第75話 家事を学ぶことになったのである
クリス君に、騎士団と魔法士団の仲が悪い(というか一方的にこちらが嫌っている)理由を聞いて納得したけど、私は冒険者になる予定なので関係ないのよね。
最初に出くわした騎士科がアレだったので全員アレかと思ったけれど、そうでもないのは理解した。
なぜ騎士団に入ると魔法士団をこき使うようになるのかが不思議だけれど、きっと先輩から「そういうもの」って教わったんだろうね。
*
その、『こき使われるから使用人レベルのことを覚えましょう』という趣旨からなのか、二年生から科目に『家事』ってのが加わった。しかも、必須で。
私はバッチリなのでやる意味あるのかなーと思ったけど、クラスの数人が渋い顔をしながら履修内容を読んでいる。
「これは、使用人のやることでしょう?」
って、シエラが貴族のお嬢様みたいなことを言い出したわよ。
逆に、動じていないのは伯爵令嬢なのに冒険者を目指しているフレイヤ。むしろ意気込んでいるわね。
もちろん辺境伯令嬢であるレイヴンも動じてない。
ノエルとレティシアも特に問題はないみたいね。
意外なことに、クリス君は渋い顔をしている組だ。
「クリス君は、納得してるかと思ったのに」
って思わず呟いたら、クリス君が私を見て首を横に振る。
「納得してないよ。だから魔法士団に入る予定はないんだ。うちはそもそも研究職の家系だから」
「あ、そういうことねー」
魔法士団と騎士団の関係性は知っているし、家も魔法士団ではないので『家事』を習う必要はないだろうということかー。
「先生に訴えたら?」
「必修教科なのがひっかかってて。理由があるんだろうけど……」
確かにね。
コレ、私みたいな子にはいまさらだし、クリス君のような魔法士団に入る予定のない子も必要性を感じない。
なぜ必修教科にしたんだろう?
……という疑問を、コーデリア・セイジクラウン先生がホームルーム時に答えてくれた。
「魔法科は本来、魔法士団に入団する生徒に対して、専門的な教育を行うコースです。――将来、魔法士団へは入らない生徒もいるでしょう。ですが、この学科の成り立ちとしてそういう目的のもとに設立されたということですので、魔法士団へ入団するための必要最低限な教育は、必修教科になっています。……もし、カリキュラムに不満があるのでしたら、貴族科への転科を勧めます。貴族科でも魔法に関しての教育はありますし、魔法士団へ入るための必修教科などありません」
なかなか厳しいお言葉だわ……。
シエラもクリス君も、他の不満顔だった生徒も、これで諦めたようだ。
でもさー、授業内容だけを考えるのなら、シエラやクリス君は貴族科に転科したほうがいいかもしれないと思ったよ。
貴族科は、その名の通り貴族だから使用人の真似事なんてしないと思うもん。
魔力があるのなら選択で魔法の授業を受けられるし、クリス君なんて研究職だって言ってたし、なら攻撃魔術主体の魔法科よりも、貴族科の選択授業で魔法の研究でもすればいいんじゃないかなーっと。
ただね……。
貴族科は、魔法科と違って格差社会。侯爵伯爵がゴロゴロいるので、子爵家以下の令嬢令息はもしかしたらそこで侍女や使用人みたいなことを高位貴族にさせられる可能性はあるのよね……。
どっちみちやることになりそう。
コーデリア・セイジクラウン先生は私たちを見渡した後、さらに告げる。
「繰り返します。魔法士団に入る予定のない生徒は、貴族科への転科を勧めます。……前年度、一年生のときには野外合宿を行いませんでしたが、二年生からは野外合宿があります。これは、魔法士団の野営を想定したものになります。二年生はまださほど厳しいものではありませんが、それでも慣れていない生徒には過酷と感じる内容でしょう。三年生にもなれば、野外合宿は魔法士団の野営と同等、貴族感覚が抜けない生徒には到底耐えられない内容になります」
あ、シエラとクリス君の顔色が真っ青になった。
「爵位を継ぐ、もしくは貴族籍を抜けない、魔法士団以外へ就職予定の生徒には不要な内容です。魔法科に在籍して必要のない必修教科を受けるより、貴族科で爵位を意識した振る舞いを身につけるほうが得られるものはあるでしょう。……よく考え、家族の方にも相談して、転科希望を出してください。まだ間に合いますが、締め切りは来週いっぱいです。そこから新しい必須科目が始まりますので」
コーデリア・セイジクラウン先生が、シエラ、クリス君、あと他数人の男子生徒、そしてフレイヤを、一人一人見つめながら諭すように話した。
私は視線がかすりもしなかったよ!
まぁねー、メイドの子だもん!
シエラが暗くなっている。
「……貴族科の雰囲気はわかんないけどさー、先生の言うことは一理あるよ。魔法士団は騎士団の使用人みたいな扱いで、爵位の差じゃなくて騎士団か魔法士団か、って感じなんでしょ? 逆に、魔法士団に入らず貴族社会で生きていくなら貴族科で小さな貴族社会を学び取れ、って先生は言いたいんじゃない? 全ての伯爵令嬢が、フレイヤやレイヴンみたいだとは限らないしー」
と、私も意見を言う。
「……それは、わかっているの。だけど……」
シエラが語りだした。




