第77話 ツンデレと勘違いされたのである
萎れてしまったシエラの扱いに困り、別の人に話を振る。
「クリス君はどうする気? 先生のあの言いっぷりじゃ、研究職って明らかに貴族科みたいだよ。不要とまでは思わないけど、やりたくない科目をやらなくて済むんだから、転科はアリかもよ」
「いや、僕は転科したくないから必修教科を真面目に受けるよ。野外合宿も参加する」
と、クリス君は躊躇いもなく言い切った。
シエラも、揺れている感じの他の男子生徒も、驚いてクリス君を見ると、クリス君はキッパリと告げる。
「僕の両親も、祖父母も、貴族科だった。でも、後悔していたんだ。学園で勧められて貴族科に行ったし行かせてきたけど、魔法科は楽しそうで魔法科同士の結束も固く、貴族科で魔法を習っている身としては非常に眩しい存在だった、転科しようと何度も思ったし先生に打診したけれど、逆はともかく貴族科から魔法科への転科は勧めないし苦労するのはわかっているので受けられないと言われたそうだ。……たぶん、この必修教科と合宿のせいだと思うけど……。だから僕は魔法科に残る。貴族科に転科したら絶対に後悔すると思うから」
それを聞いた別の男子、深くうなずいた。
「僕も残るよ。授業が嫌で貴族科に移ったら、後悔する。なら、授業が大変だと愚痴りながら魔法科の皆とがんばりたい」
え、私は愚痴らないよ? 大変だと思わないし。
レイヴンも愚痴らないだろうし、伯爵令嬢のフレイヤはむしろ意気込んでるよ?
……って思ったけど、愚痴りそうなクリス君がうなずいたので、クリス君と愚痴り合うんだろうなと納得した。
それで、揺れていた男子の決意が固まり、全員転科せずに魔法科でがんばることに決めたようだ。
シエラも納得しかかったけど、逆にクリス君が止めた。
「シエラは、本当にいいの? 流されないで、ちゃんと考えたほうがいい。君の考え方は非常に貴族的で、そして、今後も貴族として生きることが決まっている。ならば、リリスのアドバイスどおりに貴族科へ転科したほうが、結果的に君のためになると思う。少なくとも、コーデリア・セイジクラウン先生にはもっと相談するべきだよ」
え、両親にじゃなくて?
……と、私もシエラも思ったので小首をかしげる。
「君の両親は、君をかわいがっているから『嫌なら授業を受けない、もしくはお金を払って男爵令嬢にでもやってもらえばいい』って言う気がする」
と、私たちの考えを読んだクリス君が説明した。
「それがウィスプライト家の考えなんだろうなって、聞いていてわかった。お金を払ってもどうにもならないのが爵位の差だから、高位貴族を避けるんだろう。民間相手はお金で解決するからそうしているんだろう。……嫌な言い方をしてごめん。でも、僕もちょっとそういう考えが理解できるから、同じだなって思ったんだ」
クリス君が申し訳なさそうに言うと、シエラが激昂した。
「違うわ! 私、そんな……そんなんじゃないわ! 私はただ、自分が何もできないのを知っているから、頼まれても、この魔法以外はできないから、だから貴族科は無理だって理解してこの学科を選んだの。本当に何もできないんだもの。普通の貴族としては無理だから、この魔法以外に何も持っていないのを知っているから、この学科を受けたのよ!」
うーん……。
私はチラッとレイヴンを見ると、レイヴンは肩をすくめる。
たぶん、レイヴンも思ってるよね。『それは本人のやる気の問題だ』ってさ。
レイヴン、刺繍したくないって理由で魔法科にきたもん。
憤るシエラに私は諭す。
「シエラ、先生に相談したほうがいいのは私も思う。あと、両親にも。ただ、さっきクリス君が言った『授業を受けない、もしくはお金を払って男爵令嬢にでもやってもらう』ってのは認められないと思う。コーデリア・セイジクラウン先生は厳しいから。私なら『じゃ、退学しまーす』って言っちゃうけど、シエラはその道を選ばないんでしょ?」
シエラが小さくうなずいた。
まぁ、普通はそうだよね。
私は続きを話す。
「シエラがお金を払って課題を私に頼んだとして。私はメイドの娘なので家事は得意中の得意だから受けるよ。ただ、私に依頼する場合は父様経由になり、それはもう法外な金額をふっかけられると思うので、オススメはしません」
それを聞いたレイヴンがからかう。
「リリスは、父親に愛されているからな」
「お互い、パパの愛が重くてつらいよねー」
と切り返したらレイヴンが黙ったよ。
シエラはちょっと怒ったように私に返す。
「……ありがとう。でも私、友達にそんなこと頼まないわ」
私は思いきり首をかしげた。
「いやあ? そこは貴族ではなくて魔法科だから、むしろ友達には気軽に頼んだり頼まれたりするものじゃないの? レイヴンの探し物だって、手伝ってあげようかって話をしたじゃん? ただ、私は父様から釘を刺されているのでお金がからむと父様経由になっちゃうって話ー」
頼まれ事が嫌なわけでじゃないし、家事は得意なので頼んでもらってかまわないし。お金を払おうとすると、そうなるよってだけ。
「別に、お金を払わなくてもちょっとくらいなら別にいいよ? 貸しにはなるけどね!」
レイヴンが笑いながら言う。
「リリスのその言葉は、一見脅しのように聞こえる」
そこで区切り、さらに続けて言う。
「だけどリリスはお人好しだから、その貸しを回収する日がくるのか、といえば、こない気がするね」
…………。
レイヴンの言葉にみんなが笑った。
「そんなことないからね!」
と、否定したけど、本気にされてないっぽい。やめてよ、まるで私がツンデレみたいじゃない!
シエラが明るい顔になった。
「……ありがとリリス。私、ちゃんと考えてみる。嫌なこと、わからないこと、できないことから逃げていたけど、向き合ってみるわ」
シエラが前を向いたみたい。




