにビビり散らかしてたのよ? これ、貴族科に行ったら後悔してたレベルよ?」
「えへへ、ありがとう。でもリリスが丁寧に解説してくれたり、あとは実家でもやっていたことが出たからできたのよ」
緑属性ゆえに、植物がある場所がシエラにとってのホームベースだ。森なんかじゃ無双できる。
さらに、薬学系で採取は必須。
蝶よ花よと育てられているはずのシエラは、しょっちゅう採取に付き合わされて山や森へ出かけていたのだそうな。
食事や洗濯、掃除はやったことがない。
でも、山歩きは普通にやっているし採取をしてそれを保管袋に丁寧に入れることもするし、もちろん魔物も倒せる。それがシエラ。
むしろ、ガチ研究職のクリス君のほうができない。
フレイヤよりはマシだけど、インドアだったんだね……と背中をさすりたくなるほどに体力がなかったり攻撃魔法以外が使えなかったりした。
かわいそうな目で見ていたら、クリス君が弁解しだしたし。
「……うちは、攻撃魔法の研究をしているんだよ。演習場で、魔法を撃つだけなんだ。それをレポートにまとめている」
魔法の研究は、国に採用されるとお金になる。
魔法の登録は早い者勝ちではあるものの、レポートが素晴らしければそのレポートが評価されて買い取られる。
つまり、既存の魔法でも研究結果しだいでは国からお金をもらえるんだってさ。
魔法士団でこき使われるより、細々と領地経営をしながら領内のみ自衛のための魔法士団を組み、冒険者と一緒に狩りをして、魔法の研究で一発当てる……って低位貴族もそこそこいるらしい。
魔法士団は、寄親が騎士団を持っていて寄子に魔法士団を出せというパターンが多いっぽい。
あるいは、爵位を継げず他に職がなく、魔法士団に入るしかないってパターン。
ノエルやレティシアはこのパターンなんだってさ。
永久就職もあるけれど、低位貴族はあんまり政略結婚がないから自力で捕まえてね~って貴族は多いらしい。
事業の提携なんかで子ども同士を結婚させる……ってのは、あることはあるけど滅多にないそうだ。
「だって、大人の契約に子どもは関係ないから~。気が合えば結婚するかもしれないけど~、気が合わない同士で結婚したら大変だもの~。それこそ大人の契約に皹が入るかも~」
「それはそうだね」
レティシアがわかりやすく解説してくれたよ!
クリス君は嫡男ではないけれど、親から『自立せず研究職を手伝ってくれて良い』と言われたそう。
というか嫡男は領地経営が忙しいので研究職が足りないらしい。
内包魔力は年々減るらしく、内包魔力の多い若者が必要で、またクリス君はレポートをまとめるのが上手いのだそうな。
……クリス君こそ貴族科でよくね?
って思いましたが、大変な思いをしながらもクリス君は絶対に魔法科から転科しないぞという決意のもと、がんばってます。
……って、話は逸れたけど、そんな優秀なシエラも手を出したことがなく、家事どころか体力も攻撃魔法以外も皆無と判明したクリス君や、最大の問題児であるフレイヤを抱えた調理実習が始まるのである!
レイヴンすら『試食が楽しみ』って言わないもんね!
コーデリア・セイジクラウン先生が沈痛な面持ちで私に相談しにきた。
「……リリス・ヴァリアント。あなたに頼るのは間違っています。ですが、本当に私一人の手には負えないかもしれません。あなただけが頼りです」
……さすがに、『じゃあ私、退学しますね!』とは冗談でも言えない。
「わ、わかりました。私もできるだけフォローしますから」
恐らく必修教科でなくてもフレイヤは『家事』を選択しただろうし、クリス君は『家事を選択しなければ野外演習は不参加になる』ってなったら家事を選択しただろう。それくらい、魔法科のみんなと和気藹々と過ごすのを楽しみにしているから。
なので、『ドキドキ☆お貴族様だらけの調理実習~いったいぜんたいどうなっちゃうの~!?』は避けられないのだ。




