第76話 シエラの昔話を聞いたのである
シエラは、珍しい緑属性の魔法使い。
そして、シエラの家は研究職で、薬学系だそうだ。
薬学において材料となるのは、魔物もあるが圧倒的に多いのは植物だ。
その、主たる材料である植物に働きかける緑属性を持つシエラは、蝶よ花よと育てられた(本人談)。
「しょせん子爵家だけど、薬学ではちょっと名が売れている家名なの。民間薬が多いけれど、王家と取り引きしたりもしているのよ」
と、ちょっとだけ自慢そうに話すシエラ。
もちろん、そんな子爵家にも魔法士団はあるが、騎士団はおらず冒険者に頼んでいるため、騎士団から使用人みたいな扱いをされると知らなかったそうだ。
先輩たちから聞いて驚いたそうな。
うん、私も驚いたよ。
で、貴族のお嬢様として不自由なく育てられ、学園を卒業しても家から出ず家業の手伝いをすることが決まっているシエラお嬢様は、使用人のやることを貴族がやるということが理解できなかったそうだ。
しかも、騎士団から雇われているわけでもないのに!
当然、爵位の差があるということは理解している。
貴族科に行ったらその爵位の差でシエラが苦労するかもしれないということも両親は知っていた。
おとなしい性格の上、家ではお嬢様として育てられてきたシエラが貴族科へ行きうまくやっていけるかが不安……ということで、低位貴族の生徒がメインの魔法科へ手続きを行った。
学園からは、『魔法士団へ入団するためのカリキュラムを組んでいるため、研究職に進む場合は貴族科へ入学することを強く勧める』と書かれた手紙が何度もきたらしい。
『子爵家だって魔法士団は組んでいる。攻撃属性ではないが戦えないわけではない。侮るな』
そう両親が怒って返したら、以降は手紙が来なくなったし、シエラは和気藹々とした雰囲気の魔法科で楽しくやっているのでよかったよかった……と思っていた。
今日、この日までは!
「魔法士団をナメていた、というより、よその魔法士団とシエラのトコの魔法士団が違いすぎた、って話ね」
「だ、だって……。野営の支度は使用人や冒険者がやってくれたわ? ちゃんとお金を払ってやってもらうのよ? なのに、なぜ騎士団は魔法士団にやらせるの? お金を払ってもらってもやりたくないし、代わりにこちらが出すからやってもらいたいわ!」
と、叫ぶシエラお嬢様。
レイヴンは面白そうに聞いている。
「確かに、冒険者は金を払ってもらえば、まともな依頼なら受けるだろうな」
「……うーん。私は保留かな~。その支度ってのをどこまで望んでるかがわかんないもん。シエラは、どこまで用意してもらおうと思ってる?」
と、頼み慣れているシエラに尋ねた。
「え? ……やるのは使用人だから知らないわ。私は、『準備ができた』って聞くだけだもの」
この返答に絶句し、私とレイヴンは顔を見合わせた。
――シエラが本格的にお嬢様だった件について。
恐らく、聞いていた魔法士団入団予定組、および冒険者予定組は同じように思ったでしょう。
レイヴンと私は冒険者代表としてお断りを入れた。
「悪い、私にはシエラ嬢の魔法士団と行動を共にするのは無理そうだ」
「あ、私も無理っぽい」
シエラが驚いている。
「……でも、ちゃんとお金を払うのよ?」
「金を払えばなんでもやってもらえると考えているところがもう無理そうだ」
「誠に遺憾ながら、私も同じ気持ち……。たぶんその考え、根っこが騎士団と同じだよ。『魔法士団だからなんでもやってくれるはずだ』ってのと、『使用人や冒険者だからなんでもやってくれるはずだ』って同じ考えだよ、シエラ」
シエラ、それで理解したみたい。
うなだれてしまった。
「まあまあ、シエラは魔法士団に入るわけじゃないからいいじゃない。……正直、離れるのは寂しいけど、貴族科に転科したほうがシエラのためかもしれないと思う。たぶん、行き詰まるよ。というか、寮は大丈夫なの?」
確か寮は使用人を入れてはいけないはずだけど。
「お金を払うと、掃除だけはしてもらえるの。すごく高いらしいんだけど、両親が私には無理だからって払ってくれているわ。衣類の手入れは、毎週末使用人が寮の前まで来てくれるから、彼女に渡して、手入れをされたのを受け取っているの」
マジでお嬢様だった。
「いっそ、タウンハウスに住めばよろしいんじゃありません?」
と、呆れたフレイヤもツッコむ。
「タウンハウスは……伯爵家以上の方が多いでしょう? 怖くて……」
……確かに、レイヴンというイレギュラーがいるにしろ寮は子爵家や男爵家がメイン。
というか、爵位に気後れしているがために、よりめんどくさいことになってないか?
「爵位は、フレイヤみたいな子がいると信じて、あるいは諦めて、子爵令嬢として他の貴族と慣れ親しんだほうがいいと思うよ? だって、『高位貴族が怖いから』って理由でさあ、めんどいほうばっかり選んでるじゃん? タウンハウスに住めば全部やってもらえ、貴族科に行けば使用人がやるような必修教科を受けずに済み、さらには冒険者のやるような野営を経験しなくて済むんだよ? それに……王家ともやりとりするんでしょ?『偉そうで怖いから取り引きしたくない』って弁解は通用しないだろうし、そうなったら貴族科で社交に慣れていたほうがいいと思うけど……」
と、ガチめに説教したら、シエラがますますうなだれてしまった……。




