第74話 ワンパン男が再び現れたのである!
廊下を歩いていると、
「おい! 暴力女!」
と、声をかけられた。
……うーん、これは私しかいないだろうなーと振り向くと……あ、前に私にワンパンでやられた奴が、鼻にデッカいガーゼを貼ってこちらを見て睨んでいる。
「鼻骨を完全粉砕してもらいたいってのなら、無料でやってあげるよ」
と、言い返すと怯んだが、また吠えかかってきた。
「お前が俺の好敵手なのを認めてやろう! だから、手合わせをしろ!」
って言ってきたよ。
「ハァ? 何様? ものを頼む態度じゃないね! やり直し!」
「お前程度にはこの口調でじゅうぶんだ! ……それとも、怖じ気づいたか? 私は休学中、修行して強くなったからな!」
ナニ言ってんだコイツ。
「リリス……。短気はダメですわよ」
フレイヤが諭してきたけど、さすがに耐えられませんわ。
ズンズン向かって歩いていくと、ニヤリと笑うワンパン男。
「よし! 今から訓練場へぶへらっ!」
思いっきりひっぱたいた。
ワンパン男、宙を舞ったね。
そのまま床にダイブしたので、馬乗りになり襟首を掴んで両頬をひっぱたき続けた。
すぐ先生が来て止めに入られたけど。
「リリスは人気者だな。嫉妬してしまいそうだ」
とか、レイヴンが気取って言うのでジロリと睨んだ。
「思ってもないことを言わないように!」
レイヴンが両手を上げ、降参のポーズをする。
クリス君がよけいな情報を教えてくれる。
「彼、バルトス・ブレイブハウンド侯爵令息は、ずっと休学していたらしいよ。修行していたらしいね。騎士団長の子息だから、そのコネを使ってあちこちの騎士団で訓練に参加したり模擬戦をしてもらったりしたんだってさ」
「最も役に立たない情報をありがと。それで、再戦を要求してきたってワケだ」
でもまぁ、ワケわかんないインネンつけてくるよりはマシになったのかな。
煽られたのはムカつくけど、私を戦える者として認めてかかってきたのなら、その意気やヨシ!
次はコッチから煽ってやろうかなーっと。
「あ、リリスがよからぬことを企んでいるわ」
「そうみたいだね~。笑顔が黒いよね~」
「リ、リリス……。相手は弱いんだから、手加減してあげたほうがいいよ……」
シエラ、レティシア、ノエルが口々に言った。
ノエルは優しいけど、一番辛辣だわー。
「でもホラ、騎士を目指しているのなら、私も鍛えてあげたほうがいいかなって! 協力してあげるんだー」
私ってば、やっさしい!
で、『見かけたらコッチが煽ってやるわあ!』と意気込んでいたにもかかわらず、なかなか姿を見せない。
「騎士科に乗り込まないとダメかな?」
「それはやめてね、リリス」
シエラが笑顔で釘を刺した。
最近、シエラが私へ教育的指導をしてくる件について……。
「わ、わかったから。やんない」
シエラ、コーデリア・セイジクラウン先生に似てきたよ。もしかして教師を目指しているのかな?
……と、そばにいた知らない男子が教えてくれた。
「あぁ、もしかしてブレイブハウンド侯爵令息を探してます? 彼なら、また休学しましたよ。もっと鍛えるんだって」
どうやら騎士科の男子だったみたい。
「えっ……ご親切にありがとうございます」
騎士科の男子は礼儀正しく会釈した。
「あれ? 騎士科の男子生徒、普通じゃない?」
思わず呟いたら、男子が笑顔で返す。
「他の科の、しかも令嬢に言いがかりをつけて暴力に訴えるなど、騎士を志す者のすることではありませんから、くれぐれもアレと他の騎士科の生徒を同じだと思われないよう、切に願います」
「あ、はい」
強めに言われたので思わず返事をしてしまった。
そうなんだ……。
魔法科と騎士科は対立しているような気がしていたけど、そうでもないのかなー。
教室に戻ってきてから、さっきの男子について話す。
「騎士科の男子、普通だった。てっきり騎士科とうちら魔法科は反目し合ってて万が一にでも目が合ったら模擬演習という名のバトルが始まるかと思ってたのに……」
全員が呆れた顔をしている。
「そんなんじゃないよ。騎士科の生徒は基本的に紳士だよ」
クリス君が言った。
「うん、紳士だった」
私がうなずく。
「ただー、魔法士団のメンバーを使用人だと思ってるだけだよー」
と、レティシアがつけ加える。
…………?
「えっと? どういうこと?」
「騎士団の連中は、魔法士団を使用人のごとくこき使うってこと。騎士科の生徒はまだ騎士ではないし、僕たちもまだ魔法士ではないから、騎士科の生徒は僕たちを貴族科と同じ生徒として見ているんだよ。でも、彼らが騎士団に入り、僕たちが魔法士団に入ったら、僕たちを使用人と同様に扱う、ってことさ」
……なるほど?
魔法士団とは、騎士団のお世話係という認識を騎士団の人たちはしていて、魔法士団に入る予定の魔法使いたちはそれがわかっているから騎士団に入る可能性のある騎士科の連中を毛嫌いしている、ということか。




