第72話 地下要塞
サルマン国王は空を見上げていた。
いや、正確には王国軍の探知班が見上げている視界を共有することで、空を見ていた。そこには巡洋艦が浮かんでいるのが見えた。
この星には空を飛ぶ技術はなかった。
先代の女神は教えてくれなかったのだ。技術的に難しいということで、あの空飛ぶ軍艦に対抗できる装備は王国軍にはないのだ。
かろうじてレーザーガンが効果があった。いや効果があるとは言えない。こちらの攻撃をいやがっている様子はあったが、撃ち落とせるとは思えなかった。
今は空を飛ぶ巡洋艦と新しい女神さまの戦いを眺めるしかない。そんな自分たちのふがいなさが苛立たしい。
国王は、そんな感情は自分の心の奥に沈めて、ただひたすら天上の戦いを注視していた。少しでも役に立つことがあればと。
そんな国王だから、またも巡洋艦が岩石弾を作り始めたのにはすぐに気が付いた。
そこにガルドから岩石弾に注意するよう念話があった。
地上攻撃をするかもしれないという話だった。だが、今日の戦いだけで何発も打ち込まれ、岩石弾の威力は身をもって味わっていた。国王からすれば、岩石弾と言えば地上攻撃しかないのだ。
そして地上を攻撃するには結界が邪魔になる。ならば、どうする?
それは…
『報告、敵船の結界消失しました!』
探知班から連絡が入った。
探知班と同じ視界を共有しているので国王にも結界が消えたのが見えた。結界は目立たないので見落とす場合もあるが、これだけ注視していれば見落とすことはない。
そして8発の岩石弾が、こちらに向けて落ちてくるのも国王にもよく見えた。
『敵船、岩石弾を発射! 全部で8発です』
探知班からの報告に、地下指令室にいる全員の動きが止まった。
「サルマン!」
ザイールが国王の名前だけ叫んだ。
何を言いたいのか、よくわかる。
「多重結界、展開!」
サルマンがぽつりと呟くように囁いた。
地下要塞の上空に3重の結界が出現した。国王が出せる結界の最大数だろう。
岩石弾の一発目が結界に接触した。結界が変形したかのように見えると、岩石弾が止まった。岩石弾の先端が結界を貫いていた。だが、それで終わりではなかった。慣性と自重で結界に負荷をかけ続けているのだ。
そこに次の岩石弾が命中した。
結界はひとたまりもなく崩壊すると、次の結界へと岩石弾が降り注いだ。
残りは2枚の結界。そして2発の勢いは殺したとはいえ、残り岩石弾は6発。
次々に結界が崩壊し、岩石弾を止めきることはできなかった。だが、少なくとも4発の勢いを落とすことに成功した。残りの4発はザイールの担当だ。
あらかじめ作っておいた魔力伝達管にザイールが手をかざすと、地上の魔力砲台から岩石弾を打ち上げた。これを落ちてくる岩石弾にぶつけるのだ。探知班の視界を使って、落ちてくる岩石弾に当てる。これができるのは王国ではザイールだけだ。
自分に向かって落ちてくる物体であれば、空中で迎え撃つのは簡単だよ。そんなことをザイールは言ったことがある。
そんな昔のことを国王は思い出した。だが、ザイールの表情と集中度合いを見れば、とても簡単なことだとは思えなかった。地下要塞めがけて落ちてきた岩石弾の2発の勢いをそいだのだ。これで地上に落ちても地下要塞への損害は軽微にとどまる。
だが残り2発は地上をえぐるように着弾した。
国王たちの要塞が震えあがった。
まるで地震を受けたような揺れだった。
そんな揺れが収まったとき、国王とザイールの目の前に岩石弾が迫ってきた。
最初に勢いを殺した4発のうちの一発が、ちょうど探知班のいる監視塔の上に落ちてきたのだ。監視塔は山頂に作られており、ほぼ地上にあると言ってもいい。地上からの攻撃に備えて山頂に監視塔を作ったからだ。空からの攻撃を考えていなかったのだ。
このまま監視塔に直撃すれば監視員は無事では済まない。
