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第70話 巡洋艦艦橋2

「あ、誰か結界内に侵入したかも…」


 巡洋艦の艦橋内でダルカムの呟きが響いた。小さい声で囁いたにもかかわらず、全員がはっきりと彼の言葉を聞くことができた。


 なんだと…

 生身の体で巡洋艦に突撃してきたのか?


 ダニエマルカムも探知を開始した。


 そして女神を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。そう言えば、さっきも認識阻害を使っていたな。気が付くのに時間はかかるが、いると知ってしまえば見つけられるのだ。


 まだ結界が今ほど普及していなかった昔話として聞いたことがあった。艦隊同士が戦うとき、お互い砲撃が当たらない。そこで生身で飛び出して敵艦を強襲していたらしい。そのための対人対空砲が発達したとかなんとか…


「おいおい、特攻かよ」


 ともかく面倒なのは確かだった。


「空挺部隊出動! それと対空班もだ! 修復班は作業はいったん中止だ。敵侵入に備えて対人の準備に入れ」


 矢継ぎ早に対応策を打ちながら状況を分析したダニエマルカムだったが、しょせん敵は小型コルベット一隻に女神が一人だ。こちらが有利なのは間違いないのだ。


 とにかく何発かぶち当てれば、女神と言えど諦めて帰還するはずだ。


 そこから遠征部隊をまとめて戻ってくるのに、どんなに早くても1か月。それだけの時間があれば、南大陸を掌握して証拠もきれいに消し去れば射手座連合も何もできないだろう。時間は味方だ。


 そんなことを考えていたダニエマルカムの目の前を女神が通り過ぎた。

 艦橋の真上を通り抜けたのだ。


 からかってやがるのか!


「対空砲員、何をしてる! 早く女神に一発ブチあてろ!」


 そんなダニエマルカムのいら立ちを感じたのか、ダルカムがからかうように話しかけてきた。


「気をつけねぇと空挺部隊にもあたっちまうぜ」


 ダニエマルカムからすると、たった一人といえど、どんな装備をしているかわからないのだ。少々の誤射が出ても相手を黙らすほうが被害が少ない気がした。


「同士撃ちは避けなきゃ、だな。空挺部隊に当てずに女神を狙って撃ちまくれ!」


 整備班から叫ぶように報告が飛んできた。


「右攻撃翼に損害あり。構造体への直接被害と見られます」


 砲塔なら簡単に修理できる。攻撃を食らう前提で、簡単に交換できるようになっているからだ。だが結界に守られている攻撃翼の本体に損害がでると修理に時間がかかる。修理班が修理する必要があるからだ。


「空挺部隊はどうしてる? 女神を自由にさせるな」


「はっ、30秒前に3艇が出発完了。追撃中です」


 空挺部隊からの意外と早い対応にダニエマルカムは満足そうに頷いた。


「とにかく追いかけ回せ! 何もさせるな」


 先ほどの空中戦では互角に戦ったと思っていたダニエマルカムだったが、自信過剰だったことを思い知らされた。


 探知班が共有してきた空挺隊と女神との戦いは一方的だった。


 女神の動きが、前に見たのとはまったく違っていた。いや、違う。あの動きは見覚えがある。最後の一瞬に見たやつだ。静止した状態から一気に加速する。まるで視界から消えたように見える。そして後ろをとられると機関銃の一斉射撃で一瞬にして撃墜された。


 機関銃の威力も速射性能も段違いなのは明らかだった。

 追いかけまわすどころか、飛行艇は逃げ惑うしかなかった。


「くそっ」


 今は悪態をつくしかないが、飛行部隊は時間稼ぎをしてくれたようなものだ。次の一手を考えなければ。


 そのときハリカムが叫んだ。

「結界が破壊されました!」


 その直後、再び巡洋艦を振動が襲った。

 最初のと似たような震えだ。


 艦橋の中を被害報告が飛び交った。致命的ではないが、また航行用魔導機関に被害が出た。このままだと浮くことすらできなくなる。


 奥の手ならある。


 まだ魔力備蓄装置が残っているのだ。これを稼働すれば全員の魔力量が2倍近くになる。そのまま火力も倍になる。ただし、最大戦力はせいぜい1時間程度しか持たない。


 だがしかしだ。

 単純に火力を増やしても、敵に当たらないのでは意味がない。


 ダニエマルカムは必死で頭を巡らせた。


 落ち着け。何か見落としてないか?


