第82話 問題児と和解したのである
そうそう、以前うちのクラスに飛び込んできたヤバげな一年生。
何をしでかすかわからないと危険視していたんだけど――。
「リリス先輩、こんにちは!」
次に会ったときに、急激に態度を軟化させた。
もちろん、最初はみんな警戒していたよ?
当主様を英雄視しているのはいいとして、それをこじらせて周囲や私に襲いかかる可能性があるもんね。
だけど、
「すみません。どうしても自分を知ってほしくてがんばりすぎました」
って謝ってきたのよ。
いや、それにしたって……。
「がんばったというか、襲いかかろうとしていたよね?」
とズバンと言うと、首を横に振る。
「そんなことは思ってませんよ」
真面目な顔で言う。
「じゃあ、なんでフレイヤに叱られたとき、凝視していたのよ?」
と、聞くと、また首を横に振る。
「そんなことしていません」
「してたって」
「なら謝ります。すみません」
私は顔をしかめる。
……この子にとって、あれらは普通の反応なのかもしれない。
となると……。
『あなたの言動は普通じゃありません』って、言いづらいよね。
私はため息をついて説得を諦める。
「……わかった。もういいよ。でも父様に目をかけてもらうために私を利用しようとしても無駄だから。私は婚外子で、奥様……義母様の娘は貴族科にいるからね」
「はい。わかりました」
たぶんわかってないだろうけどね、と思いながらそれでおしまいにしたんだけど。
うん、わかってないようで、やたらめったらまとわりついてくる。
無駄だって言ってるけど、無駄だとは思ってないみたい。
「荷物をお持ちします!」
とか、
「昼食をご一緒させてください!」
とか、
「一緒に帰りましょう!」
とか、攻勢がすごいのよ。
下僕レベルなんだよね。
なんなら朝も待ち伏せしているようだったんだけど、クランハウス近辺は警戒が強く、不審者がウロウロしているとすぐに憲兵が飛んでくる。
何度かしょっ引かれたらしくって、しかも私の名前を出したばっかりによけいに警戒され、ちょっとでもクランハウス近辺に近寄ろうものなら憲兵が飛んできて、さらには学園に通報されて、両親の呼び出し一歩手前までいったそうだよ。
こう……語るかぎりはヤバいんだけど、実際はそこまででもない。
普通にしているぶんには、明るくて朗らかなのよ。
度を超した私へのへりくだりがなければ、人気者でクラスのリーダーになってそうな感じなの。
でも、私にまとわりついているがために、クラスから浮いちゃってるのよ。
ちょっと心配なんだけど、スイッチが入らないかぎり、いい子なのよね~。
ただ、ふいにスイッチが入るときがあって、それがわからないからイマイチなじめてないみたい。
魔法科一年の先生なんか、
「年頃で不安定な時期なのかもしれません。先輩として少し目をかけてやってくれますか」
と頼んできた。
レイヴンがビシッと、
「それは教師がやるべきことだろう? 私たちは学びにきているんだ、手のかかる生徒のめんどうを見にきているんじゃない」
と、断ったけどね!
私なんかはうっかりうなずきそうになっていたから、「レイヴンスゲー!」って思っちゃったわよ。いや声に出して言ったカモ?
コーデリア・セイジクラウン先生は、何か言いかけて呑み込んだ様子。
予想としては、
「魔法士団に入るのなら、後輩の面倒を見るのも勉強になる」
辺りかなーって思った。でも、私もレイヴンも冒険者志望なので通用しないってわかったのよね。下手に押しつけると、
「じゃあ私、退学しますね!」
って言うだろうから。そのとおりだけど。
――とはいえ、嫌がれば引くのでそこまでめんどくさい奴でもないんだよなー。
実際、スイッチが入らなけりゃいい奴だし。
最初ビビってたノエルやシエラも最近は普通に会話しているし、フレイヤも警戒していたけど謝罪されて下手に出られてからは懐柔されたっぽい。
警戒しているのはレイヴン。
あと、クリス君。
クリス君はレイヴンと何某かヒソヒソ話をしているのよ。
気になるけど、近づくとやめちゃうので私には聞かれたくないらしいと判断。
……いいけどね。
授業もいよいよ大変になってきたし。