また探知員がいないと視界を共有できなくなる。こうなると迎撃ができないのだ。
ザイールが落ちてくる弾の横原に強烈な一発を打ち込んだ。軌道を変えることで監視塔への直撃を避けたのだ。これで視界一杯に広がった岩石弾が消えて青空と敵船が見えた。
地面から伸びた岩が岩石弾の落下軌道を変えたのだが、まるで岩の腕が右フックを浴びせたように見える。
「よっしゃ!」
いつもは静かなザイールにしては珍しく、右手で左掌を叩いてガッツポーズをとった。
かなり危機一髪のタイミングだった。
今、国王たちの目となる探知班を失うことはできないのだ。
結局、4発を結界で、2発がザイールの迎撃で防ぎ、残りの2発が地上に命中したが、外れ。初撃に関しては大きな損害なく対応しきったと言ってもいいだろう。
帝国の飛行軍艦はこれで終わらせる気はさらさらないようだ。すでに第二弾の準備が終わっていた。
また8発の岩石弾が投下された。
最初より明確に地下要塞を狙いを定めていた。おそらく迎撃した場所から要塞の位置を推定したのは明らかだった。
再び3重の結界とザイールの岩石弾で迎え撃った。
だが今度は要塞直上に二発と、それから監視塔への直撃を食らった。
地下最奥にある司令部ですら、揺れが激しく立っているのがやっとだった。より地上に近い地下壕の被害がどうなっているのか。
そして問題なのが監視塔を失ったことだった。すぐに別の探知班へ切り替えたが、少し離れた場所にある。視界がずれるため迎撃には使えないのだ。
「ちょっと上に行ってくる」
そう言うとザイールは指令室から出ようとした。
そのザイールを連絡班が呼びとめた。
「地上出口2番か3番を使ってください。1番と4番からは連絡が途絶えました」
「わかった。ありがとう」
そう言い残すとザイールは指令室から出ていった。
指令室に残ったサルマン国王は、上を向いて深く息を吸い込んだ。
そこにガルドからの念話が入ってきた。
『サルマン国王、大丈夫か?』
国王は正直に状況を説明した。
『なんとかな。岩石弾の威力が思ったより大きい。あと3発で指令室も破壊されそうだ』
『かなり不味いな。止められそうか?』
『わからんが、試してみたいことはある』
『それで攻撃を防げるということか?』
『うまくいけばな』
ザイールから緊迫した念話が入った。
『第2監視塔に到着した。視界を共有する』
ザイールの視界が国王たちにも見えた。空に浮かぶ巨大な敵飛行軍艦と、それに比べると小さなカグラ号だ。カグラ号が敵船の上から近接攻撃を仕掛けているようだった。カグヤ号の結界で爆発が何度も起こっていた。
『敵の艦橋を攻撃してるわ』
メグから説明が入った。同じ視界を見たのだろう。
『敵艦の弱点よ。敵の結界がない今、そこが弱点なの』
メグも視界を共有してきたので、戦いの様子がよく見えた。敵は結界を捨てたように思えたが、敵船の上部にある艦橋だけは別の結界で守られていた。
カグヤ号からの斉射で何度も敵艦橋の結界を破るが、すぐに張りなおされるようで破壊できない。一方、敵船からの迎撃も激しいものだった。攻撃はブラスター砲が主なものでカグラの結界を破るのは難しい。
カグラ号が撃ち合うためには砲台を結界の外に出さなければならない。その砲台が集中砲火を受けていた。カグヤ号はコルベット級であり、巡洋艦クラスに比べれば小さい船である。砲台は二つしかなく、一つは魔法攻撃専用であり結界を破るには向いていないのだ。
カグラ号は砲台を守るため、左右に船体を揺らして攻撃を避けていた。その動きに合わせて自動制御で狙うので的を外すことはない。とはいえ、これだけの砲撃を受け続けていれば何発かあたってしまう。とうとう、結界破壊弾を撃てる唯一の砲台が被弾してしまった。
『自動修復プログラム作動します』
カグラ号は連絡を念話で伝えて敵船から離脱することになった。
すぐに岩石弾の生成が始まった。