 戦いの目標はなんだ?

 女神と戦うことか? いや、今は国王を捕まえることだ。


 では女神は何のために戦っている?

 敵の大事なものを狙うのが一番効果的だったよな…


 ダニエマルカムの心が定まった。


「通信班。全乗組員へ念話を開始」


 ほどなく通信班が準備完了と合図した


「全戦闘員に連絡。魔力備蓄の使用を許可する。全力戦闘を開始流する!」


 通信班により巡洋艦乗組員へとダニエマルカムの言葉が伝わった。


 この艦長の命令を聞いた乗組員は緊張感が高まった。備蓄している魔力を全力で使って戦闘すれば倍以上の戦闘力を出せる。その代わり時間制限のある戦い方だ。まさに切り札であり、最後の決戦が始まるということなのだ。


 ダニエマルカムは続けた。


「戦闘班は側舷砲塔を全て稼働。岩石弾による空爆準備。目標は国王が潜伏している地下要塞。地上を穴だらけにするぞ。探知班は地上の様子の監視と、目標を戦闘班と共有」


 ダニエマルカムは一呼吸置くと、ハリカムに向かって残りの命令を発した。


「そして攻撃準備が整い次第、外殻結界を解除する。全力で地下要塞を叩くぞ。それと対空班は女神を追いかけ回して余裕を与えるな! 後は各自の判断で敵攻撃を叩き落せ!」


 ハリカムは少し驚いた表情を見せた。

 ここで防御を捨て、撃ち合いに持っていくとは予想していなかったからだ。


「ダニエ様、それでは私は攻撃班に手を貸すと致しましょう」


「おう、頼むぞ」


「ダニエ! 主備蓄装置を魔導伝導管に繋げるぞ」


「接続、了解」


 ダルカムが備蓄装置の作動レバーを握ると魔力を流し込んだ。これで備蓄装置を活性化させるとともに艦内を走る魔力伝導管に接続するのだ。


 心なしかダルカムが意気揚々としているように見える。これは間違いない。乗組員なら誰もが備蓄装置の恩恵を知っているのだ。自分の出力する魔力が倍になるのだから爽快感が半端ないのだ。


 すぐにダルカムから報告が来た。


「全攻撃翼の岩石弾の発射用意完了」


 通信班からも報告が来た。


「側舷砲塔および対空砲も準備完了とのこと」


「よし! 攻撃班に告ぐ。防御結界解除とともに砲撃開始。ハリカム、合図に合わせて結界を解除」


 ダニエマルカムが艦長席から立ち上がった。


「1、2、3解除!」


「解除!」ハリカムが復唱し、合わせて結界が解除された。


 探知班による視界共有でも、外部視野が少し透明に見えた気がする。ほんのちょっとだが結界には色がついているし光も屈折する。それが無くなったのだ。


 クリアになった外部視界では合計8個の岩石弾が地上に落ちていくのが見えた。また地上では巨大な結界がはられていたのも見えた。岩石弾が生成されていたのを見て、大慌てで対策したのだろう。


 だが、岩石弾の勢いに加えて巨大な質量を結界が抑えきることはできない。国王が敗北するのは時間の問題だろう。あとは女神の攻撃を防ぎきれば終わる。


 探知班から報告があがった。


「報告! 敵コルベットが誘導弾を発射。全6発。接近します」


「対空班、撃ち落とせ! 死にたくなければ全部落とせ!」


 ダニエマルカム艦長の必死の命令を待つこともなく、艦体のあちこちからまぶしいブラスター線が誘導弾に向かって伸びた。最初の戦闘では主攻撃翼だけだったが、今回は巡洋艦全ての対空砲火を使った迎撃だ。次々と誘導弾が爆破していった。


 だが、巡洋艦は鈍く震えた。


「状況は!?」


 ダニエマルカムの質問に通信班が答えた。


「報告! 女神による攻撃で、舷側砲塔が一機破損。対空班が誘導弾に集中している間に接近されたとのこと。各対空砲で迎撃中です」


「女神は任せた! 攻撃班は第二射の用意」


「あと2秒で準備完了ですな」


 ハリカムから冷静な報告がきた。


「やっぱ備蓄装置は早えな」


 ダルカムは顔がにやついている。


 ダニエマルカムも自分の顔もにやけているのに気が付いた。

 心が躍っているのだ。


「さあ、楽しもうぜ!」


 今までとは違う。巡洋艦の全力攻撃が始まった。


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