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【書籍化】脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。(web版)  作者: サエトミユウ
7章 聖属性の魔法使い、2学年になる!

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第81話 ケイラ・ヴァリアントのバケーション 下

 お父様が戻ってきた。


「ケイラ! 無事だったか!」

 部屋に飛び込んできたお父様に驚き小さくうなずくと、お父様は私を抱きしめてくれた。

 ……お父様に抱きしめられたのは、初めてかもしれない。

 あまりの驚きに固まっていたら、お父様が慌てて離れた。

「悪いな。淑女にすることじゃなかった。……でも、無事で本当によかった」

 そう言うと、私の頭を撫でる。


 ……この人が、私の本当の父じゃないなんて。

 リリスだけが血のつながった娘なんて。

 優しく微笑むお父様を見ながら、私はそう思った。


 お父様はお母様を見舞い、そしてリリスの母親に御礼を言っていた。

「当然のことをしたまでです」

 そう言いながら微笑む、リリスの母親。

 ……本当はアンタが仕組んだんじゃないの?

 そう言いたかったけど、誰も味方のいないこの屋敷でそんなことを言ったら、お父様にまで嫌われるのは確実だったので呑み込んだ。


 お母様も意識が戻り、お父様と何かを話し合っている。

 犯人についての心当たりだろう。

 お母様がリリスの母親を訴えればいいのに……と考えていると、私も呼ばれた。


「……えっ? 本当ですか?」

 私は耳を疑った。

 毒入り菓子を持ち込んだのは、私の侍女を務めていた女だったそうだ。

 動機はわからないが、誰かに頼まれたんじゃないかということだった。

 ……そういえば、お母様が血を吐き、私も嘔吐したというのに何もしなかった。

 というか、出ていかなかった?

 開け放たれたドアから飛び込んできたのがリリスの母親だったような気がする。

 そしてその侍女はほどなく見つかったそうだ。……死体で。

 口封じされたようだ。


 彼女は新入りではない。

 そこそこ長く勤めていたのに裏切ったのは、よほどのことだったのではとお母様が沈痛な面持ちで語る。

「……お母様。もう大丈夫なんですか?」

「ええ。リリスの聖水が効いたわ。ただ、血を吐いてしまったり体力をつかったりしたので、安静にしているだけよ。もう少し休んだら普通に動けるようになるわ」

 お母様が微笑みながら返す。

 その微笑みに、私もぎこちなく微笑み返す。


 ……心境は複雑だ。

 リセットしたい気持ちと、本当にそうなったときに私はどうなるのかという気持ちで揺れている。

 この世界での、(主人公)の設定を聞いたから――。

 もしもお母様が死んだらお父様は私を平民の子として外に出してしまうかもしれない。

 それが怖い。


 私が俯いていると、両親が視線を交わしている。

「……なぁケイラ。無理強いはしたくないんだが――隣国への留学を考えてくれないか?」

「えっ?」

 私は驚いて顔を上げ、お父様を見つめる。

 お父様は心配そうに私を見つめていた。

「コンスタンスが血を吐いて倒れ、ましてやお前まで毒入り菓子を口にして、そうとう怖かっただろう。だけど、このままあの学園に通ったら、またそんな目に遭う可能性があるんだ。そうなったとき……お世辞にも仲がいいとは言えねぇリリスに頼れないだろ? だからケイラ、お前だけでも隣国へ一時的に逃げていてほしいんだ」

 私は放心してお父様を見つめ続けた。


 ……結局、物語の強制力が働いた?

 お母様は死ななかったけど毒を飲まされ、その結果、私は隣国へ旅立つことになる。

 婚約者はいなかったけど、私が好きになったレイヴン様はリリスと仲良くなったし……齟齬はあるにしろ、大筋は一緒。

 なら……。


「いきます。私、隣国に留学します!」

 この展開は、都合がいいわ!

 物語では追い出されてほとんど無一文だったけれど、私はお父様のバックアップで大手を振って隣国に留学できる!

 もう一度、隣国でやり直すのよ!

 これで物語がちゃんと進むのよ!


 お父様とお母様がホッとした顔で再び視線を交わし、お母様が私を抱きしめる。

「私が不用心にいただき物を食べたりしたから、怖い思いをさせてしまったわね」

 お母様が謝ってきた。


 お母様、しかたがないのよ。

 これは物語の強制力なの。死ななかっただけよかったのよ。


 お父様も、私の頭を撫でながら諭してくる。

「学園に手紙を出し、手続きをしておく。お前は気兼ねなく隣国で楽しく過ごせ。……でもな、気をつけて暮らせよ。寄ってくる人間をちゃんと見ろよ? お前は生粋のお嬢様で、口のうまい奴にかかったら赤子の手をひねるより簡単に籠絡できる。あと、もらい物は絶対に口にするな。聖水も常に持っておけ。どうしても口にしなきゃなんねーときは、まず聖水を飲んでから口にしろ。それで何があっても解毒されるはずだ。念押しでさらに聖水を飲んどきゃ完璧だな。……わかったな?」

「…………はい」

 聖水って……リリスの魔法で作った水でしょ?

 私も聖属性の魔法使いのはずなのに……。

 でも、毒が怖いから持っておこう。


 私は、護衛とともに隣国へ出立した。

 ちょうど新学年への切り替え時で、転入生はそこそこいるはずだからタイミングがよかったと言われた。

 隣国は、私の国と同じ言語なのもよかった。


 護衛は冒険者らしい。

 でも、護衛を専門にしている冒険者なので身なりも良いし、お父様より粗野な感じがない。

 よかった。

 安心して隣国へ行けるわ。

 隣国へ行ったら……そう。いよいよ私の物語が始まるのよ!


【お知らせ】

 脳筋聖女のコミカライズが決定しました!

 月刊プリンセス2026年10月号(9月4日(金)発売:秋田書店)より連載開始でーす。

 オールラウンダーズ!!に続いて2つ目の月刊誌です! やったね!


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2026年8月17日 電撃の新文芸より発売
脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。2


著者:サエトミユウ / イラスト: とよた瑣織



― 新着の感想 ―
隣国で何が起きるんだろう?まあ主人公ムーヴ噛ますんだろうけど。
ケイラお嬢様。 現実に生きている人間と思っていないから、実の母親すら都合が悪いなら殺そうと思えるんだろうけど…なんでここまで頑なに物語の世界だと思い込めるんだろう。 すべてが自分本位のモンスターすぎる…
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